第4話 はんぺんも紅く染まるこんな世の中
大歓喜しながら要塞の奥へ飛び込んでいったはんぺん。そして──
「あぁ、勇者様! お待ちしておりました~!!」
ファ×コン時代のゲームによく出現しそうな王冠にドレスを着けたお姫様が、涙を流しながら俺たちに駆け寄ってくる。ファッションはともかくなかなか可愛い。
はんぺんはもうテンション最高潮。
「お姫様ぁ~! 僕です、僕が勇者どぇ~す!」
「おい。ゴブリンの群れ突破したの俺だぞ」
そんな俺の突っ込みなどものともせず、ぴょ~んとダイブしながらお姫様に飛びついていくはんぺん。
「さぁさぁ王女様~、君は僕のハーレム第一号だよ!
勇者たる僕に早速熱いチッスを、ベーゼを、パ〇ズリを、そして晴れて僕は童貞卒ぎょ」
はんぺんが叫びながらお姫様に触れようとした、その瞬間。
気がつくと俺たちは、どういうわけか街に戻っており。
どういうわけか宿屋の受付にいた。
そして宿屋の主人が、にこやかに言ってのける。
「ゆうべは おたのしみでしたね♪」
ただただ茫然と、宿屋の主人を見つめているはんぺん。
「いや、ゆうべもおたのしみも何も……
僕らさっきまで、ダンジョンにいたんじゃないの?
お姫様を助けて、もうちょっとでチッスできるはずだったんだけど?
ねぇ、お姫様?」
すぐ隣にいるお姫様に、青くなって尋ねるはんぺん。
しかしお姫様はそっと顔を赤らめ、恥ずかしげに身をよじる。
「いやですわ、はんぺん様……
ゆうべあれほど求めていらっしゃったのに……まだ足りないと……?
わたくし、さすがに身体が持ちませんわ」
やたらと色っぽい声になって身体をくねらせるお姫様。
一体何が起こったのか。はんぺんは目をぱちくりさせながら彼女を見つめていたが──
「ありがとう、はんぺん様。
わたくし、忘れませんわ。ゆうべのあ・な・た♪」
はんぺんの小さな鼻を悪戯っぽくちょいとつつくと、お姫様はさっさと宿屋を出ていってしまった。
無言で立ちすくむはんぺん。の横で、ルーナが苦笑しながら頭をかいていた。
「あちゃー、自動発動しちゃったみたいですねぇ。空術」
「へ?」
意味が分からない。空白行の間に何かが起こったのは確かだが、自動発動?
そんなことが起こりうるのか。
「はんぺんさん。
さっき貴方がお姫様にしようとしてたことって、原則、この世界じゃ出来ないんです」
「……ふぉえ?」
なんて声してんだお前。
そんな俺たちに、ルーナはない胸を張りながら堂々と説明する。
「いいですか、皆さん。
この世界はストレスフリーの、健全な世界。
ストレスの要因となりうるバトルに突入したり、健全とはいえない行動を取ろうとすると──
その時間は全て、空術の自動発動によってスキップされます」
ようやく事態を呑み込めてきたのか。
はんぺんはゾンビの唸り声かというほどの低い声で、ルーナに尋ねる。
「つまり……
えっちスケベをしようとすると、その時間がスキップされちゃうってこと?
僕が何もしてないのに、えっちしたことになっちゃうってこと?」
「ご理解が早く助かります♪」
「僕、卒業してないんだけど」
「何をですか」
「チッスもしてないよ?」
「だから駄目なんです」
「パイタッチもしてないよ?」
「それも駄目です」
「パ×ツも見てないよ?」
「だから駄目」
「手すら繋いでなかったのに」
「それはスミマセンでした」
この問答に。
はんぺんの顔色が、一気に白から真っ赤に変わった。
「じょじょじょじょ冗談じゃないよっ!!
異世界といえばハーレム! パン×ラ! 女×盛り! めくるめく酒池肉林でしょー!?
それなくして何が異世界だよっ、馬鹿にしてんの!?
そもそも、何もやってないのに何でやり尽くしたことになってんの!!?」
ヤカンの如く沸騰するはんぺんに、やれやれと頭をかくルーナ。
「はぁ~しょうがないですねぇ。
これでも結構、ギリギリの線で頑張ったんですよ?
本来、はんぺんさんみたいな欲求を抱くこと自体がありえないんですから」
「ありえない? 人間の三大欲求の一つがありえないって?」
「とにかく!
この世界を創造した神様は、そのような不健全なことを決して許さないお方です。
だから、宿屋でのこのやりとりだけでもやっとなんですよ。ヘタしたらこれすら、神様のお怒りに触れてしまうかも知れません」
「何、その神様って? そんなド理不尽な神様、最強のこの僕がやっつけてやるよぉ!!」
「無理です」
「何で!?」
執拗に食い下がるはんぺんに、ふんと鼻を鳴らしながら腰に両手をあてて、ルーナは言い放った。
「いいですか、皆さん。この『ウナロ』において、神様は絶対です。
ストレスに繋がる行動、出血を伴う残酷なバトル、えっちな行為。
これらを無理にでもやろうとすれば──
その瞬間にこの世界は、神様の手で消滅させられてしまいますよ!」
「「「な……
なんだってぇええぇええーーーーーーッッ!!!???」」」
異世界で遭遇した、あまりの現実に。
俺たちはこんなお決まりの絶叫を上げることしか、出来なかった。
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