第12話

 スカンクは軽装だ。十三年間もどうやって生きて来たのだろう。水筒はあっても食料すら持ってないよう。

 認識出来ない中に囲われたまま二人歩く。人が横にいるせいなのか、疲れに気付く。

 野宿なのかな。ま、それでもいいけど。

 目の前の空間が揺らぐ。

 次が来る。

 私もストレートに揺らぎの方に進んだけど、スカンクも迷いがない。

 小さな家が出て来た。視線を広げても認識出来る空間は広がらない。

 スカンクがたったと小走りに家の方へ行き、くるりと振り返る。執事のように一礼する。

「ようこそ、我が家へ」

「我が家?」

「そう。俺の家。まあ入んなよ」

 扉に鍵はなくて、スカンクの先導で入ると確かにこれまでと違う。人の気配がない。

「アカネ、疲れたって思っただろ?」

「そうだけど」

「だから家の出番なんだ。部屋はちょうど二つで、一つは俺が使ってるからもう片方をアカネの部屋にしなよ」

 さあさあと連れられた部屋はベッドで殆ど全部で、机と椅子と棚が残りのスペースにごちゃっとある。

 荷物を置いたら居間に向かう。

 スカンクの姿がない。

「スカンク?」

「はいはい」

 彼の部屋からスカンクは出て来て、さっきと同じ格好で、でも気が少し抜けているような。

「もう少し説明して」

「そうだな。風呂桶はないけどシャワーは出る。水は飲める水が出る。鍵が入り口にないのが不安かも知れないけど、あのドアは俺以外には開けられないから大丈夫」

「シャワーあるの?」

「おうよ。浴びな」

「洗濯はどうするの?」

「残念ながら洗濯機はないから、タライで自力でするしかない」

「でも洗えるんだ」

「家だからね」

 早速シャワーを浴びにゆく。パジャマを荷物に入れて来て正解だった。下着は洗ってローテーションすれば衛生的だし。

 シャワールームに着いてから気付く。

「スカンク、バスタオルは?」

「黒いのが俺の愛用。赤いのは新品。好きな方を使っていいよ」

 お湯はちゃんと出て、湯通ししてみて自分がいかに脂ギトギトだったかが分かる。置いてある石鹸。しょうがない使う。

 全部を流して、赤いバスタオルで体を拭いたら、さっぱりして体が軽くなった。パジャマを着る。

「スカンク、出たよ。あ、ドライヤーってあるの?」

「これがあるんだよ」

「やった」

 髪を乾かすとサラサラになって、手入れをしたな、って、明日もいい私で始められそう、って、頬が緩む。

「じゃあ俺シャワー浴びるから。眠かったら先に寝てて。レジャーは何もない家だから」

「分かった。部屋でゆっくりしてから寝るね」

 スカンクがシャワールームに入るのを見届けてから、自分の部屋に向かう。

 バスタオルは棚に敷く形で干した。

 寝る前に日記の続きを書く。青桜、ハートの印、マネキン、スカンク、彼の家。青桜の花びらは確かに日記に挟まっていた。

 ベッドに横になる。寝そうだから最初から布団を羽織る。

 今日一日の長さが、日記に封じられている。だから私は思い出したかったら思い出して、そうじゃなければ思い出さなくてもいい。

 頭の中がこころの中が、自由さで満ちて、それを止める壁がないから、魂の底の方からコダマの歌が聞こえて来た。それは徐々に上がって来て、いずれ私の頭とこころ、全部に鳴り響く。でもだからと言って歌いたい訳じゃない。今はその音に身を任せていたい。

 子守唄のせいか、私はすぐに寝に落ちた。

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