第117話
「――何なんだよ、くそっ」
何故か一人小屋から放り出された仁内は、周りにぼうぼうと生える草木を蹴って八つ当たりしながら苛立っていた。
これから斗真と山城の男は、灯乃の話をする。
しかしそれに仁内は加わることを許されず、今に至る。
「何で駄目なんだよ。俺だって、あいつの三日鷺なんだぞ」
無関係の筈がない。
それなのに追い出されるというのは、仁内でも納得がいかなかった。
何より灯乃のことであるのなら、余計に譲れない。
彼女の闇を理解し、彼女を真っ先に護ってやれるのは、他の誰でもなく仁内自身だとも思っているのだ。
「あいつだって俺に言ったんだ、俺は必要な奴だって。ちゃんと傍にいろって。だから俺は……」
“私、春明さんと一緒に行きたい”
「……俺はいらない奴なんかじゃねぇ、よな? 灯乃」
仁内は空を仰ぎ、傍にいない彼女の姿をそこに思い浮かべた。
たとえ斗真に信用されていなくても、あの目を灯乃に使っている春明の方が信頼できると言われても。
――灯乃が俺を必要としてくれるなら
そう思うが、そんな時何故だか仁内の手が一度ぶるっと震えた。
まさか不安に感じているとでもいうのだろうか?
彼もそれに勘づきながらも、否定するように手をぎゅっと握り、無理やり震えを抑え込んだ。
――灯乃が嘘をつく訳ねぇ。春明についていったのは、あの目のせいなんだ。早く帰って俺が護ってやらねぇと
仁内はそう思い、洞窟の方を眺めた。
だが斗真が出てこない限り、どうすることが正解なのか分からない。
「結局待つしかねぇのかよ、あの野郎を」
仁内は斗真のやり方に不満を漏らしながらも、従わざるを得ない状況に立ち尽くした。
と、その時、一つの気配が彼に近づいてくる。
――この気配は……!
「やっぱ追ってきてたのはてめぇだったか、朱飛」
完全に撒いた筈だったが、やはり探り当ててきたのか、忍び装束姿の朱飛が仁内の前へ現れた。
だが、おかしなことに仲間の姿が見当たらない。
どうやら彼女一人らしい。
「一人か? 他の連中はどうした? 隠れてんのか?」
仁内はそう言って、瞬時に半月斧を構え周囲の気配を探る。
しかし目の前の朱飛にしか、人の気配を感じない。
「マジで一人なのか? だとしたら、舐められたもんだな」
「私は戦いに来た訳ではありません。交渉しに来たのです」
「あ?」
朱飛はそう告げると両手を上げ、戦闘の意思がないことを示した。
「取り引きしませんか、仁内様。我々に三日鷺の欠片をお渡し下されば、我々はあなたに《今一番あなたが欲しい情報》を提供することができます」
「俺が今一番欲しい情報?」
仁内は訝しみながら彼女を見ると、朱飛の小さな口が静かに動き出す。
「唯朝 灯乃を、紅蓮の三日鷺から解放する方法です」
「な、何だと……!?」
仁内は驚愕を覚えた。
どういうことだ?
何故朱飛は、そんな取り引きを持ちかけてくる?
いや、そもそも灯乃を紅蓮の三日鷺から解放できるというのか?
彼女を救えるというのか?
「そんな方法があるのか? 本当に?」
「えぇ」
「何で俺に教える? てめぇらは三日鷺を復活させることが目的なんだろ?」
「それも方法を知れば、分かることです。どうでしょう、仁内様。この取り引き、悪い話ではないと思いますが?」
そらすことのない双眸が仁内をじっと見据える。
どうやら冗談を言っている訳ではなさそうだった。
しかし、確証させるものも何もない。
もしかしたら、欠片を手に入れる為の嘘かもしれない。
――どうする?
「先に教えろ。そうすりゃ欠片を渡すかどうか、考えてやってもいい」
仁内は言った。
しかし、先に方法を知ってしまえば、わざわざ欠片を渡してやることもない。
朱飛に言ったものの、彼女がのってくる筈はないだろうと仁内は思っていると。
「分かりました、いいでしょう。先にお教えします」
あっさり朱飛が条件をのんできたことに、仁内は驚いた。
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