閑話 オーデルの護り
ミリオタ趣味全開で構成された話ですのでご容赦を。
後世『ノルデン陸軍史上最悪』の作戦と評されることになる、バイエルン平野打通計画、通称『オーデルの護り作戦』。
貴重な装甲戦力を多数注ぎ込んだ挙句、アウグスライヒ自慢の重装歩兵までも巻き込んで多大な損害をノルデン側にもたらしたその作戦は、しかしてプランそのものは至極真っ当な物だった。
時は大陸暦1944年、オーデル川防衛線が突破され、バイエルン平野でダラダラと続く防衛線に辟易しながら、しかし押し返すための明確な戦略を持たないノルデン軍に、痺れを切らした同盟国アウグスライヒとグレキアの参謀達が立案したのがそもそもの始まりである。
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「確かにジリジリと戦線は押されているが、逆に言えば敵兵の大部分が平野部に集結している。余力が十分にある今なら、機甲集中と突破によって打通する事も可能かもしれない」
「左様。このまま引き篭もっているだけではいずれブルボン軍の物量に押し負けます。しかしここで前線を再びオーデル川まで押し上げれば、我が方の勝利すら見えてくるでしょう」
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装備と兵員の質の差を踏まえたアウグスライヒ軍参謀の立てた作戦は実にシンプル。
『装甲戦力と重砲の集中、及び海上からの艦砲射撃によって戦線西部を粉砕し、鉄路沿いにオーデル川の沿岸までまっすぐ北に突っ切っての東西分断』
これだけである。
屈強な獣人たちとドワーフ、さらには希少な竜人族で構成される重装歩兵部隊――某タチャ〇カヘルメットと厚さ2センチの鉄板で作られたタワーシールドを装備する現代のレギオン――を擁するアウグスライヒと、155mm砲をボカスカ放ち、100mm以下の口径の砲弾をゴム毬のように跳ね返す大陸最強の重戦車を大量配備(1944年時点までに生産ラインのほとんどをノルデン型重戦車に切り替えていた)するノルデンならではの発想である。
教科書的な案ではあるが、ノルデン軍の持つ圧倒的な衝撃力さえあれば成算は高く、何より
かくして、地獄の釜が開かれた。
バイエルン平野西部のデュッセルドルフ市において、極秘裏に移動したノルデン軍最精鋭の第1装甲軍集団6個師団と250門の重砲、さらには10年以上鉄道部で保管されていた年代物の1200mm列車臼砲6門が一気に火を吹き、『最悪の作戦』でありながら同時に『最後の栄光』と称される『オーデルの護り』作戦の火蓋が切って落とされたのである。
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『第7歩兵師団より決別電が届きました。他の師団もおそらく、もう…』
『予備戦力をありったけ放り込め!このままでは戦線西部の全部隊が包囲されるぞ!』
『っ!?全員地下壕に逃げろ!戦艦砲が降ってくるぞォ!』
『前方に視認できる敵影無し!師団長殿、これは…』
『ウム。第1機甲師団の諸君に次ぐ、我らは完全に敵戦線を突破した!これより、作戦第二段階に突入する。パンツァー・フォー!』
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緒戦から猛攻に出た第1機甲師団、そしてしっかりと後詰めの役割を果たしたアウグスライヒ重装歩兵達の努力の甲斐あり、ノルデン軍の機甲師団は物流拠点を焼き討ちし、二線級の後方部隊を蹂躙しながらひたすらに前進。久方ぶりの戦艦隊の全力出撃を行った海軍によって西部軍の大半が釘付けにされたため、防戦を試みる部隊もいなかった。
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『ダメです、連中止まりません!』
『前線部隊は何をしている!本国駐屯師団でも何でも良いから呼び寄せろ!このままでは西部の野戦軍が殲滅されるんだぞ!』
『閣下、お逃げください!戦車部隊がすぐそこまで迫っています!』
『どこに逃げるというんだ!もうここ以外に西部軍の司令部はないのだぞ!?総員、対戦車戦闘用意!8.8cmでは無理だ!15榴を持ってこい、あれなら重戦車でも何とか仕留められる!』
『敵軍、15cm級の榴弾砲を持ち出したようです。強引に突撃すれば突破はできますが…』
『やり手の指揮官がいるようだな。これまでの部隊は8.8cm級しか持ち出してこなかったんだがな…よろしい、ランベルト大佐はここに残って攻略を継続しろ。私は連隊を率いてこのまま北進する』
『了解です。エーベルハルト少佐!エーベルハルト少佐は居ないか?』
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仮とはいえそこそこ要塞化のなされた陣地を前にしても、すぐに次席指揮官に攻略を一任し、師団長本人は1時間と経たないうちに再び北進を再開する有様。
電撃戦を至上命題とする作戦方針に基づいた、後世の歴史家が唖然とするような猛烈なスピードでの突破であった。
しかし、結果としてオーデルの護り作戦は失敗している。
その原因は第1機甲軍団の、特に第1機甲師団の非常識な進軍速度にあった。
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『第1機甲師団は何をやっているんだ!確かに前進せよとは言ったが、それでも後続部隊への配慮というものがあるだろう!』
