2.人間は資源です


「――フムフム。シェルターの支配者が変わって耐えきれなくなって逃げて来た次第とな?」

「ええ、【吸血鬼】が居るなんて知ってたら来なかったけど!」


 【あなた】はその呼び方にムッとした。まるで【あなた】が血に飢えているようでは無いか。


「まあ事実ではあるがね。【転死者ディフェイテッド】も血に飢えている事には違いない、両者の違いは理性があることだけだからな――ただ強いて言うのであれば人間2人――親子では【ブルー・ブラッド】の飢えを満たすには不十分すぎる。取引しようじゃないかね?」

「取引って!」

「厭なら別にいいとも。厭なら2人とも【ブルー・ブラッド】のおやつにするだけだ。私としては別にどちらでも良いのだよ。もっと言えば、【転死者ディフェイテッド】の守りなしにこの世界を生き延びる事は不可能だ」


 電気に水道、ありとあらゆるインフラがシェルターにはあるのだ。そして何より人間を【屍喰鬼グール】から守る【転死者ディフェイテッド】が居る。


「それは……」

「精々高く売りたまえ。ああ一つ言っておくと下手な真似はよしておきたまえよ【ブルー・ブラッド】は私の部下でも無ければ上司でもないからな」


 くぎを刺したドクター・クランケは【ブルー・ブラッド】に向かって言った。


「各地にはこう言ったシェルターを失ったり、シェルターから出て行かざるを得なかった人間が居る。君の裁量で殺すなり引き入れるなりしたまえ。ただ何が出来るかは確認した方が良いかも知れんな」


――詳しい説明をして欲しい。


 【あなた】がこれから会う人間を連れて帰るか殺すかどちらにするにせよその基準は欲しい。とドクター・クランケに要求した。

 そもそも血袋は何が出来るんだ。


「ふむ、平たく言えば【血袋】とは【転死者ディフェイテッド】の食糧とも言って良い。人間から多少の血を啜る事で【転死者ディフェイテッド】は活動が可能だ。これは【屍喰鬼グール】や同じ【転死者ディフェイテッド】からでは無理なことなのだよ」


 まあ、1人の人間から吸い続けると死ぬから、最低でも成人で4人は必要だろう。とドクター・クランケは【あなた】に言った。ドクター・クランケとこの母親で2人だ。

 子供――男の子は元気そうだが【あなた】の渇きを癒すほどの血はなさそうだ。


「次に、人間を養うとなると当然食糧が要る。クレートから人間、【転死者ディフェイテッド】共通の缶詰が出る事は確認されているが、畑やプラントで恒常的に確保する必要がある。つまり体が丈夫な人間が必要と言う訳だ」


 【あなた】の身体能力は人間のそれを遥かに越えているが、その為に使っていたら何もできない。となるとやはり誰かを勧誘するか拉致するかは必要になって来る。


「次に電力と水だ。電力に関しては問題は今のところないが水だ。清潔な水を確保する方法を確立しない限りはいずれ死ぬだろう。これは食糧よりも重要な問題だと言える。仮に確保するなら水が最優先だ。他はクレートを荒らし回れば大体どうにかなる」


 【あなた】が探す基準は水を確保する手段が1番で、それから相応の人物探しらしい。果たして【あなた】は何時復讐とやらに赴けるのかが分からなくなって来た。


「ハッキリ言っておくが、君が強くなるためにもシェルターの強化は重要だ。君には目標として数値化した――シェルターレベルを指標として用意しておく」


 【あなた】のPDAからホログラフが投射され、虚空に6つの項目が表示された。人口だけは2だが、他は1だ。


「シェルターレベルは【総合】・【人口】・【食料】・【電力】・【水源】・【防衛】の6つだ。この内【総合】は最も低いものに合わせられる。そして【人口】が【食料】・【水源】の合計よりも多くなると維持が危うくなると考えて良い。因みに判断基準は私が決めている」


 【あなた】の目標が幾つも更新された。【あなた】は近くにある【水源】を探しに行かなければならない。

 【あなた】のPDAには設定された小目標がホログラフとして虚空に浮いている。


・【人間】を探して勧誘する。

・【水源】や【食料】を探す。

・【獣】の討伐。

・【クイーン・ベルベット】の討伐。


 1度にまとめて用意してくれれば良いものを、と【あなた】は思いながら、再びシェルターを後にした。

 【屍喰鬼グール】の気配が、【あなた】を苛立たせる。


――殺す。




 

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