第11話 人間の強さ比べ
「リオ。そう言えばあなた、人間の中ではどれくらい強いのかしら?」
「……えっ」
いきなりこれを聞かれるとは思って無かった。
フィーネに弟子入りしたことはさすがに聞いてるはずだし、グリフォンの巣で修行し終えたことも聞いてるはずなのに。
「それならフィーネさまが――」
「フィーネが面倒をみてあげたくらいは知っているわ。だけれど、詳しくは知らないのよ。わたくしたちがあなたを鍛えるのは決まっているけれど、強さが分からないと始めようがないわ」
勇者だったことまでは知らないみたいだ。
もっとも、それを知られたからといってどうなるものでもないが。
今となっては最強の力すらも無くなっている訳で。
「ええと、ある程度の炎に耐えられて水中で息をある程度止められて、力の限り土を掘れる……くらいです」
これは正直に言うしかない。強さの答えになっていないとはいえ、そうとしか言えないのも事実だ。
「リオ……は、人間を一撃で倒せる……の?」
「ど、どうだろ。人間相手に戦ったことが無いから分からないです」
「森も山……も、悪い人間……が荒らす、からリオに退治して……欲しい」
か細い声のアリナが困ったような顔で俺を見ている。
黒狐の真の姿は不明だが、フィーネクラスの姉弟子なら余裕で倒せるはず。
それなのにどうして俺に頼むのだろうか。
「退治って言われても……。アリナやルーナさまなら、余裕で倒せるんじゃないですか?」
「うきゅぅん……それは駄目、なの」
「馬鹿ね、あなた」
「ばっ……!? ええ?」
アリナはしょぼんとしているが、アルルーナはすぐに反論して来た。
「わたくしたちは、こう見えても高位の魔族なのよ? たかが人間ごときに手を出そうものなら、すぐに滅びてしまうに決まっているじゃない! 基本的に人間に手を出すことはあり得ないわ」
グリフォンのフィーネが魔王の側近と言っていた。それを考えれば、全盛期の勇者とほぼ同程度と考えるべきだろうか。
そうなると、その辺の魔物とは比べられない強さということになる。
人間相手は人間がやる……そういうことらしい。
「な、なるほど」
理屈は分かったものの、果たして今の自分はどれくらい強いのか。そもそも武器も何も無い状態でどうやって戦えば。
「分かればいいわ。アリナの代わりに言うと、あなたには山賊退治をしてもらいたいわ。魔物なら分かりやすいけれど、人間は何を考えて山を荒らしに来ているのか理解出来ないのよ」
山賊退治か。勇者時代でも街道を荒らすごろつきは確かにいた。連中は魔物を倒す俺の力を見たらすぐに逃げていたし、気にもしていなかった。
それがまさかこうして退治する側になるなんて。
「それは分かりましたけど、あの、武器は無いですか?」
「あら、あなた……魔法は使えないの? 使えなくても素手でもいいのだけれど」
「魔法はしばらく使って無くて、多分今は使えるレベルじゃないかと。俺はあの、剣とか斧とか棒とかで戦って来たので……」
あらゆる武器を使えたこともあって、拳で戦ったことが無い。
魔法もろくに使わなかった。その必要が無かったというのもある。
そんな俺が山賊退治をするのは決定なのか。
「リオ……。ここの大木、殴ってみて」
「大木を?」
「植物への痛みはわたくしに伝わるわ。それがどれくらいあるかで、あなたの強さが分かる。アリナの言うとおり、殴ってごらんなさい」
「じゃ、じゃあ……今の力で思いきりやります」
拳一つでどれくらい戦えるのか。それを知るいい機会だ。
すぅーっ、と息を吸い、吐き出すと同時に持てる力の全てを大木にぶつけた。
「ぬああああー!!」
ガンッ、とした鈍い音が自分の中だけに響く。
拳へのダメージを感じつつ、地味に痛みが全身に伝わって来た。
「……そう、この程度ではね返るのね? よく分かったわ」
「リオ、痛い?」
「い、痛いです……」
どうやら大木の方が俺より強かったらしい。拳を使ったとはいえ、まさかダメージ吸収されたうえにカウンター攻撃を受けるとは。
「リオ。アリナ……が、痛みを消してあげる。尻尾、に触れて」
「し、尻尾に……!?」
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