Side: L

最終話 陸と海

 きらきら光る太陽が、窓の外から私たちを照らす。

 あまり広くない船室の鏡の前で、ああでもない、こうでもない、と格闘していた。


「ローラ……これ、どうやるの……?」

「これは、こうして……」


 私はサラの髪に、白い貝殻の飾りをつける。元・人魚姫、ってことで、サラの衣装は海モチーフなのだ。

 純白のマーメイドラインが、よく似合っている。我ながら、素晴らしいチョイスだった。


「できた! サラ、すごい綺麗!」

「ありがとう。ローラのほうが綺麗だよ。二回目だけど」

「それは言わないでよー」


 そんなことを言って、笑い合う。


 今日は、私の人生で二回目の結婚式だった。


「ローラ王女、サラ様、お時間ですよ」


 侍女に呼ばれて、私たちは甲板に出る。


 白い花と貝殻で飾られた道をまっすぐに歩いて行き、船首に到着すると、海中から波とともに、美しい女神様が姿を現した。大きな杖ではなく矛を持ち、キラキラ光る二股の尻尾は、以前見たときとはずいぶん印象が違うものだ。


「おめでとう。サラ、ローラ」

「あ、リリス! ありがとう!」

『こら、海神さまと呼びなさい』

「あ、そうでした……」


 あの日、私の一度目の結婚式の夜、魔女リリスはサラの身代わりに、海神さまの元へ行った。

 そして彼女はなんと、隙を見て海神さまの矛を騙し取り、自分自身が神に成り代わったというのだ。


 本当に、恐ろしい魔女……いや、女神さまなのである。


 新たな神の誕生により、海の世界も陸の世界も大きく変わった。

 海と陸との間には協定が交わされ、人間の男を人魚の娘が一方的にさらっていくことや、逆に人間が人魚を捉えて食用にするなどの、お互いに命を奪う行為が禁止された。


 なかでも一番大きな変化は、私とサラのように、愛し合う二人が、種族を越えて結ばれることができるようになったということだ。



『二人に結婚の祝福を授けます』


 女神様が矛を大きく振ると、私たちの真上に虹が架かった。

 わあ、と客席からも歓声が上がる。


 人間と人魚、双方の国から集まった皆が、拍手でお祝いしてくれた。



「まるでおとぎ話が現実になったみたいだね」


 私たちに花束を渡してくれたのは、私と結婚するはずだった、あの王子だ。


 一度目の結婚式の後、私は王子を含めた皆に謝罪し、結婚をなかったことにしてほしいと頼みこんだ。隣国の人たちは激怒し、一時は戦争になるのではないかなどという噂まで立ったが、新しい海神さまと、それと王子が間に立って、話し合いを手伝ってくれたのだった。


「海神さま……って本当にいたんだね。すごく綺麗だ……」


 王子は、海を眺めながら、話し出す。

「昔ね、僕のおばあちゃんも言っていたんだ。『私は本当は、海から来たんだ。人魚だったんだよ』って。ちっとも信じてなかったけど。もしかしたら、そういうこともあったのかもしれないね」と。


 私とサラは、顔を見合わせる。

 ……なんだ、ふたりは泡になった、なんて、嘘じゃないか。


 

「ローラ。愛してる」

「サラ、私も。愛してる」


 口づけを交わす。もう、誰に見られたってかまわないんだ。それがすごく嬉しい。


 陸と海が、今日、初めて、つながったのだ。

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王女様と人魚姫のお話 霜月このは @konoha_nov

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