第3話 親友救出
アタシの初彼は、同じ吹奏楽部の1つ年上の北村部長なんだ💖
だけど年上の彼氏とは言え、アタシの親友チカちゃんを泣かせたんだから、絶対に許せない!
チカちゃんに、上井くんの頼みもあって、夜に電話してみたの。
最初に電話したら、お風呂に入ってて…お母さんが出たの。
「あらケイちゃん、久しぶりね!元気にしてる?」
「はい、こんばんは。お久しぶりです。ところで…」
「あっ、ごめんね、千賀子なら今、お風呂入ってるのよ。上がったらケイちゃんに電話させるわ」
「ありがとうございます。ところで…」
「今日は千賀子が、部活は中止になったとか言って早く帰ってきたんだけど、本当?」
アタシは、どうせお母さんが電話に出たんなら、チカちゃんが早く帰宅した時の様子とか聞こうと思ってたら、先に言われちゃった。部活は中止になったって言ったんだね、一応話は合わせとかないと…
「そっ、そうなんです。それでチカちゃん、音楽室に忘れ物しちゃったんで、明日渡せるかな、どうしようかなと思って」
「そうなの?ありがとう、そういうところが千賀子はウッカリ屋さんなのよ。ごめんね。でもやっぱり千賀子から確認のために、一度ケイちゃんに電話させるからね。じゃあお母さんにもよろしくね」
「はい、ありがとうございます、はい、はーい、お休みなさーい」
異性相手に電話するわけじゃないし、チカちゃんのお母さんとも長いことお付き合いがあるけど、やっぱりちょっと緊張しちゃう。
でもお母さんの話しぶりからは、そんなに落ち込んで帰ってきた訳でも、家の中で暗いわけでもなさそう。
上井くんにはとにかく明日、せめて学校に来れるかどうか聞いてくれって言われたけど、部活に来なきゃ上井くんとチカちゃんは会えないよ?
でもその辺は、不器用な上井くんのチカちゃんを思う恋心ってやつかな?
とりあえず登校するくらいには、元気になっててほしいんだろうね、上井くんは。
しばらく本を読んで過ごしてたら、電話のベルが鳴った。
ハイ、ハーイってお母さんが出ようとしたけど、きっとチカちゃんからだと思ったから、アタシが出る!って、お母さんを止めたの。
「モシモシ?」
「あっ、モシモシ?ケイちゃん?」
「うん。チカちゃん、ごめんね、電話掛けさせちゃって。お風呂、ゆっくり入れた?」
「大丈夫よ。ポッカポカに温まったから。でもケイちゃんが電話をくれたということは、きっと…今日のことだよね」
「…そうなの。アタシが音楽室に行ったら、上井くん一人だけで、顔面蒼白になってたから、一体何が?って思ってね」
「うん。もうキッカケは泣いて忘れたけどね。アタシって前も言ったけど、ケイちゃんには悪いけど、あまり北村先輩と相性が良くないの。なのに今日は音楽室に行ったら北村先輩しか来てなくて、困った2人切りの状態になっちゃってね。何喋ろうかなって思ってたの。そしたらね…アタシの髪の毛が天然パーマだって言って、何度も何度もしつこいくらいにアタシをからかうの…。アタシだって好きで天然パーマな訳じゃないのにさ…。先輩だから反抗できないし、悔しくて涙が溢れてきちゃったの」
「何よ、それ!許せないよ、アタシも。寄りによって、後輩の女の子の容姿をからかうなんて、最低だよ。北村先輩、金賞取ってからいい気になり過ぎてる。アタシ、別れるのも考えて、今から北村先輩に電話しておくから!」
「いいよ、そこまでしなくても、ケイちゃん。ケイちゃんが一緒に心配してくれて、怒ってくれて、こんなに嬉しいことはないよ。一人だけじゃなかったって思えるから」
「アタシ一人だけじゃないよ」
「えっ?」
「上井くんも凄いチカちゃんのこと心配しててね。それで、上井くんは番号も知らないし電話できないから、アタシに大丈夫かどうか電話してみて、って頼まれたのもあるんだ、実は」
「上井くん…。そうだよね、泣いてるところ見られちゃったもん。心配になるよね。優しいんだね、上井くんは」
「そうだね…」
ってアタシはそこで、多分上井くんはチカちゃんのことが好きなんだよと、喉まで出かかってたことを言おうとして、止めたの。
なんでブレーキが掛かったんだろう…。というか、掛けたんだろう…。
「じゃあ、流石に今から電話するのは止めとくね。明日会った時に、ガツンと言っておくから、先輩に」
「ありがとう、ケイちゃん、アタシのために…」
「ううん、親友だもん。親友が泣かされたら、ちゃんと助けてあげなきゃね。あっそうそう、上井くんが、チカちゃんは明日学校に来れそうかなって心配してたわ」
「上井くんが?そんなことまで心配してくれてるんだ。うん、学校は行くよ。だけど、部活はちょっと、分かんない」
「だよね。その辺りは、アタシと上井くんに任せといて。ちゃんとチカちゃんが好きな部活に復帰できるようにして上げるから」
「ありがとう。本当に。でも、無理しなくてもいいよ?」
「こんな時に無理するのが、親友だよっ!じゃあ何の心配もせずに、今夜はグッスリ寝てね!おやすみ!」
アタシ、受話器を置いた後、変な気持ちになってた。
アタシの彼が、アタシの親友チカちゃんをからかって苛めて、偶々居合わせた上井くんが凄いチカちゃんのことを心配して、アタシが上井くんに頼まれたのもあってチカちゃんに電話した。
これって、一体…。四角関係?
