3.【塔の獣】


 【あなた】の目の前に、2体の【屍喰鬼グール】が居る。長銃を持った痩せぎすと、鈍器を担いだ巨漢だ。

 長銃が火を噴き、【あなた】の足元を抉り、【あなた】は【巨漢の屍喰鬼グール】に狩猟刀を振り下ろし、浅く切り裂き、振り払いに乗じて【長銃の屍喰鬼グール】の射線を塞ぐ。

 更なる攻撃を浴びせようとした【あなた】の右肩を銃弾が掠め、一瞬【あなた】の動きが鈍る――衝撃、大槌の直撃を浴びた【あなた】は大きく吹き飛び、血反吐を佩き散らす。

 人間なら即死している様な攻撃ですら、【あなた】は鮮明な意識を保ちながら耐えきり、そのまま跳んで追撃を退け、巨漢の両脚を切断する。


――それでも、死なない。


 血みどろの戦い。1回目の【再生】が【あなた】の胴体の傷を急速に、段階的に癒していくのを【あなた】は心地よく感じた。

 両脚を斬られたにも関わらず、巨漢は何事も無かったかのように歩いている。そう簡単には、【屍喰鬼グール】は死なない。


 【あなた】を苛立たせているのは【屍喰鬼グール】の匂いもそうだが、的確な連携で【あなた】の先手を取り続けている事だった。

 長銃による狙撃。【あなた】に向けられた銃口が光ったその瞬間、【長銃の屍喰鬼グール】の頭から血しぶきが上がった。狩猟刀で銃弾を正確に弾き返し、体勢を崩す。

 続く巨漢のタックルを左手を盾に凌ぎ、足を払って転がし、頭を踏み抜いて殺す。血の記憶が【あなた】の渇きを満たす。


――残り1つ。


 狩猟刀の一撃が【長銃の屍喰鬼グール】を大きく切り裂き、そのまま両断しようとして跳ね除けられ、【あなた】は体勢を崩す。


 【あなた】の頭を、バヨネットが半分、貫通する。


 だが、【あなた】が死ぬことは無い。力任せに放り投げた【長銃の屍喰鬼グール】にありったけの銃弾を浴びせて殺すと、ようやく【あなた】は長銃を引っこ抜いた。

 【あなた】の2度目の【再生】が急速に頭部の傷を塞いでいく。これで全ての【再生】を使い切った【あなた】だったが、余り探索は進んでいない。

 ふた【あなた】が物音に振り返るとそこにクレートが2つあった。


――赤い豪華なものと、緑色の少し煌びやかなもの。


 【あなた】が赤いクレートを開けるとそこに骨の様な、槍の様なものが収められていた。【あなた】が手に取るとそれは左腕に独りでに吸い込まれて行き、その悍ましき骨の槍が穂先をのぞかせる。


――内蔵処刑槍。インパクトの瞬間に射出された骨の槍が内部から爆散する。体勢を崩した時、これは相手を確実に殺すだろう。だが使用回数は限られている。


 【あなた】に体に強力な相棒が加わった。そしてもう一つは救急箱だった。【再生】で傷を癒せる【あなた】には不要なものだが、クレートの中身を改めると十分すぎる量の医薬品が詰まっている。


――たくさんの医療品がケースに気密状態で収められている。【あなた】には不要なものだが人間に対する交渉材料にはなるだろう。


 一先ず、探索を切り上げても良いだろう。【あなた】は十分な成果を得た。【あなた】はともかく医療品は繊細そのものだ。戦闘の結果台無しにすればそれはただのゴミだ。


――帰るか。


 【あなた】が気密ケースを拾い上げ、シェルターに戻ろうとすると、背後にその視線を感じた。


 それは、具現化した死、青い瞳を持つ獣と呼ぶには余りにも悍ましき【獣】。


 立体駐車場の屋上に陣取る猛禽の様にも見えるそれは、【あなた】を見下ろしていた。


 【あなた】の中で殺意が芽生える。


――この戦いからは逃れられそうにもない。


 降り注ぐ血の雨が【あなた】と全ての【屍喰鬼グール】を高揚させるが。【あなた】の目的は医療品を回収して帰ることで、【立体駐車場の獣】を相手にする事ではない。

 【あなた】の血が【獣】を殺せと叫ぶが、【あなた】の意志は声を抑え込んだ。取引の材料と、倒せるかどうか分からない相手では割りに合わない。


――降り注ぐ、赤い結晶が道路を破壊する。


 そして、【あなた】には対抗手段が無い。ハンドガンでは自由に飛び回る【立体駐車場の獣】を殺すのはまず不可能だ。


 さっきのクレートから長銃でも出れば話は別だったし、無いなら無いで適当に【屍喰鬼グール】から長銃でも奪うかと【あなた】は考えたが、【屍喰鬼グール】の持つ武器は奪えないらしい、と分っただけだった。


 つまり、【あなた】には逃げる以外の選択肢が無い。


 結局、一日中【あなた】は【立体駐車場の獣】から逃げ回る羽目になった。医療品を粉砕しなかったのだけは褒めても良い。と自室のベッドで寝転がりながら、疲れを癒したのであった。





 

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