第31話

その頃、雄二たちも火事の光に気づきそれを見ていた。


 「嫌な方角から見えますね?」

 「えぇ、灯乃ちゃん家がある方だわ」

 「もう一方は……俺ん家がある」

 「えっ!?」


 雄二の一言を聞いて、春明と朱飛は振り向く。

 一方は灯乃の家ではないかと推測出来るが、もう一方が雄二の家とは考え難かったのだ。

 なぜなら雄二が関わったのは、つい数時間前のことで、その間に自宅まで調べ上げられるとは到底思えなかった。

 しかし他に心当たりもなく、彼の顔色がみるみる変わる。


 「おい、家には父さんと母さんがいるんだぞ? 冗談だよな、俺ん家じゃねぇよな?」

 「分かりません。まだ奴らが放ったものかも断定出来ませんし、調べてみないことには……」

 「じゃあ調べてくれよ、今すぐ!」

 「雄二君、落ち着いて!」


 雄二の動揺に、春明が両手で彼の肩をおさえて鎮める。

 雄二の不安も分かるが、かといって簡単に動ける訳ではない。

 朱飛がトキ子を送り届けた時は、命令上、細心の注意をはらい敵の追撃も覚悟してのやむを得ない行動だった。

 しかし今回は、それほどの危険をおかしてまでも調べなければならないことではない。

 少なくとも雄二以外の者はそう思っていた。


 「奴らが何処に潜んでいるのか分かりません。今出ていくのは危険行為です」

 「なら俺だけで行く。お前らはここにいろ」

 「そんなの駄目に決まってるでしょ!」


 雄二の言葉を聞いて、春明が声を荒げた。


 「私はあなたを護るよう、命令されているわ。一人で行かせる訳にはいかない」

 「でもっ!」

 「どうしても行くというなら、私も一緒に行くわ」


 春明の真剣な目が真っ直ぐ向けられ、雄二は言葉を喉に詰まらせた。

 春明の足は重傷で、無理はさせられないのだ。

 雄二は力んでいた肩を落とし、はぁと息を吐いた。


 「……分かったよ。出ていったりしないから、無茶なことは言わないでくれ」

 「あなたもね、雄二君」


 少し平常心を取り戻したのか、雄二が呟くように言うと、春明はホッとしてクスッと微笑んだ。


 それから暫くして、足の疲労からか春明は眠りにつき、他の者たちも休む準備に入っていた。

 そんな中で、雄二はやはり自宅が気になるのか、内緒でこっそり抜け出し、外に出る。

 しかし。


 「いけませんよ」

 「朱飛……!」


 気づかれていたのか、朱飛が先回りしていて、正面から彼と対峙する。

 彼女の目は彼の考えを見透かしているようで、その真っ直ぐな視線に雄二は言い逃れ出来ないと俯いた。


 「俺ん家が燃えてるかもしれねぇんだ。帰んなきゃ、家族がやべぇだろ……っ」

 「しかしあなたが動いたと知れば、春明様も動きます。あなたを護れと命令されているのですから」

 「けどこのまま放っておくなんて、俺には出来ない!」


 雄二が意思を変えることなくはっきりと答えると、突然朱飛のクナイが彼のすぐ側を飛んだ。

 驚いて雄二が見ると、彼女は凍りつく程冷たく睨んでいて、二射目のクナイを構える。


 「春明様にこれ以上ご負担をかけさせる訳にはいきません。それは――私が許さない」

 「朱飛……?」


 いつもの落ち着いた雰囲気とは違って、感情を露にする彼女に雄二が目を丸めていると、それに朱飛自身も気づいて罰が悪そうに目をそらす。


 「どうしてもと言うなら……仕方ありません、私が行ってきましょう。燃えているのはあなたの家なのか、家族の者は無事なのか、私が確認してきます」

 「でもお前も危ねぇんだろ?」

 「私の身を案じるのであれば、大人しくして頂きたい」

 「嫌だね」


 あくまで言うことを聞かない雄二に、朱飛が不機嫌に目をつり上げると、何かを思い立ったのか雄二は口を開く。


 「だったら、俺とお前で一緒に行けばいい」

 「え?」

 「春明さんに気づかれる前に戻ってきたらいいんだろ?」

 「しかし戻ってこられる保証はありませんし、行った先であなたに何かあれば……」

 「灯乃たちと会えるかもしれなくてもか?」


 雄二の言葉に朱飛はハッとした。

 もう一方の出火場所が灯乃の家ならば、彼女たちも何かしらの情報を得ようと動いているかもしれない。


 「合流出来る可能性は高いと思うぜ? そうなればリスクは格段に下がる、だろ?」

 「……分かりました。行きましょう、あなたと私で」


 彼の自信と勇ましい態度に、朱飛は感服して共に行くことを了承した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る