『中尉、私たちは機械化部隊だよな?』
『ええ、少佐殿。それも、先月ロールアウトした最新式のハーフトラックを装備しております』
『だよな。じゃあ何で俺らは重戦車メインの第1機甲師団に追いつけないんだ…?』
『街道をしっかり進んでいるはずなんですがねぇ…』
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1番槍と同時に嚮導部隊の役割を担っていた第1機甲師団を、後続の梯団が見失ってしまったのである。
『大尉殿、ありました。あそこに戦車砲のものと思われるクレーターが』
『よくやった。つまり連中はここに居たというわけだ。全く、俺らは戦争をしに来たのであって、オリエンテーリングをしに来たわけじゃないんだがなぁ…』
幸いにして50トンもの重量を持つ重戦車は轍も残りやすく、後続部隊はそれらの痕跡を追いかけながら、さながら狩人のように第一機甲師団を追う羽目になってしまったのである。
そして、その早すぎる進撃速度がノルデン軍とアウグスライヒ軍に悲劇をもたらした。
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『エルマー少将…いえ、大将閣下より指揮権を継承しました、ランベルト・フォン・アルテンブルク大佐です。……軍団長閣下、残念なお知らせが』
《言われずともわかっとるわ、ランベルト大佐。逆方位を食らったのだろう。こちらでも司令部と連絡がつかん》
『…一つだけ、部隊を脱出させる方法があります。ですが…』
《何度も言わせるな。どうせ私もエルマーの後を追う身だ、第一機甲軍団の指揮権を預ける。それで将兵が助かるなら、遠慮なく私を切り捨てろ》
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『手すきの連中は列車でも車でも徒歩でもとにかく私のところに合流しろ!ノルデン野郎の反撃を許すな!これを抑え込めば、帝都はもうすぐだ!』
『ラサーニュ閣下、第13軍現着致しました!直ちに閣下の指揮下に入ります!』
『いいぞいいぞいいぞ、なだれ込め!連中の解囲を許すな、全てここで殲滅しろ!』
ブルボン軍第1
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『塹壕を掘れ!土嚢を積め!石にかじりついてでも持ち場を死守するんだ!ここを抜かれれば、ノルデン軍の反撃が成功してしまうぞ!』
『敵陣地を恐れるな!攻勢を続けろ!何としてでもここを突破しろ!ここで我らが死ねば、ブルボン軍が帝都を踏み荒らしに来るぞ!』
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南方戦役の天王山、ノルデン・アウグスライヒ連合軍とブルボン軍が激突した『バイエルン平野の会戦』は、両軍合わせて30万人の兵士を呑み込み、辛くもブルボン軍の勝利で幕を閉じた。
ノルデン軍からは第1機甲師団長のエルマー少将以下6人のノルデン軍将官が戦死。ノルデン側の生存者は、次席指揮官のランベルト大佐に率いられた第1機甲師団と、タンクデサントで逃げ延びたアウグスライヒ重装歩兵3万の計4万人のみ。全軍の8割が重囲下に取り残され、殲滅を免れたものは捕虜になった。
余談ながら、この作戦には後世ノルデン連合帝国の重鎮として今なお活躍している人物が数多く参加した作戦とも知られている。ノルデン連合帝国の大統領を7期に渡って務めたエーベルハルト・アデナウアー氏や、南ブルボン連邦共和国の元帥を10数年にわたって勤め上げたレオナール・ラサーニュ氏、そして、『帝国最後の参謀総長』こと故ランベルト・フォン・アルテンブルク氏などがそれに当たる。
作者解説その…なんでしたっけ、まぁいいや
ノルデン陸軍の野戦砲編です
書いてある設定は史実と創作内のものがごっちゃになってますがご了承を。文章力が足りないんじゃぁ~
皆大好きドイツ陸軍の
アハト・アハト君が設置式対戦車砲部門からリストラされた原因。ノルデン・ブルボン両国の戦車技術の日進月歩の進化に、『あれ?これ8.8cmじゃもう装甲抜けなくね?』と気付いたノルデン軍が慌てて開発した大口径対戦車砲。史実では軽野戦砲扱いですが、こっちの世界には後述の化け物2匹がいるため対戦車砲オンリーに。南方戦役では
英国面ならぬノルデン面が生み出した変態野砲第1号。ただしこの場合の英国面は英国面でもセンチュリオンやソードフィッシュを生み出した方なので勘違いしないように。他国どころか史実でも重砲扱いの15.5cmを軽野砲として運用できる重量に収め、ついでとばかりに装填速度の大幅向上に成功した化け物。オーデル川防衛線では多数のブルボン軍砲兵をフットワークの軽さと口径に裏打ちされた威力でなぶり殺しにし、戦車砲としては
ノルデン軍謹製変態野砲第2号。史実では火力偏重のソ連軍や戦後のアメリカ軍くらいしか使用しなかった口径の陸上砲ですが、ノルデン軍ではごく普通の重野砲として運用。もともとは海軍が手違いで余分に生産した空母用の単装副砲を陸軍が引き取ったもので、魔改造の果てに若干の寿命を犠牲に砲身を一切切り詰めずに十分な軽量化を完了。30km近い射程を武器に猛威を振るいました。ちなみに
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