第26話 春の終わりと闘志の季節
あのゴールデンウィークの日曜日、僕達の間には特別な何かが生まれた。
その何かは相手を想う時、自らの影のようにぼんやりと、くっきりと現れ、でもその正体を決して明かしてはくれなかった。
かと思えば目があった瞬間、閃光のように両目を刺激し、眩しすぎて直視出来なくなってしまう。それでも、絶対に目を離したくはない。それくらい、僕にとっては大切な何かだったのだ。
きっとその何かは僕には分からない。でも、彼女ならきっと答えを教えてくれると思った。あるいは二人で答えを導き出せると確信した。
だからもっと沢山会って、いっぱい会話をして、その何かの正体を突き止めたかった。
だがあの日以降、なかなかその機会を得られず僕はもどかしい気持ちでいっぱいだった。
五月に入ると学校では定期試験のピリついた雰囲気が漂い、なんとなく浮ついた表情を作ることが憚られ、校内で楽しく話をするのを自ずと遠慮してしまった。
さらに部活動では夏の地区大会に向けた部内選抜のランキング戦が開催され、ほとんど毎日試合を開催し、部員各々が勝負の結果に一喜一憂した。平時であれば日曜日の部活動はお休みなのだが、試合を消化するため休日返上で部活に参加し、試合が組まれていなければ張り詰めた空気の中で練習に励むことになる。
その大会ムード一色の中、彼女と彼はきっと大会に向けてモチベーションを高めているだろうと心中を慮り、気の抜けた話を控えるよう気をつけた。
そのおかげか、二人の間にある何かの正体は季節が夏に移り変わっても分からないままだった。
だが良いこともあった。部活動に集中したお陰で大会への道が開けたのだ。
僕は小笠原先輩不在のランキング戦で三位と好成績を残し、男子シングルスの選手として大会出場が決定した。これで冬木さんとの約束を果たす下地が整った訳だ。
小夜子ちゃんは実力以上の成績を残すことが出来、女子団体戦のメンバーとして選出された。公式戦出場は彼女にとっても初めてのことで、出場の切符を掴んだ瞬間から彼女は緊張を隠せない様子であった。だがあの可愛らしい瞳は煌々と輝いていた。
闘志を燃やす僕達は互いに健闘を祈り合い、両者の狭間の何かは急速に成長していく。
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