第6話 焼き加減で耐久アップ
シーシーに代わり、毛むくじゃらのドラゴン族ラヴが特訓に付き合ってくれることになった。
彼女の特徴は蛇のように長い尻尾だ。モフり甲斐のある長すぎる尻尾は、彼女の個性の一つらしい。そんな彼女が提案して来た特訓内容は加減をつけること。
「加減? ええと、つまり手加減をしながら鍛えてくれるって意味かな?」
スライム族のシーシーには、少なくともそんな感情は無かった。人間を嫌っているようだったし無理も無いが。
ラヴの言うように、手加減をしながら攻撃を当ててくれる――
――それなら少しずつ耐えられそうだ。
「違うッス! ラヴには人間さんのような手加減なんて出来ないッス……でも得意なのは間違いないので、それさえ耐えればリオさんは頑丈になれるッス!」
(あぁ、やはりそうだよな)
人間も決して優しくも無いが、そんなに甘くなかった。
何に対して耐えるのかも教えてくれないなんて、そこは人間と違うところか。
「と、とにかく耐えればいいんだね?」
「そうッス! リオさんはもしもの時の為に、川を背にして立っててくださいッス!」
もしもの時……って何だ。
彼女はモフれるが間違いなくドラゴン族。ということは、噛みつきでもするのか。
とにかく言われたとおり、川を背に立った。すぐ後ろに水が流れていて落ちたとしても、ある程度は我慢が出来る。
その意味ではシーシーに感謝すべきか。
「準備出来たけど、何をす――!? うわあっ!!」
ラヴに声をかける為に彼女を見たら、目の前には炎のブレス。受け止められるはずも無く、とっさに川に飛び込んだ。
「リオさん、大丈夫ッスか? 今のを受けられたら、かなり頑丈になれるッスよ!」
(……冗談じゃない)
あんな炎のブレスをまともに受けたら、命ごと燃え尽きてしまう。
まさか加減というのは火加減の話なのでは。
「ぷはっ! ふぅー……お、驚いた。まさかブレス攻撃なんて……」
段差のある川から上がり、ラヴを見ると心配そうに俺を眺めていた。
心配はしているように見えるものの、楽しそうにしているのは何とも言えない。
「いやぁ、あれは攻撃の内に入らないッス。ラヴにとっては深呼吸をするのと同じことなんスよ! そんなわけで、リオさん。もっと軽めの呼吸の方がいいッスよね?」
いいに決まってる。そもそも耐えられるのか。
全身やけどを負ったら、衰退するよりも弱ってしまうのでは。炎に関しては我慢のしようも無いしどうしようもない。
しかしフィーネが帰って来るまで時間が無い気がする。彼女には少しでも強くなった姿を見せてみたい。
「す、少しずつで……」
「了解ッス! 行きますよー! ゴアーーッ!!」
ラヴからしたら軽く息を吐いただけ。しかしこれは……
「うああああ……!!! うっううう……や、焼ける――」
「川に飛び込まずに耐えることッス! そうすれば、少しずつでも頑丈になれるはずッス!」
「そ、そんなこと言われたって……」
何度も川に飛び込んでは、炎のブレスを繰り返し受けまくった。
そして夜か朝か分からないくらい、かなりの時間が経ち始めた頃。
自分の体に変化が生じて来た気が。
勇者として生を受けた頃から、体だけは頑丈だったのを思い出す。
衰退することにばかり恐れをなしていたが、もしかしてこの現象は――
「炎のブレス、ラストブレスーー!!」
何度も炎のブレスを受け続けて来た。そのことで体が慣れた可能性がある。
今まではかろうじて避けまくっていたが、試す価値はありそうだ。
ラヴから吐き出された炎のブレスは、これで最後といわんばかりに避け切れない範囲にまで広がっている。
それなら試すしかない。
目を閉じた状態で全身で炎を正面から受け止めた。
そのまま何秒か耐え続ければ、何かが得られそうな予感がある。
「……う、ううぅ!」
「無理はしなくていいッスよ、リオさん! これもそんなに強いブレスでもないんスから!」
思いきりブレスを吐かれたら跡形もなく焼き焦げてしまいそう。しかしこのブレスさえ耐えられれば、体の細胞が変わりそうな感じが――
「そこまででいい! リオ、声のする方に飛び込んでいい。すぐに治す……」
変わりそうな予感が……。そう思っていると、どこからともなくシーシーの声が聞こえる。耐えたことで褒めてくれるんだろうか。
「くっ……うぅ……」
「……見直した。リオもシーのこと、シーちゃんと呼んでいい。だから深く眠って」
シーシーの声が聞こえたところで、俺は緊張の糸が切れたように眠りについた。
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