02:膝枕って気持ち良いよね

 昨日私の趣味が沙樹くんにバレた。

 朝、沙樹くんの様子は何故だかいつもと少し違う気がしたのは私の気のせいだろうか。


「沙樹くん、お、おはよー」

「⋯⋯しずくちゃんおはよー」

 妙に眠そうな顔をした沙樹くんが挨拶を返してくれた。

 私の杞憂だったのなら良いんだけど。


「妙に眠そうだけど、大丈夫?昨日の私みたいになってるよ?」

「う、うん。 大丈夫」

「なら良いけど⋯⋯」

「そうだ、今日の放課後だけど僕の家でも大丈夫?」

「今日?大丈夫だけど⋯⋯」

「うん、じゃあ今日は僕のお家でね!」

 ここまで私を家に誘いたがっている沙樹くんは珍しい。

 普段は交代交代で遊ぶ家を決めていたけれど、本来なら昨日交代したとは言え、いつもの流れなら私の家で遊ぶはずなんだけど⋯⋯

 何かいい物でも見つけたのかな、なんて思いつつ私はいつも通りの通学路を歩いて沙樹くんと学校に向かって歩いた。


 それから授業が終わり、放課後がやってきた。

 私達は一緒に帰り、それぞれの家に一度帰る。

 今日は私が沙樹くんの家に行くから外行きの格好に着替えて沙樹くんの家へ向かった。


 私の家から沙樹くんの家までは歩いて五分程度の場所にあるからすぐ到着しちゃう。


「沙樹くん、来たよー」

「あっ、しずくちゃんいらっしゃい。

 沙樹ちゃんならもうすぐ着替え終わるみたいだから沙樹ちゃんのお部屋に入ってて大丈夫だって」

「あっ、凪さんこんにちは。

 お邪魔します」

「邪魔だなんてー、それじゃ上がって上がって」


 そう言って案内してくれるのは沙樹くんのお父さんの凪さん。


 どうみても女の人なんだけど本当にお父さんなのか私には未だに理解出来ていない人の一人。


 専業主婦って言ってたけど⋯⋯本当は女の人で沙樹くんのお母さんだと私は思ってる。


 きっと何か秘密があるんだろうけど、私が気にするほどの事じゃ無い、かな。


 そして沙樹くんの部屋に入って沙樹くんが来るのを待っている間軽く復習していると、部屋のドアが開く音が聞こえた。


「沙樹くん遅いよー」

「⋯⋯」

「沙樹くんどうした⋯⋯の」

 私はドアに向かって軽い文句を言うと、そこには可愛い女の子がいた。


 黒髪のロングヘアの白いワンピースを着た可愛い女の子が。


「えっ、誰?」

 沙樹くんの家族にこんな可愛い子はいた覚えが無い。

 親戚?親戚の女の子とか、そう言うタイプの子?


「⋯⋯どう、かな」

 その女の子からは沙樹くんの声が聞こえる。


「えっ??????」

 情報量が多すぎて私には処理がしきれなくなってしまった。


「しずくちゃん⋯⋯どう?似合ってる⋯⋯かな?」

「さ、沙樹⋯⋯くん?」

「う、うん⋯⋯そうだよ?」

「実は沙樹くんじゃなくて沙樹ちゃんだった⋯⋯とか、そう言うの?」

「ぼ、僕は男だよ⋯⋯」

「その格好で言われても説得力ないよ!?」

「そ、それでどうかな? 似合ってる?」

「そ、その⋯⋯」


 私としては凄く大好物です。

 黒髪ロングで身長は低め、おまけに胸も控えめなんてもう私の好みにドンピシャ。

 でも、沙樹くんは男の子なんだよ?


「(わ、私は女の子が、女の子が好きだったはずなのに⋯⋯)」

「か、可愛いよ」

 私にはそう言うので精一杯だった。

 実際可愛いから仕方ない。


「かわ!? うぅ⋯⋯恥ずかしい」

「(なんでそんなに仕草まで完璧に仕上げてくるかなこの子はぁ!)」

「ね、ねぇ沙樹くん」

「どうしたのしずくちゃん」

「どうして突然女装なんて⋯⋯始めたの?」

「え、えっと⋯⋯今日、しずくちゃんの誕生日、でしょ?」

「あっ」

 そうだ、完全に忘れてた。


「ふふっ、しずくちゃん本当に自分の事には無頓着だよね」

「すっかり忘れてたよ⋯⋯でも何で女装?」

「き、昨日の漫画、女の子同士だったから、しずくちゃんは女の子の方がいいのかなって思って⋯⋯だから僕が可愛い格好したら喜ぶかなーって思って、お父さんにお願いしてお化粧とかしてもらったんだ」

「しょ、正直凄く好みだけど⋯⋯沙樹くんが無理する必要は無い⋯⋯よ? 言葉だけで十分嬉しいから」

「こ、好みなんだ⋯⋯」

「か、かなりね⋯⋯」

「じゃ、じゃあ誕生日プレゼント代わりにしずくちゃんのやって欲しい事、してあげるよ!」

「やって欲しい事⋯⋯? な、何でもいいの?」

「う、うん⋯⋯」

「ひ、膝枕しながら耳掃除とか⋯⋯だめ?」

「⋯⋯しょ、しょうがないなぁ」

 ダメ元で言ってみるとまさかの沙樹くんからOKが⋯⋯言ってみるもんだね。


「ほ、ほら⋯⋯どうぞ」

「あ、ありがとう」

 沙樹くんの膝の上に頭を乗せると沙樹くんが綿棒を用意して私の耳を掃除してくれた。


 耳かきの音と私達っっっっっっttの呼吸音以外聞こえない部屋の中、物凄く静かな時間が流れる。


「(あぁ⋯⋯最高かも⋯⋯)」

「どう?痛くない?」

「うん⋯⋯」

「ふふっ、しずくちゃん気持ちよさそうな顔してる」

「だって人にしてもらうのって気持ちいいんだもん⋯⋯」

「気持ちいいなら良かった」

 それから反対の耳もやってもらっている私は、終わる頃には眠くなってしまい、少しの間うたた寝してしまった。


「あれ?しずくちゃん寝ちゃった?」

「すぅ⋯⋯すぅ⋯⋯」

「ふふっ、しずくちゃんおやすみなさい」

 そのまま沙樹くんに膝枕してもらいながら私は眠ってしまった。


「⋯⋯よ、⋯⋯ちゃん」

 沙樹くんが何か言っているような気がするけれど、私の意識はそのまま深く深く、落ちていった。



「おはよう、しずくちゃん」

「おはよ⋯⋯沙樹くん」

「そろそろ起きないと、しずくちゃんのお母さんが心配しちゃうよ?」

「うん⋯⋯」

「昨日もやっぱり遅くまで勉強してたんでしょ」

「だって、沙樹くんの目指してる大学難しいから、今のうちに対策しておかないとだし⋯⋯」

「じゃあ僕もみっちりとしずくちゃんに教えないとだね」

「お、お手柔らかに⋯⋯ね?」

 私はそう言うと、可愛い姿の沙樹くんから離れるのを名残惜しげに見つめつつ帰る準備を始めた。


「それじゃ沙樹くんまた明日」

「うん、それじゃ改めてしずくちゃん誕生日おめでとう!」

「沙樹くん、ありがとう!」

「それじゃ、お邪魔しました!」

 私は沙樹くんの家から出ると自宅へ向かって歩き出した。


「はぁ⋯⋯沙樹くんまた、女装してくれないかな⋯⋯」

 そんな事を思いながら私は自分の家へと戻っていった。

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