末弟子と姉弟子
第8話 自慢のふわもこベッド
「あ、あれっ? フィーネさま?」
時間も分からない状態で穴を掘りまくり、謎の声でスキルがいくつか上がった。それを見計らうかのようにフィーネが帰って来ていたようだ。
末弟子の彼女たちから教わったのはまだ3つ程度。この程度で果たして外に出られるものなのだろうか。
とにかくフィーネが帰って来た以上、外への期待をせざるを得ない。
「リオくんー! よく頑張ったよ、本当に! シーちゃんもラヴも嬉しそうにしてたよ。リオくんもそうかな?」
グリフォンの姿のままで、彼女は嬉しそうにしている。もしかして終了なのでは。
「俺もです。夜か朝か分からないですけど、俺はこれからどう――」
「うんっ! 外に行くよー! シーちゃんたちとの訓練はひとまず終わり! リオくんは外に出て、もっと強くならないとね!」
ああ、やはり。
強さを得られた実感は無い。だけど、外に出てもいいだけの力を認められた。
多分そういうことに違いない。
「わぅっ! リオさんリオさん! クーもリオさん助けるぅ!」
グリフォンとクーシーから見下ろされているこの状況は、ちょっと前だったら気を失っていたほどの恐ろしさだ。
それが今は何とも思わない。これがマインドアップの効果なのだろうか。もちろん最強だった頃に比べたらまだまだなレベルだ。
それでも少しはマシになった。そんな気がする。
「うんうん。リオくんはここを巣立っていくけど、クーたちも後でちゃんと外に出してあげるからね!」
「わぅ!」
シーシーもラヴも姿は見せてくれそうに無いが、ひとまずのお別れだ。
「よぉし、リオくん。わたしの背に乗って欲しいな」
「は、はい」
どうやらこのまま上に飛んでいくらしい。
荷物も無く鎧も着ていないが、大丈夫なのだろうか。
しかしフィーネはすぐにでも外に出たそうにしているし、背に乗るしかない。
「乗りましたよ」
「いっくよー!!」
「わああぁっ!? か、風の勢いが……!」
「しっかり掴まっているんだよー」
――などと言われていたのに、上空に上がったところで真っ逆さまに落ちてしまった。いくらスキルアップしても、つかまり続ける力が足りなかったようだ。
せっかく外に出られたのに……。
気付いてもいないのか、フィーネはそのままどこかに飛び去ってしまった。
「あああああああ……!! お、落ちるーー!」
衰退が鈍化して助かってもこんな終わり方はあんまりだ……。
そう思いながら、俺は覚悟を決めて目を閉じた。
――ポフッ。
叩きつけられたらどんな痛みを伴うのか。そう思っていたのに、何かふわふわもこもことした感触が顔に当たっていた。
(うんん? この感触はまさか……フィーネ?)
「いたーい!! なぁに? 何が落ちて来たっていうの?」
違う、フィーネの声じゃない。
助かったようでそうじゃなさそうな、そんな予感がする。
ふわもこな何かで顔が沈み込んでいて、どうやらダメージは負っていないようだ。
とにかく顔を上げてすぐに謝ろう。
そう思いながら顔を上げようとするも、もこもこな糸に絡まっていて体を起こすことが出来ない。まさか蜘蛛の糸だったりしないよな。
「くぅっ、あ、上がらない……な、何で」
「……ベッドの気持ち良さに体が言うことを聞かない。そういうことよね?」
――ベッド。人の寝床に落ちてしまったのか。
確かに気持ちが良すぎるが、抜け出せないのは何かやばい。
「そ、そうかも……」
「ふーん。でもいい加減、あなたの顔を見たいのだけれど? いいわよ? 顔を上げても」
「――くっ、くぅぅ! そ、それがその……」
「……あなた、スライムのスキルは使えないのね。いいわ、一時的に固くしてあげる」
スライムのスキルとは一体何のことなのか。
そう思っていると抜け出せないふわもこが突然固くなった。今のうちに体を起こすしかない。
さっきまでの苦戦が嘘のようにスッ、と体が動かせた。
「あ、ありがとうござ……」
「礼は要らないわ。あなたがリオね? わたくしはあなたの面倒を任された、アルルーナよ。でもおかしいわね、ここに来るのはずっと先のことだと思っていたのだけれど……」
目の前にいる女性は、透き通った水晶の瞳で俺を見ていた。その姿は白絹の髪をさせ、ふんだんの花を装飾にした名のある令嬢のようだった。
こうして向かい合っているだけなのに、ふんわりいい香りがする。
人間に見せているが、彼女の正体は――
「君は……?」
「口の利き方がなっていないわね。姉弟子に向かってその言葉遣いはどういうことかしら? わたくしはマンドラゴラよ! 失礼しちゃうわ」
――マンドラゴラ。そうか、彼女が姉弟子なのか。
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