第27話
「いくぞ」
雄二が動いた。
胸の欠片が紅く光り、一瞬影たちの目を眩ますと、その隙を見逃さず雄二が一発腹に入れる。
それに続くようにして、春明と朱飛も戦った。
雄二の間合いが狭い分、春明の薙刀で援護し、朱飛のクナイが武器破壊を狙って敵の手元へ一斉に飛ぶ。
そして。
「走れ!」
影たちの態勢が崩れた瞬間に、三人は駆け出す。
皆にそれぞれ疲弊がみられたが、中でも春明は足の怪我もあって、二人に遅れをとり始めていた。
すると、雄二が春明を抱き上げて走り出す。
「雄二くんっ!?」
「足、辛いんだろ?」
そう言ってまっすぐ前を向いて走る彼に、春明は目を丸くする。
「おい、お前! おばさんを頼む!」
「え?」
一方で雄二が朱飛に叫ぶと、まっすぐ進んだ先の電柱に寄りかかって眠っているトキ子の姿を彼女は見つけた。
「送り届けず、あんな所に放置していたのですか? 結構人の扱いが雑ですね」
「仕様がねぇだろ! そんな時間なかったんだし!」
朱飛がブツブツと雄二に小言を言いながらも、トキ子を回収しに走る。
するとその時、背後から幾つもの手裏剣が飛んできて、追ってくる影たちが見えた。
「朱飛、急いで!」
春明が抱きかかえられながらも薙刀で手裏剣を払い除けると、そんな時、上から何人もの黒ずくめの男たちが舞い降りてきた。
――まずい!
三人はそう思ったが。
「無事か、朱飛」
「え?」
男の一人がそう口にし、その集団は四人を護るように黒紅の影たちの前に立ち塞がった。
どうやら朱飛の仲間だったようで、彼女を助ける為にやって来たのだ。
「皆……!」
「あの
「こっちだ、ついてこい」
男の誰かが発煙弾を投げ込み、影たちとの境が真っ白な煙でいっぱいになると、雄二らを誘導するように走った。
*
「――終わった……」
ホッと息を吐く仁内の周りには、何人もの黒紅の影たちが意識を失い倒れていた。
動く敵はもういない。全員斬ったのか、灯乃は刀を納めた。
「灯乃……平気か?」
「え? うん、私は大丈夫」
訝しく訊ねてくる斗真の表情に、灯乃は首を傾げていると、仁内も疑念を浮かべた顔で近づく。
刀を納めたことで元の姿に戻った彼女だったが、どことなく雰囲気が違っているように二人は思えた。
「てめぇ、何がどうなってんだ?」
「どうって?」
「灯乃。お前、俺が命令する前に刀で攻撃を躱しただろ?」
「俺の身体も、命じられてねぇのに勝手に動きやがった」
不可解と言わんばかりの二人の言い方に、灯乃はそういえばとハッとする。
「確か三日鷺が、私の身体が焔に燃やされないよう私に同化するとか、何とか……」
「同化!?」
突拍子もない単語が出て来て、二人は思わず声をあげた。
――三日鷺が灯乃に同化するということは、灯乃自身が三日鷺にとってかわるということなのか?
斗真はそんなことを考えながら、先程の戦闘を思い出す。
――斬った瞬間だけ、灯乃の装束が桜色に変わっていた。装束の色が白に近い程、三日鷺の望みに近づく。だとしたら、三日鷺の望みは……
「わ……若……っ」
そんな時、何処からか小さく声がした。
どうやら黒紅の男たちが目を覚ましたらしいが、先程までの殺気はなく、普通の人のようにゆっくりと起き上がる。
するとその中に見知った顔を見つけたのか、斗真が近づいていく。
「
「はい……若、ご無事で……」
「若?」
聞き慣れない言葉を聞いて、灯乃はポツリと呟く。
二人のやり取りから見て、若というのは斗真のことらしいが、確かに普段の彼の立ち振る舞いからしても、若と呼ぶのにそう違和感がないように思えた。
やはり何処かの坊ちゃんなのだろうかと、灯乃が自分との違いをひしひし感じていると。
「もしかしてこいつら、本家の奴らか?」
側で仁内が言葉を漏らし、眉を釣り上げた。
本家――それは大きな一族が絡んでいるということなのだろうか?
そして仁内もまたそれに関わりがあるように聞こえる。
灯乃はそんなことを思い、見ていた。
「若、申し訳ありません。我々のせいで、若が……」
「もういい。それよりお前たちに大事がなくて良かった」
男たちが頭を下げる中、斗真はおもむろに肩を撫で下ろしホッとした顔を見せると、そんな彼に仁内が近づき口を開く。
「斗真、本家で何があった? こいつら斬って操ってたのは、誰なんだよ? まさかこの期に及んで、しらばっくれたりしねぇよな?」
睨む目で仁内が見ると、斗真は考えをまとめるかのように少し間を置き、答える。
「……しらばくれるも何も、お前に話す義理はない」
「てめぇ……っ!」
「だが――」
斗真の瞳がまっすぐ仁内へ向いた。
「唯朝陽子について、お前が知っていることを全て話すというなら、話してやってもいい」
「っ!?」
「お姉ちゃんの、こと……?」
まさかこの場で自身の姉の名が出てくるとは思わず、灯乃は頭の回転が追いつかないままポカンとする。
それは仁内も同じだったのか、まるで苦虫を踏み潰したような顔で斗真を見ると、彼の強い目力が更に追い打ちをかけてきた。
「まさかこの期に及んで、しらばくれたりしないよな?」
「……う……」
そっくりそのまま言葉を返されて仁内はグウの音も出ずにいたが、ふと灯乃が視界に入ると、途端に諦めて溜息を吐いた。
――どうせここで拒んでも、こいつに命令されりゃあ一緒か。
「……分かったよ。話せばいいんだろ、話せば」
仁内は小さく答えた。
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