第72話

 その頃学校では。

 正門から入ってくるみつりを見て、雄二と仁内は言葉を詰まらせた。

 彼女は包帯を巻いている。

 それも、昨夜の般若面がクナイを受けた場所である左肩に。


 ――まさか……!?


 二人はすぐにみつりを般若面の敵と重ね合わせたが、そんな二人に彼女はいつも通りの様子で近づき、首を傾げた。


 「二人共、どうしたの? 変な顔して」

 「……みつり。その肩、どうしたんだよ?」


 雄二が警戒しながら訊ねるが、そんな彼とは対照的に、みつりは平然とあぁこれ?と苦笑する。


 「昨日、家で荷物の整理をしていたら、棚の一番上から荷物が落ちてきたの。それ程重い物じゃなかったから打撲くらいで済んだんだけど」

 「打撲……?」


 彼女の言葉に二人は顔を見合わせた。

 昨夜の敵は、クナイが突き刺さり深い傷を負っている。

 いわれてみれば、みつりの包帯の巻き方は簡易過ぎていて、それこそ軽い打撲を処置した巻き方であるといえた。


 ――奴ではない、のだろうか?


 「ねぇ、私のこと心配してくれたの?」

 「別に」


 嬉しそうに訊いてくるみつりに雄二はそっけなく返すと、仁内と共に校内へと足を進める。

 傷ついた般若面の敵は、おそらく女だろう。

 だからみつりをすぐに疑ってしまったというのもあるが、雄二の中ではもう一つ別の理由があった。

 それは、雄二が見た鎖使いの素性。


 「ひゃっ」


 その時、みつりが小さく悲鳴をあげ、雄二達は振り向いた。

 すると――


 「よう。朝っぱらから仲良いな、お前ら」

 「げ」


 彼女の頭の上に大きな左手をのせて二カッと笑う主将の姿があって、仁内は思わず嫌そうな表情をそのまま顔にあらわした。

 また組み手の相手をさせられて痛い思いをするのではと、彼の脳内で昨日の苦悩を呼び覚ます。

 だが、雄二は途端に身構えると、険しい顔で仁内に呟いた。


 「おい、気をつけろ――あいつだ」

 「は?」


 その一言に、仁内は一瞬何を言っているのか分からなかったが、次の瞬間、主将に不気味な笑みが浮かび上がると、仁内の全身にゾワッと悪寒が走った。


 「そんな怖い顔すんなよ、雄二」


 主将は左手をそのままに、右手からそっとクナイを取り出し、みつりの首へその先を近づけた。

 ひんやりとした尖った物が僅かにあたり、それが刃物だと気づいたみつりの表情は、一気に恐怖で強ばる。

 雄二が見た般若面の鎖使いは、彼だったのだ。


 「主将……」

 「お前ら、ちょっと俺に付き合え。嫌とは言わせねぇ――分かるよな?」


 みつりを人質にするつもりなのだろうか。

 首元でクナイの刃をちらつかせると、主将は彼女の腕を掴み、三人をひと気のない場所へと向かわせた。

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