第29話

 「あんまり外にいると、見つかっちゃうよ?」


 庭で夜空を眺める斗真を見つけて、灯乃は声をかけた。

 しかし彼は何処かぼんやりとしていて、返答がなかったのもあってか灯乃は心配になって近寄る。


 「星花さんのこと、やっぱり考えちゃうよね? 心配?」


 当たり前なのにそれしか言えず、けれど星香の名に反応してか斗真の顔が彼女の方へ向いた。

 余裕のない不安定な表情。


 「当然だ。あいつはきっと唆されただけなんだ。それに、たぶん俺のせいでもある」

 「え?」

 「仁内が言っていただろ? 悔しいが、同じようなことを星にも言われたんだ、斗真は何も分かっていないと。俺があいつの気持ちを分かってやれていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない」


 自分自身を責め立て、苦悩に眉を歪める斗真。

 しかしそんな彼に対してどう返して良いのか分からず、灯乃はただ黙っていると、斗真が一度瞼を閉じ、ゆっくりと開き直してから、少し落ち着いた様子で続けた。


 「俺を斬った後、星も道薛と同様、斬られたんだ。あの男に」

 「あの男……?」

 「だから俺は星が裏切ったとは思わない。必ず三日鷺で星を取り戻す。そして聞きたいんだ、あいつの気持ちを」

 「斗真……」


 苦しみながらも、しっかりと答えを見つけ前を向いている彼の眼差しを見て、灯乃は少し寂しく思いながらもホッとした。


 ――やっぱり斗真は強くて、優しいんだね


 「一緒に行こう、斗真」


 灯乃はにっこりと笑って言った。

 きっと難しく言葉を選ぶ必要はない、ちゃんと進む道が見えている彼なのだから。


 「私があなたの剣になる、盾にもなる。二人がいくらでも話し合えるように、いっぱいチャンスを作ってあげる」

 「っ!」

 「私があなたを護る。任せて」


 今はただ自分の意志を伝える。それだけで良いと灯乃は思った。

 そんな温かい彼女の笑顔に、斗真はハッとする。


 ――そうだった、彼女はもう姉と話し合うことは出来ない……

 それなのに俺を気遣って、笑って

 俺は彼女に甘え過ぎていた。本当は早く姉の話を訊きたいだろうに。


 「……ごめん」

 「え?」


 斗真は今、改めて思い知った。

 無力で助けて貰わなければ何も出来ない、それがこんなにも悔しくて情けないことを。


 「中へ戻ろう。唯朝陽子のことを、あいつに問いたださないとな」

 「あ、うん」


 すると、その時。


 ――ドン、ドンッ!!!!


 何処か遠くの方から、大きな爆発音が2回鳴り響いた。

 空を見上げると、離れた二ヶ所から煙が上り、周りが明るくなっている。


 「火事か……!?」

 「――うっ!」


 その瞬間、灯乃の心臓が急に大きくはねた。

 胸が熱い。身体の中で、何かが焼き消されていくようだ。


 ――三日鷺ノ誰カガ……燃エテイル……?


 「まさか……!!」


 灯乃は何かに気づいて煙の方角を確認する。

 その二つの方角には、灯乃と雄二の家があった。

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