第19話

 「……何だよ、命令って。命令されるだけで、あんなになっちまうのかよ……?」


 ついさっきまで何も出来ずに悲鳴をあげていた、ただの女の子だった筈なのに。

 雄二が全く別人を見るような眼で、灯乃を見ている。

 その視線に耐えられなくなったのか、彼女は下唇を噛み締め、塀の内側へと飛び降りて姿を隠した。


 「灯乃! 待てよ! 灯乃っ!!」


 今までずっと一緒にいた幼馴染みだった。

 知らないことなんてほとんどなくて、何でも話し合えた。


 ――三日鷺のことを、雄二にだけは……話していいだろうか?


 彼にだけはきちんと説明したい、灯乃はそう思っていた。

 雄二なら分かってくれる、力になってくれる、そんな気がするのだ。しかし、


 「春明、後のことは任せる」


 外側から斗真の声が聞こえ、灯乃はグッと拳を胸に押さえつけた。


 ――周りを巻き込みたくないなら、ここに居ろ


 斗真はきっと、それを許さない。


 「分かったわ」


 春明がそう言うと、いつの間にか落下したショックで気を失っている母親を斗真は抱き上げ、中へと戻っていった。


 「おい、待てって言ってるだろ!」


 斗真を追って雄二も中へ入ろうとするが、すぐさま春明の手によって制止がかかる。


 「ここまでよ。ここから先はあなたを近づけさせられない」

 「っ、それも奴の命令かよ。何なんだよ、命令って……」


 雄二は苛立ちで地面を蹴り上げるが、春明は動じることなく考えた。


 ――簡単に任せるって言われても……ホント勝手なんだから。


 春明はふぅとひと呼吸おくと、常備している薙刀を雄二に向かって構えた。


 ――間違った判断しても、怒らないでよ?


 「雄二くん、どうしても知りたいって言うなら教えてあげてもいいわ。ただし条件付きだけど」

 「条件?」

 「あなた空手やってるんでしょ? 私に勝ったら教えてあげる」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る