4.百舌の早贄
【あなた】は不機嫌だった。地上には【立体駐車場の獣】――もとい【塔の獣】が地上を見下ろしているものだから何もできない。
【
「なーなー、カッコイイ兄ちゃん、母ちゃん助けてくれてありがとう」
少年が【あなた】に声を掛ける。【あなた】を【吸血鬼】と呼んで恐れる母親とは違って少年からは颯爽と現れて2人を助けてくれたようにしか見えなかったらしい。
【あなた】にとっては、たまたま【
――そうか。
【あなた】に人間に対する興味は無い。
「おれ、タツヤって言うんだ。兄ちゃんは?」
ハテ。【あなた】に名前はない。必要とも思わない。故に【あなた】はドクター・クランケから良く呼ばれる【ブルー・ブラッド】を名乗った。
「変な名前ー。あっそうだ! シェルターを探検していたら、地下室を見つけたんだ。秘密基地にしようと思ったら母ちゃんが『あぶないから駄目』だってさ、危なくなければ良いんだよな!」
良い事を聞いた。後でドクター・クランケに話を聞いておこう。と言うよりも、地下から【
「――ふむ。確かに今は使っていないラボには地下通路があるが……確かに【塔の獣】に対する対抗手段が無い以上、こちらを開拓しても良いだろう。ただし、地上ルートと比べて大きく飛び回ることは出来ない事に気を付けろ。この区画の制圧に成功すれば【防衛】レベルが上昇することが見込める他、【
【あなた】の目標に【廃地下道制圧】と【塔の獣の討伐】が加わった。廃地下道を通る最中に長銃等の【塔の獣】への対抗策を見つけ出すのが目標だ。
PDAから投射されたホログラフの情報が更新される。
・【廃地下道】を制圧し、コミュニティを捜索する。
・【塔の獣】を討伐する手段を探す
・【人間】を探して勧誘する。
・【水源】や【食料】を探す。
・【獣】の討伐。
・【クイーン・ベルベット】の討伐。
【あなた】のするべきことばかりドンドン増えている様な気がすると、ドクター・クランケを睨みつけると悪びれる事もなく言った。
「実働部隊が一番忙しいのは良くあることだ。代わりに君が必要なものを優先的に準備する事を約束しよう」
――本当だろうな。
「嘘を吐く理由が無いとも。私としても君には早急に強くなって貰わないと困るし、リソースは限られている。ならば一番有用なのは君にリソースを投入する事だ」
――それなら良い。
【あなた】はタツヤの案内で、廃地下道へと進入した。百舌鳥の早贄の様に、結晶で撃ち抜かれた【
見渡した範囲で、【あなた】の血は静かだ――【塔の獣】の姿は無い。
「頑張れよ!」
――言われるまでもない。
廃地下道には、濃厚な血の香りが漂う。【
確かにタツヤの母が危ないと言うのも理解できる。
だが、【あなた】に取っては単なる狩場だ。敵を殺し、血の記憶を継承して更なる力を得る。
【あなた】が梯子を下り切ると、そこはドクター・クランケの言う通り何かの施設だった様だ。
そして近くを移動する敵の気配。狩猟刀に刃毀れや血の滑りはなく、左腕の処刑槍も正常に作動する事を確認する。ハンドガンは寝る前に弾薬を補充したが、クリップを取り外して確認する。
――狩りの時間だ。
【あなた】の黒く、青い瞳が輝き、最初の敵を捕捉する。
距離は遠く、銃での攻撃を考えるだろう――【あなた】が普通の人間ならば。【あなた】の脚が力強く地面を蹴り、無防備な背面を、頭をかち割り、崩れ落ちた【
1対1、それも奇襲であれば全く相手にならない。勝利報酬と言わんばかりに赤い、装飾の入ったクレートが【あなた】の傍に落ちる。
――微妙に重さの違う狩猟刀だった。正直いらない……。
【あなた】が狩猟刀を手に取ると、狩猟刀は赤い粒子となって吸い込まれて行った。不要な武器の持ち運びには困らなさそうだ。
――上に1。下に居るのは釣り餌か。
下の【
視界が利かず、警戒し続けなければならない地下道は人間であれば大きなストレスとなるだろう。暗視能力を持つ【あなた】はそうでもないがこういった環境での行動が続けば人間はまず精神がやられるだろう。
【あなた】にとっては見え透いた罠で、先程手に入れた狩猟刀が後ろを向いた【
先手で即死させられれば1対1、それも地面に陣取る【あなた】からすれば、落っこちてきて隙だらけの相手を始末するだけの簡単な仕事になる。
――青いクレートから古ぼけた【狩猟者の骸套】が出て来た。【
片方の【
屍鬼と化した【あなた】は復讐するようです。(誰に?) ゆうきかごうもつ @77kamado
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