第108話

 「……はるめ? 誰よそれ」

 「どこのクラスの奴なの?」

 「ねぇ、雄二君は知ってる?」


 差出人の名前を確認するや否や、女子達は顔を寄せ合って情報をかき集めるも、該当者が見つけられなかったのか、雄二へと質問を投げかける。


 「……知らねぇよ。行く気もねぇし」


 雄二は外方を向くと、素っ気なく小さく答えた。


 だが心中は、そんな穏やかな筈もない。

 知らない訳がないのだ、春明を。

 果たして彼の目的は雄二か、それとも二つの三日鷺の欠片か。

 いや、この手紙の目的はおそらく――


 「お前ら、まさか体育館裏に行ったりしねぇよな?」

 「えっ」


 手紙一つで騒ぎ立てる女子達に、雄二は訊ねた。

 考えなくても分かる、この手紙は雄二ではなく彼女ら6人を誘っているのだ。

 そうすることで雄二から彼女らを引き離そうというのだろう。

 見え透いた魂胆だ。

 しかし――


 「まっまさか、行かないわよ」

 「そ、そうよ。雄二君が行かないんだもの、すぐに諦めるわよ、きっと」

 「……」


 明らかに目が泳いでいる6人に、雄二は怪訝な目で疑うよりなかった。

 そして。


 「やっぱりかよっ」


 昼休みになり周囲が賑やかになるが、雄二の席にあの6人は現れなかった。


 ――行くなって言ったのに、これかよ。でも、おかげで自由に動ける


 雄二はそう思うと、すぐさま気持ちを切り替え灯乃の方へ歩いていく。

 灯乃の方も意識していたのか、一瞬の目配りだけで前を通り過ぎていく彼にすぐ反応して、静かに席を立つと、教室を出ていく雄二を追って灯乃も教室を出ようとした。

 が。


 「一人で雄二を追う気?」


 既のところでみつりに腕を掴まれる灯乃。

 学校では一緒に行動するよう言われていたのだから当然だった。


 「違うよ、トイレだよ。すぐ戻ってくるから」


 見え透いた嘘だと灯乃も思うが、一人になる口実がそれしか思い浮かばず苦笑いで誤魔化す。


 ――やっと雄二が一人になってチャンスが出来たんだ。今を逃す訳にはいかない


 灯乃は少し強引に腕を振り払って言い切ると、みつりが口を開く前に教室を出て行った。

 しかしもちろんそれでみつりが納得する筈もなく、彼女の後を追おうと廊下に出ると、見張っていた楓の仲間達も隠れて一緒に動き出す。

 幸い、今は賑やかな昼休み。

 そう目立つこともなく、みつり達は灯乃を追った。


 ――雄二、どこへいったの?


 一方灯乃は少し出遅れたせいか、彼を見失ってしまい向かった方へ慌てて走る。

 すると分かれ道に差し掛かり迷っていると、突然横から出てきた手に腕を引っ張られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る