第3話 無こそ最強




「わぁ、お姫様の救出だって!

 賞金は10万G、理想的な依頼だね!!」

「しかもこの洞窟、難攻不落の要塞らしいですよ!

 最強のボクらにはうってつけでは?」


 まともそうな依頼で何よりだ。


「それじゃとりあえず、装備を整えよう。

 武器屋はどこだ?」


 俺はルーナに尋ねてみたが、彼女は困ったように首を傾げた。


「あ……すみません。

 武器屋というのは、ないんですよ」

「えっ?」

「ど、どういうことです?」


 この時点で不審な匂いに気づいた玉露は、若干青くなっていた。


「武器屋に行って武器を揃えるのは、全てのRPGの基本ですよね?」

「てか、剣も持たないでどうやって魔物と戦うの?」

「あー、いやー、そのー……」


 決まり悪げな愛想笑いを浮かべる駄天使。嫌な予感がする。


「この世界、武器というものがないんですよ」

「「「は?」」」

「というか、他者を殺傷する凶器は、存在自体が許されないんです。

 剣、銃、弓、槍、爆弾、その他もろもろ。

 これらは全て、流血大惨事のストレスに繋がるものですからね」

「え……?」


 玉露の顔色が、青を通り越して真っ白になる。

 その一方で、もっともな疑問を呈するはんぺん。


「じゃあ、どうやって敵をやっつければいいのさ?

 武器がなきゃモンスターをやっつけられないしお姫様も助けられないよ?」

「それならご心配なく!

 ちゃんとその為の最強術を、貴方がたは既にお持ちのはずです♪」

「ふぅん。術ねぇ」

「百聞は一見に如かず。現場に到着次第お教えしますので、早速出発しましょー!!」

「剣もない……刀もない……銃もない……

 それじゃ、それじゃ……」


 なるほど。武器が使えないかわりに術で何とかするというわけか。

 完全に白くなったまんまの玉露を引きずるようにしながら、俺たちはルーナに導かれ、依頼にあった要塞へと向かった。



 ***



 約一名を除き、意気揚々と要塞入口へと到着した俺たち一行。

 はんぺんが元気いっぱいに太腕を振り回す。女の子が一緒のパーティというだけで興奮しきりのようだ。例えそれがウサ耳の駄天使であろうと。


「ねぇねぇルーナちゃん、具体的に術ってなーに?

 僕個人的には風術がいーなぁ、ハプニングを誘って女の子のパ〇チラは勿論、風の刃で服を少しずつ……いや、水術でずぶ濡れにしてスケスケも捨てがたいよね……

 夢が広がるなぁ♪ グフ、グフフフフフ」

「ボク的には炎か電撃で丸焼きにしたいですけどね。はんぺんさんを」


 頬を紅潮させるはんぺんに、テンション最低のまま呟く玉露。

 しかしそんな俺たちの前に、要塞の中からゴブリンの群れが現れた!!

 しかも2,3匹という数ではない。軽く100匹ぐらいはいるだろうか。


「な、なな何コレ!? 敵の数の設定雑すぎない?」

「最初のダンジョンで遭遇する数じゃありませんよぉ!!」

「くっ……雑魚ゴブリンとはいえ、こんな数をどうやって?」


 仰天して立ちすくんでしまった俺たちに、ルーナは意気揚々と胸を張った。ない胸を。


「だいじょーぶ!

 ここでこそ、皆さんの最強スキル、『空術』の出番です!」

「く、空術?」

「とりあえず銀さん! 意識を集中させて、術を使ってみてください!!」


 敵はどんどん迫ってくる。ルーナの言う通り、やるしかない。

 俺はじっと目を瞑り、意識を集中させた。







 ふと気づいた時、俺たちの周りを埋め尽くしていたのは──

 思いきりぶちのめされ気絶した、大量のゴブリンの群れ。

 全て一様に目を回し、完全に戦闘不能となっている。意識がある奴もわずかながらいたが、「うー、ヤラレター」などと呟くのみ。

 抜け殻のようになってしまったゴブリンどもの中央に、俺たち3人組はただ茫然と立ち尽くしていた。


「な、何をしたんだ、俺は?」


 この状況に、さすがに面食らってしまう俺。他の2人も何が起こったのかさっぱり分からず、きょろきょろするばかりだ。

 ルーナが満面の笑顔で説明する。


「うわー、初めてなのに凄いです銀さん!

 これぞ、理想的な空術の使い方なんですよ」

「空術? 今のが?」

「はい。

 正確には『空白術』と言います」

「空白術?」

「今、銀さんが意識を集中した直後、6行の空白が生まれましたよね。

 その間にゴブリンたちが全滅したんです!!」

「……へ?」


 全く意味が分からない。

 俺が意識を集中しただけで、敵が吹っ飛んだ。そう解釈するしかないのか。

 すごいすごいとはしゃぐルーナ。その横で、玉露が静かに一匹のゴブリンの前に屈みこみながら、何やらぶつぶつ呟いていた。


「血……出てない。

 傷……ついてない。

 血も……傷も……どこにも、ない……

 これが、無双バトル? これが答えなの? ボクの求めていた……」


 アカン。早くも玉露のA〇フィールドが溶けかかっている。

 そんな後輩を完全に無視しながら、はんぺんが喜び勇んでバンザイしていた。


「やった、やったー!!

 なんだかよく分からないけど、とりあえず最初のダンジョンクリアってことでいいよね!

 お姫様ー! 今助けに行きまーす!!」


 はんぺんが勢いよく、要塞の奥へと突っ込んでいくと──




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