まあアタシは明日、竹吉先生に話して、北村先輩にも別れるくらいの意気込みでチカちゃんを苛めるなんて許さない!って言って、そして上井くんにはチカちゃんと電話で話したことを説明する。
やることはもう決まってるのに、なんなんだろう、このモヤモヤ感は…。
@@@@@@@@@@@@@@@
「今回はアタシも許せないからね、北村先輩!」
アタシは部活の朝練に出ると、トランペットを吹いていた北村先輩にこう言った。
「え?なんのこと?」
ムカーッ!アタシとチカちゃんが親友なことくらい知ってるでしょっ!なのに、なんで知らん顔してんのよっ!
「神戸と?な、何もないよ」
まだ知らん顔して切り抜けようとしてる!
でも顔色は変わってる。落ち着きがなくなってる。
「アタシが何も知らないとでも思ってるの?呆れちゃう。ねぇ先輩、アタシはそんな先輩の姿、見たくないよ?アタシ昨日の夜、チカちゃんに電話して、慰めるのに大変だったんだから!」
流石に北村先輩も観念したのか、ポツポツと喋り始めたよ。ちょっとアタシの言い方もオーバーだったけどね。
「…悪気はなかったんよ。だけどなんか話の成り行きで、髪の毛の話になって、神戸さんって天然パーマだよなって言ったら、そんなこと言わないで下さいって言われて、かえって俺がムキになって天然は天然だろってエスカレートしてさ…」
「酷い!酷すぎだよ。相手は女の子だよ?しかも一つ年下の。アタシ、先輩がそんなこと言うなんて想像もしなかったけど、残念だよ…」
「とりあえず、俺が悪いんだろ?」
「その態度が、もうダメ。なんで上から目線なの?こんな時は部長だろうが何だろうが、心から謝らなきゃ」
「そ、そうか…」
「じゃないと、アタシ、先輩とはサヨナラするから」
「えっ…」
北村先輩の表情が固まった。
「…分かったよ。神戸さんが部活に出てきたら、ちゃんと謝るから」
「出てくればいいけどね」
アタシは冷たく言った。
ここ最近の北村先輩、コンクールで金賞取って、しかも審査員の先生の講評に「トランペットのトップ、音色が素晴らしい」なんて書かれてから、俺のやり方に間違いはないって感じで、天狗の鼻が伸びてる感じだったから、内心アタシも自慢話ばかり聞かされて嫌だったの。
調子に乗りすぎた天罰よ、きっと。
さて、アタシはクラスに戻って、上井くんに電話の内容を教えなくちゃ。
上井くんは…と、いたいた!
後ろ向いて友達と喋ってる。
ソッと背後から忍び寄って…
「だーれだ?」
「おわっ?だっ、誰?女の子?」
周りは、オーッとか声が上がってるから、アタシがビックリして手を放したんだけどね(^_^;)
「なんだ、山神さんじゃんか。ビックリした~」
「目、覚めたでしょ?」
「そりゃあ、もちろん…」
って話す上井くんの顔は、もう真っ赤。やっぱりウブなんだなぁ(^m^*)
と思いながら、先生が来るまでに、昨日の電話の内容を教えてあげたの。
「じゃあ、自分が心配してたよりは、元気だったんだね。でも、学校には来てるだろうけど、部活には来るかどうか分からないんだ…」
上井くん、本気でチカちゃんのこと、心配してるよ。アタシの彼も、これくらいアタシのことを心配してくれたこと、あるかな…。
その日の部活は、やっぱりチカちゃんは来なかった。
チカちゃんは隣のクラスだから、休み時間とかに声は聞こえたのね。だから登校してるのは間違いなかったんだけど…。
北村先輩もいつも威張ってるのが、この日はおとなしくて、なんか隅っこで練習してるような感じだったよ。
でもチカちゃんが部活に来なかった以上、竹吉先生に言わなくっちゃね!
その日は合奏は無かったから、部活が終わった後にクラリネットを片付けて、すぐ職員室の竹吉先生の所へ向かったの。
「先生!」
「おぉ、山神。どうした?」
「実は先生に聞いてもらいたいことがあって…」
「ん?北村と神戸のことか?」
「えーっ?なんで先生、もう知ってるんですか?」
「昨日、音楽室の鍵を閉めたのは上井だったんよ。で、鍵を返しに来たとき、実はコレコレで…って上井が教えてくれてな」
上井くん、行動早っ!もう先生に相談してたなんて。
「まあ俺も上井から聞いただけだから、詳しくは分からんのじゃが、北村が神戸に酷いことを言ったみたいだなぁ」
「そうなんです。あえて詳しく言うと…」
「いや、大体中身は推測出来るから、いいよ。しばらく神戸は部活を休むって言ってきたし。心が落ち着いて部活に出てきたら、俺が責任もって北村に謝らせるから」
「そうですか、ありがとうございます」
「まあ北村も調子に乗ってたからな。ちょっとおとなしくしとけっていうサインかもしれないな」
アタシは上井くんの行動の早さに感心してた。
夏までは部活に慣れなくて四苦八苦してたのを、アタシが見守って上げてたけど、今やアタシが上井くんに頼らなきゃいけない時なのかも。
いつの間に、上井くんったら、吹奏楽部の中で存在感が大きくなったんだろう…。
そして上井くんの存在感は、アタシの心の中にも…。
<次回へ続く>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます