第15話 逃避の先に

「後ろ、大丈夫!?」


 走りながら、ソールがルナに向かって叫ぶ。


「うん、もう見えないよ」


「そっか……でも、まだ安心は出来ない、かな」


 息を切らせながら、ソールとルナは細い路を駆けて行く。すると途中、枝分かれしている所に差し掛かった。


「どっちに行く?」


 ルナがソールに問いかける。


「……迷ってる時間はない。右に行こう!」


 そしてソール達は右の道へと進んでいった。それから二、三回ほど枝分かれする路にぶつかり、二人は右へ左へと直感で先を目指して駆け抜ける。




「……!まずい」


「え?」


 すると、目の前に石垣が立ちはだかる道を選んでしまった事実に、二人は直面する。詰まるところ、行き止まりだ。


「くっ、どうしよう。いったん引き返して別の道を……」


 ソールがそう言いかけた時だった。


「……!ソール!!」


 ルナが大きな声を張り上げた。


「……!?」


 声に反応して振り返ると、そこには追っ手が迫っていた。


「さぁ、追いかけっこはしまいだ」


 男がにじり寄りながら二人に宣告する。


「いい加減、こっちを疲れさせんのは止めてもらうぞ。早く持ってるモンを寄越しな」


 男は苛立ち混じりで続けた。


「……ルナ、やっぱり僕は」


「ダメだよ、ソール」


 ルナがソールの言葉を遮った。


「絶対にダメなんだから。だって、ソールは何も悪くないじゃない」


「ルナ……」


「……チッ。まだ渡す気がねぇか。なら仕方ねぇが」


 男は頭を掻く仕草をしながら、


「こっちも容赦はしねぇぞぉぉぉぉぉぉ!」


「!?ルナ、危ない!!」


「きゃあっ!!」


 ソールがルナを両手で押して庇った。その直後、ソールは男の腕に首を掴まれてしまった。


「がっ!?」


 その男の腕は、いつの間にか肩から指先にかけて土で覆われていた。少年は首を掴まれたまま石壁へと打ち付けられた。


(これも魔導か!?くそっ、締め付けられる……!)


 苦しさの余り、ソールは歯を強く食いしばっていた。


「ソール!!」


 その様子を目の当たりにし、ルナが叫んだ。


「逃げて、ルナ!!」


 土の腕に絡め捕られながらも、少年は少女の無事を優先させた。自分自身の危機もかえりみずに。


「……いや」


「……ルナ?」


「もう、守られるだけなのは、いや!!」


 そう叫び、ルナは男の胴へとしがみ付いた。


「離して。ソールを離して!!」


「……な!?くっ、鬱陶うっとうしいやつめ」


 男は少女の髪をもう片方の手で掴み、離そうとする。


「……!」


 痛みに少女は耐えながら、それでも男に食らいつく。


「くそっ、邪魔なんだよっ!!」


 男は少女の腹を足蹴にして突き飛ばした。


「がはっ!?」


 突き飛ばされたルナは、その腹を押さえ地面にうずくまる。


「ルナ!!?」


 ソールの声に、少女は反応を示さなかった。


「大人しくなったか。ふん、このギル様に楯突こうとするからだ」


「……くも」


「あん?」


「よくも、ルナをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 そう叫んだ時だった。






 少年のポケットから、白い光がギラギラと放たれた。

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