第4話 努力のご褒美
「――ふーん……じゃあリオくんは弱りながら死んじゃう運命なんだ……それにしても、やっぱり人間って弱いくせに駄目だね。リオくんは悪くない!」
シーシーの治癒能力により俺の体力はもちろん、良くない症状である衰退の進行は鈍くなった。
良くしてもらったお礼の意味で、衰退のことを知らないフィーネには包み隠さず話した。彼女の反応は優しいというより、腹を立てている感じになっていた。
「違う。リオが弱いだけ。リオは弱い。力だけじゃなく、精神、常識……全てが弱い! コイツは厳しくするべき」
人間に対して怒っているフィーネを見るだけで、救われた気がした。
しかしシーシーは、何故か俺に怒りをぶつけて来る。
今の俺はグリフォンどころかスライム族にも敵わないとはいえ、ここまで言われるのは何故なのか。
「リオくん。シーちゃんの言ってることに怒らないであげてね?」
「え、あ……はい」
怒ったところで勝てる相手でも無い。何より、回復してくれた相手に歯向かうのは違うだろう。
「自覚が無いかもしれないけど、リオくんは気持ちから弱くなっちゃってる感じがするよ。グラファスの手記を読んだのにどうして何もして来なかったのかなって」
フィーネの言ってることはもっともだった。衰退する運命を知っていたことでずっと一人で動いていたし、遠くにも行かずに最強の強さにうぬぼれていた。
協力者や仲間を作っていれば、もっと別の生き方があったかもしれない。
「それは何というか……面目なくて」
「うんうん。そんなわけでリオくん! キミのこれからの人生は、強くなることを目標にして欲しいな!」
「強く……? え、でも――」
最強だった力がもう戻るとは考えられない。
それでも魔物……グリフォンに保護されたことで、以前以上の強さを目指すことが出来るのだろうか。
その答えを聞こうとすると、フィーネはグリフォンに戻っていた。シーシーは俺のことは気にせず、奥の方に行ったようだ。
「リオくん、レッツゴー!」
グリフォンの巣を奥まで見せるつもりがあるのか、フィーネは鋭い
恐ろしさは感じないが、示されたとおり俺は奥に向かって進んだ。
後方からついて来ていたグリフォンの羽ばたく音が聞こえる。そうかと思えば、彼女は俺を上から追い越し、目的の場所に降り立ってみせた。
上を気にしていなかったが、空が見えそうな吹き抜けの穴になっている。周りをよく見ていなかったが、かなり奥行きのある巣みたいだ。
「こっちだよー!」
声をあげたフィーネが待っている場所に目を向ける。すると遠目からでも輝きに目が
「こ、こんな財宝見たこと無い……」
正面の部屋の中をチラッと見てみると、そこには目を見張るような黄金の数々がびっしりと敷き詰められていた。
「さっきわたしが言ったことは覚えてるー?」
「強くなることを目標に――」
「うんうん! リオくんには強くなって欲しいんだよ! だけど人間さんは何かご褒美が無いと、やる気が起きないって聞いたことがあるんだー」
まさかこの財宝をくれるというのだろうか。もらったとしても、巣から町に出ないことには意味も無さそうなのに。
「そうかもですけど、でもどうやって強く……」
スライム族の治癒を受けて体が軽くなった。しかし衰退していくのは避けられそうにない。こんな状態でどうしていけるのか。
「とりあえず、リオくんにはしばらくここで暮らしてもらいます! 巣の中で暮らしてるのは末弟子の子ばかりだから安心! あの子たちと一緒にリオくんのヤワな精神を強くしちゃおう!」
姿は見えないが、スライム族の子の他にたくさんいるみたいだ。末弟子と言っているが、姉弟子もいるということなのだろうか。
人間世界からしばらく隔離されるのはいいとして、果たして無事に生きて出られるのかは何とも言えない。
「フィーネ……さまに聞いてもいいですか?」
「はい、リオくん!」
「こんな目立つ場所に財宝があって、空から侵入して来る人間もいるんじゃ……?」
俺の言葉にフィーネの眼が鋭さを増した。
もしかして何か対策が出来ているのだろうか。
「人間がわたしの財宝を狙う……? もし奪おうとするならその時は、容赦なく引き裂いてあげる……二度と生きて出られないように――」
急に空気が変わったかと思えば、その眼つきからは獰猛な魔物っぽさを
「――ご、ごめんなさい!」
奪う気はさらさら無いし、そこまで欲しい気持ちは無い。
しかしフィーネの見た目も含めて、部屋にある黄金を守る心は相当に強いようだ。
保護してくれた時も感じたが、守護する力はかなり高いことが分かる。
「んんー? 驚かせてごめんね」
「だ、大丈夫です」
「心配しなくてもリオくんが巣を出られる時には、お守りに持たせてあげるからね! いくつかあるだけで、人間の町で過ごせるもんね!」
巣の中で暮らして外に出た時には、財宝をご褒美にもらえる――頑張るしかない。
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