第4話 部長交代
北村先輩が、アタシの親友、チカちゃんに悪口を言ったせいで、ちょっとアタシと先輩の関係も、部内もギクシャクしてるの…。
最後は顧問の竹吉先生が、北村先輩とチカちゃんを職員室に呼び出して、北村先輩に謝罪させて一件落着したんだけど、アタシの中には色んなモヤモヤが残っちゃった。
まず北村先輩が女の子に酷いことを平気で言う男子ってこと…。
その分、アタシの中で北村先輩に対する思いが醒めちゃったこと…。
2年生になってから途中入部した上井くんが、いつの間にか存在感が大きくなっていたこと…。
その上井くんがアタシの親友・チカちゃんに、なんとなく好意を持ってるんじゃないかってこと…。
その上井くんのことを、アタシも好きになりつつあること…。
クラスに戻っても、ついつい上井くんのことを目で追っちゃう自分に気付いたんだ。
アタシのことを彼女として、恋人としてちゃんと見てくれてるのか分からない北村先輩より、恥ずかしがり屋さんで女の子の顔を照れて真っすぐ見れなくてすぐ顔が真っ赤になっちゃう上井くんに、アタシの心は揺れてる。
「ねぇねぇケイちゃん!起きてる?」
え?アタシ、起きてるけど…
「何?起きてるよ」
「じゃあ、国語の教科書の86ページから、読んで!」
えっ、休み時間じゃなかったっけ?いつの間に国語の授業が始まってたの?
「山神さーん、起きてますか?」
先生にまで言われちゃった。
あーっ、恥ずかしい所をクラスのみんなに見られちゃったよ~。
「はっ、はい!86ページからですよね、えっと…あの…どこだっけ…」
そしたら右横に座ってる上井くんが、ここだよ!と鉛筆で印を付けてくれた国語の教科書を、サッと貸してくれたの。
「はい、じゃあ読みます・・・」
ふー、上井くんのおかげで助かったぁ…
国語が終わった後の休憩時間に、上井くんにありがとうと改めて言ったら…
「珍しいじゃん、いつも冷静に授業を聞いてる山神さんなのに。なんか悩み事でも考えてたの?」
「えっ、まあ、あのね、ちょっと昨日なかなか寝付けなくて、実はウトウトしてたの」
ちょっとアタシはウソを付いた。だってアタシの中で上井くんの存在感が増してることを考えてたなんて、言えないもん。
「じゃあ、山神さんに貸し一つだね!」
上井くんはニコッとしながらそう言ったの。その無邪気な笑顔が、アタシをまた上井くんファンにさせる。北村先輩は、アタシといても笑顔なんて滅多に見せてくれないから…。
「う、うん。なにかあったら、上井くんを助けてあげるからね!」
「じゃあ今度、体操服忘れたら、体操服貸してね!」
「分かったよ、貸してあげる…って、なんで女子のアタシが男子の上井くんに体操服を貸せるのよ!上はともかく、下はブルマでしょ?上井くん、ブルマ穿きたい願望でもあるの?」
「えっ、ちょっとした冗談だよ、そんなに真に受けないでよ…」
なんか、こんなやり取りできるのが嬉しいな。上井くんたら、予想外のアタシの反撃に顔を赤らめてショボンとしちゃった(´・ω・`)
…ってそんなやり取りしてたら、1組の友達佐々木さんが、本当にアタシに体操服を借りに来たよ!
「ケイちゃん、ごめーん!今日体育あるよね?」
「うん、6時間目にあるよ」
「ね、アタシにブルマ貸して~、お願い!」
「いいけど、上は?」
「上は持って来たんだけど、朝寝坊したら、スカートの下にブルマ穿いてくるの忘れたの。お願い!」
「そうなんだ。珍しいね。サイズ合うかなぁ?」
とりあえずアタシは、スカートを捲り上げて中に穿いてたブルマを脱いで、佐々木さんに渡したの。
「はい。とりあえず1時間、頑張ってね」
「ありがとー、ケイちゃん!恩に着るわ」
と言って、アタシの穿いてたブルマを持って、佐々木さんは走ってったけど、サイズは大丈夫かな?
とか言って席に座ったら、右横からすごい視線を感じたの。
上井くん?!
