第13話 二度目の襲撃者

 二人が歩いていた街道は、普段であれば人の行き交うことが絶え間なく、荷馬車なども通るほどのちょっとした大通りだった。しかし、現在は人っ子一人さえも居ない不穏な空気を醸し出している。それは二人にとって異様としか言えない状況だった。そしてその感覚は、昨日味わったそれに似通っていた。


「なんだか不気味……」


「ルナ、出来るだけ離れないように」


 二人は漂う不気味さに、周囲を警戒し始める。


「……一体何なんだ?この感じ」


「ソール、やっぱり昨日逃げる時に人が少なく感じたのって……」


「うん、そうかもしれない」


(だとすると、この状況を『何か』で意図的に作り出しているやつが居るはずだけど……)


 ソールがそう考えていると、


「おや、どうしたんだい君たち?こんなところで」


 後方から声がした。その声の方へ振り返ってみると、一人の黒髪の青年が立っていた。


「あ、いや」


「何か困りごとかい?ぼくで良かったら力になるよ?」


 誰もいなかった静寂な空間に現れた青年に対して、多少の不安感が拭えたのか、


「あの、実は私達追われてるんです」


 ルナが青年に持ち掛けた。


「追われてる?そいつは穏やかな話じゃないな」


「そうなんです。ソール、この子が持ってる時計を渡せって怪しい人達が昨日迫ってきて、それで今日は人がいなくなって、何が何だか……」


「そうか、どうりでいつもに比べて人がいない訳だ。そいつらの仕業って言いたいんだろう?」


 コクリ、とルナが頷いた。


「その怪しい奴らが狙っている懐中時計に何かあるんじゃないかな」


 男はそう言うと、


「君、ソール君といったかな。ちょっとその時計を見せてくれないか?」


「……いやです」


「え?」


「いやです」


 ソールが再び男を拒絶した。


「ソール?」


 ルナが不思議そうにソールを見る。


「……どうしてだい?見せてくれるだけでいいんだけど」


 そう言った青年に対して、ソールはルナと共に相手と距離を取った。


「あなた、何者なんですか?」


「……どういう意味かな?」


 青年は質問で返した。




「さっきルナは『時計』と言っただけで『懐中時計』だなんて言ってないですよ。何で僕が持ってるのが懐中時計だって分かったんですか?」


「おっと、それは軽率だったなぁ」


 そう言った直後、青年の容姿が見る見る内に変化していく。服装はシャツにズボンを履いていたが、何処か民族的な衣装に黒のローブを羽織った姿へと変貌した。髪色も、黒色から灰色へと変化している。


「俺も詰めが甘いな」


 青年は容姿だけではなくその口調さえも異なるものになっていた。


(変わった!?これも魔導なのか?)


「まどろっこしいマネはナシだ。早くそいつを渡しな」


「くそっ、またなのか……」


 二度目の襲撃者との邂逅に、ソールはほとほと自分が嫌になりそうになった。


(どうする?昨日みたいにお祭りがある訳じゃない……。ルナを連れて逃げるにしても、あてなんて何処にもない。もう渡すしか……)


 そう思い、時計をポケットから取り出そうとした時だった。


「……!ダメ、ソール!」


 それをルナが必死で止めようとした。


「ルナ?」


「また私のためにもって考えたでしょ?」


「……」


 看過され、ソールは黙ってしまった。


「こっち!早く!」


 そう言って、ルナはソールの手を取り、走り出した。


「逃がすかよっ」


 襲撃者は腕を振るい、その力を行使した。


「……!?何、これ!?」


 逃走を図る二人の目の前に、突如として巨大な人影が立ち塞がった。

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