第10話 ふっさふさの姉弟子
「……ほ、他にも姉弟子がいるんですか?」
グリフォンの巣にいたのは俺の他に三人の末弟子。彼女たちもいずれ外に出て来ると聞いた。
姉弟子も複数いるということはフィーネと同等の魔物だろうか。今の自分が弱すぎるとはいえ、彼女たちに勝てる気がしない。
「あら? フィーネから聞いて無いの?」
「な、何となくは……」
末弟子の彼女たちから受けた修行よりも厳しくなるとしたら、衰退以前に体が持たないのでは。それよりもフィーネのことを呼び捨てなんて……。
フィーネが一番強いというわけではないのだろうか。
「他にもたくさんいるわ。……そうね。近くにあの子がいることだし、元々あの子の方が先に会うはずだっただろうし、会わせてあげるわ!」
たまたまアルルーナに出会ってしまったが、最初に出会う姉弟子は別だったらしい。俺が落ちたことにフィーネが気付いてくれればいいが。
「え、町に行商に行くんじゃ……?」
「そんなのは後回しでいいわ。優先すべきはあの子に会うこと! わたくしだけだとあなたの相手をするのはしんどいもの」
「は、はぁ」
マンドラゴラのアルルーナの修行内容は考えてみれば上級向け。外に出たばかりの俺はまだ最弱レベルだ。
いきなり人間たちと接するのも早すぎだろうし、きっと段階的に強くするつもりがあったはず。
「リオ。こっちよ! あの子が眠ってるのは山の向こうの深い森なの」
アルルーナが示した場所を見ると、何とも険しい高さの山々が見えている。空からならともかく、今の俺では行くことも厳しそう。
「――えっ!? あんな険しいところへ?」
「確かに簡単には行けないけれど、死にはしないわ」
「ど、どうやって……」
戸惑う俺にアルルーナは手を差し伸べて来た。何の疑問も持たずに彼女の手に触れると、物凄い勢いのまま地中に引きずり込まれていた。
死にはしない――そうは言っても、さすがに土の中は息が出来ないはず。
そう思いながら目を閉じ息を止めていると、ガガガッ、という土を掘る音が激しく聞こえて来た。
「……ふぅ、もういいわ。リオ、目を開けてあの子に挨拶なさい!」
土の中とはいえ相当な距離を移動していたようだ。目を開けると、そこには全く違う光景である深い森が広がっていた。
全身を見ると土埃はほとんどついていない。これもマンドラゴラの守りの恩恵だろうか。
アルルーナに言われたとおり、そこにいるであろう魔物に視線を移す。
そこにいたのは――
「ふっさふさのモフモフ……!」
黒い二つの耳とふさふさの尻尾。それだけでなく、何とも可愛らしい女の子が恥ずかしそうに俺を見つめていた。
見た目だけで判断すると俺よりも下にしか見えない。しかし魔物である以上、年齢とかに関しては気にしたら駄目な気がする。
「そ、そんなに見つめないで欲しいのです……」
「ごっ、ごめん!」
瞳、髪、着ている服、見た目全てが黒いこの子が姉弟子なのだろうか。凛とした耳を見る限り、何かの獣であることは間違いない。
「リオ。この子は黒狐のアリナ。ほら、あなたも!」
「あっはい。俺はリオ・グラファス。よろしく、アリナ」
「は、はうぅぅ……」
俺の挨拶に対し、彼女は顔を真っ赤にしてその場にへたり込んでしまった。
「リオ、あなた……末弟子なのに何て口の利き方をしているのかしら! 見た目は少女にしか見えないけれど、アリナは成人の黒狐! 人間の見た目で判断するのは良くないわ!」
成人の黒狐には到底見えないくらい、幼くて可愛らしい姿をしている。
しかし姉弟子ということは俺より強いということになるが……今の姿からではとてもそう思えない。
「す、すみません!」
「……真の姿を見せればリオも腰を抜かすでしょうけれど、この子は滅多に姿を変えることが無いの。だからといって舐めた態度は取らない方が身の為よ」
「そうします……。ごめんなさい、アリナさま」
見れば見るほどふっさふさ。今すぐアリナの頭を撫でまくりたい衝動に駆られる。しかし見た目と気弱そうな態度で判断するのは危険だ。
「アリナ……でいいです。君のこともリオ……と呼ぶです」
「よ、よろしくお願いします。アリナ!」
厳しいアルルーナと気弱そうなアリナ。
当面は二人の姉弟子と行動することになりそうだ。
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