「や、山神さん、凄いことするんだね…」
「えっ、そう?」
「だって、さっき冗談で言ってたこと、本当にするんだなって、ビックリだよ…」
「えー、女子同士なら、体操服の貸し借りはしてるよ。そんなにビックリした?」
「だって、男子もいる教室の中で、いきなり…だもん」
「そうかぁ。アタシとか女子には普通のことだけど、男子にはビックリなんだね」
「もちろん。体育で短パン忘れても、他の男子に借りようなんて思わないよ」
上井くんはビックリしてた。
うーん、女子同士なら結構当たり前に体操服の貸し借りやってるけど、男子にはビックリなことなんだね。ひとつ勉強になったかも。
上井くんは不思議そうな顔で、目の前で起きた事を考えてるみたい(^m^*)
ちょっとからかっちゃおうかな~Ψ( ̄∇ ̄*)Ψ
「じゃあ上井くん、今、アタシのセクシーショーを見たから、これでさっきの教科書の借りはチャラね!」
「うん…えっ?そ、それと今のとは、趣旨が違うような…」
「だってアタシ、ブルマ脱いだから、今スカートを捲られたら…ってホラホラ」
アタシがスカートを揺らしたら、上井くん、何を想像してるのか、また顔が赤くなってる(≧m≦*)
こんなウブなところが、上井くんの可愛いところなの。母性本能をくすぐられるんだよね。
北村先輩とも、こんなお付き合いしたかったな…。
北村先輩とこんなお話したら、ふざけんな!で終わりだろうから。
@@@@@@@@@@@@@@@
吹奏楽部の一大イベント、文化祭での演奏が何とか終わって、いよいよ3年生の引退式の日になったよ。
去年、この引退式で北村先輩が部長になって、その後、告白されたんだよね💖
その時は嬉しかったけど、今は告白されたからって、断ってもよかったんじゃないか…なんて思うこともあるから、なんとか北村先輩への気持ちを持ち堪えるので精一杯。
さてさて今年は北村先輩から、誰に部長職がバトンタッチされるんだろう?
「ケイちゃんは誰だと思う?」
隣に座ってるチカちゃんが聞いてきた。
「うーん、やっぱり男子ということで上井くんかな?でも途中入部っていうハンディがあるから、どうかなぁ。竹吉先生も悩んでるんじゃない?」
「アタシも…上井くんがいいなって思ってるの。でもまだ吹奏楽部では、1年生みたいなものだし…。どうなるかな」
チカちゃんもかぁ。でも、上井くんが入ってくる前は次期部長の大本命だった、打楽器の船木さんも黙っちゃいないよね、きっと。
あっ、竹吉先生が入ってきた。いよいよね…。
「みんな揃ってるか?じゃあ3年生の引退式、新部長と新副部長の発表を行います。今回の決定は、俺と3年生とで、長い時間を掛けて話し合いました。中には不満があるヤツもおると思うが、まずは聞いてくれ。新部長は、サックスの上井、新副部長は打楽器の船木。以上だ」
アタシはチカちゃんと目を合わせたわ。音楽室の中も、なんかザワザワしてる。
(上井くん、部長になったね!)
で、肝心の上井くんを見てると、まさか自分が呼ばれたことに気付いてないのか、1年の男子と喋ってるの。
だから竹吉先生は、
「上井!ウ・ワ・イ!お前、新部長になったんだぞ!」
って叫んだの。
上井くんはキョトンとして、なんで?って顔してたけど、とりあえず前へ呼び出されてた。
「俺が、新部長ですか?」
「ああ。これから1年、船木さんと一緒に引っ張って行ってくれや。今の様子を見てると怪しいけど」
音楽室の中がドッと笑いで溢れた。
「まずは新部長からの挨拶。一言、何か言ってくれ」
「えっ、えーと。・・・数秒前まで俺が部長になるなんて考えてもなかったんですけど、なった以上は頑張ります。よろしくお願いします」
音楽室内は拍手に包まれたけど、ほんの数名の女子が、納得いかないって顔してたなぁ。上井くん、大丈夫かな…。
北村先輩が、音楽室のカギを渡す恒例行事をしながら、上井くんに話し掛けてた。
耳打ちみたいな感じで聞き取れなかったけど、頑張れよ、とでも言ったのかな。後で北村先輩に聞いてみようっと。
あとはアーチを作って、3年生を見送るんだけど、3年生自体が少ないし、あっという間に終わっちゃった。
北村先輩もとっとと出てったけど、アタシのこと、待っててくれるかな…。
「はい、みんな、元の席に座ってくれ。上井部長と船木副部長の体制で、これから1年、みんなで頑張っていくことになった。中には、なんで途中入部した上井が部長なんだって思ってるヤツもいると思うが、もし文句があるなら、後から俺の所に来い。詳しく説明してやるから」
上井くん、波乱の船出だね…。
チカちゃんと目をまた合わせたんだけど、目と目で通じ合っちゃった。
(上井くんのこと、助けてあげようね)
竹吉先生は最後に、上井くんに締めさせようとして、前に上井くんを呼んだんだけど、上井くんはもう緊張しちゃって、ガチガチ。
「上井、初仕事じゃ。ミーティングを終わらせてくれ」
と先生に言われて、上井くんは
「そっ、それでは~、ミーティングを、終わります。起立!礼!」
と、一生懸命に務めてたよ。
頑張れ、上井くん。少なくともアタシとチカちゃんは味方だからね。
さてアタシは、北村先輩と帰ろうかな…って、いつもの待ち合わせ場所に行ったら…、いない。
周りを見渡しても、何処にもいない。
えっ、なんで?
いつもは確かにアタシが先に待ってたけど、今日は北村先輩が先に音楽室を出たから、先輩が先に待っててくれるものだと思ってたのに…。
一応、3年生の下駄箱も見に行ったけど、北村先輩の所はもう上履きしかなくて、帰ってることを示してたの。
なんなの、これ?
アタシは彼女じゃないの?
黙って先に帰るなんて、酷いよ…。
今日は一年間お疲れさま!って、言ってあげようと思ってたのに。
部長職が終わったから、アタシとの仲も終わりなの?
…もう北村先輩とはお別れしようかな…
<次回へ続く>
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