第17話 少年は目覚めて……

 少年は夢を見ていた。


『貴方は、どうして強くなりたいの?』


 夢の中で、かつての恩人が少年に向けて語りかけていた。それは、その人と少年が初めて出会った頃の記憶だった。


『貴方だって、その年頃にしては十分に強いわよ』


(……そんなことはないよ。だって、また僕はルナを助けられていないんだ。むしろ、ルナに助けられてばかりなんだから)


 少年は口を開こうとしたが、どうしてか言葉を発することが出来なかった。


(僕は、貴方ともう一度話をしたいんだ)


『私?私は強くなんてないわよ』


 少年の意思とは関係なく、女性は続けていた。


『どれだけ力を持っていたとしても、本当の強さを私は持っていないもの。でも、貴方にはきっと……』


 恩人の声は次第に遠ざかっていく。


(待って!まだ聞きたいことがあるんだ……)






「ソール、ねぇソール!」


 ルナは眠りについた少年の名を繰り返し呼んでいた。


「……う、うぅ」


 その声で意識を呼び戻したのか、少年が目を覚ました。


「良かった……!やっと起きた」


 ルナは安堵あんどからか、涙をその目に浮かべながらソールに抱きついた。


「ずっと目を覚まさないから心配してたんだよっ、ソール」


「……ずっと、目を?」


 ソールのぼんやりとした思考が段々と整い始める。


(今のは……、夢?)


「……!そうだ、あいつは!?」


 ソールは自分が意識を失う前の状況を思い出した。


「えっ」


「僕らを襲ったあいつは何処に行ったの?」


「……ソール、覚えてないの?」


「え?」


 ルナの言葉の意味が分からず、少年は思わず疑問の声を発した。


「ソールがあいつを追い払ったんだよ。不思議な力で」


「僕が……?」


「そうだよ。何か、私にはよくは分からないけど凄い力で」


「……全然覚えてないよ」


(確か、首を押さえられている時にルナが僕を助けようとして、それから……)


 少年は必死に思い出そうとする。しかし、


(……ダメだ、そこまでしか分からない。一体、僕は何をしたんだ……?)


 少年の記憶には、そこまでしか残っていなかった。自分が無意識の内に奇妙な力を発揮したということを知り、彼は自分自身に恐怖を覚えたのだった。


「ルナは大丈夫、なの?」


「私は平気だよ。ちょっとお腹がまだ痛いけどね。ソールが守ってくれたから」


「……そっか」


 何にせよ、少女の無事を確認し、ソールはひとまず安堵した。


「取り敢えず、ここから離れよう。またあいつが来ないとも限らないし」


 ソールは寝た姿勢から起き上がりながら言った。


「じゃあ、今日は寮の方に戻らない?昨日から人気ひとけのない所ばっかだったし……」


 ルナの提案に、ソールは一理あると感じていた。昨日と今日の襲撃者は違う人物だったが、どちらも意図的に人気のない場所で襲い掛かってきたのだ。一旦、他に人の居る場所であれば続けて襲われるリスクも減るのではないだろうか、と彼は思っていた。


「そうだね、じゃあ一旦帰ろうか」


 そうしてソールとルナは、互いを腕で背負い庇い合いながら帰路に発った。


(自分でも何が起きたのかまるで分からない……。それにしても)


 その間でもソールは心中に思うところがあった。


(僕がそんな力を持っているのだとしたら、いつかまた意識を失って、ルナを傷つけてしまうかもしれないってことが一番怖い)

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