Side: L

第7話 決意

 結婚披露パーティーが終わる頃、サラが私を見つけて声をかけてきた。

 階段を駆け下り、サラに一番近づける場所へと向かっていく。するとそこには、なんと、デッキに横たわる人間の女の子がいた。


「サラ、なの……? 大丈夫?」

「ローラ……わたしも薬、飲んだの」

「え、どういうこと?」


 サラは私が王子を殺すのを手伝うために、わざわざ人間の姿になる薬を飲んで、ここまで来てくれたということだった。


「とりあえず、こっちに来て、隠れないと」


 私はサラの手を取って、船室へ連れて行く。サラは服を着ていないし、誰かに見られたら大変だ。

 なんとか人に見つからずに部屋にたどり着いて、ふう、と息を吐いた。


「身体、拭くね」


 海から上がってきたばかりのサラの身体は当然のように、びしょ濡れだったから、私はバスタオルでサラの身体を拭いてあげる。サラは不思議そうな顔でこちらを見ている。


「なんか、変な感じ」

「ほんとね。サラが人間になってるなんて」


 私も笑う。

 でも正直、なにも身につけていないサラの肌は、すごく目の毒、という感じだ。


 サラの胸元なら、見慣れているはずなんだけど。

 今は人間の姿をしているからか、なんだか恥ずかしく感じてしまう。


「服、どうしようかな」

「え、わたしも着ないとだめなの?」

「だめだよ! 私の服貸すから、ちゃんと着て!」


 私は衣装ケースから、サラの着れそうな服を選ぶ。


「これとか、どうかな……」


 お目当ての服を持って、サラのほうに向き直った瞬間のこと、だった。


 正面から、サラに抱きしめられた。


「ローラ。……大好き」

「!? ……サラ?」


 思わず服を落としそうになったけど、なんとかこらえた。


「ローラ。……あの、聞いてもいい?」


 サラは耳元でささやく。


「人間って、どうやって愛し合うの?」

「え、え、え」

「こういう気持ちのとき、私はどうしたらいいのかなって」


 艶のある声が耳元で鳴る。ああ、昔の男の人たちは、こんな風に誘惑されたのかなって、思ってしまう。


「どうやってって……こう、かな」


 私はサラの髪をなでる。それから、唇を触れあわせる。そしてぎゅっと抱きしめた。


「不思議……人間って、あったかいんだね」


 サラも私をぎゅっと抱きしめ返して、そう言う。

 なんだか不思議な感じで、私たちは二人して、笑った。


「そろそろ、行こう?」


 身体を離して、サラに服を着せて、準備をする。

 すると、サラは、突然、言う。


「ごめん、ローラ。……わたし、謝らなきゃいけない」

「え、サラ、どうしたの? 急に」

「わたし、ローラとは、暮らせない」


 突然の発言に、驚いた。


「え、どうして……そんなこと、言うの」


 涙が、ぽろぽろ、こぼれる。

 今になって、そんなことを言われるなんて、思ってもみなかった。


「サラ……どうして? 私のこと、嫌いになったの……?」

「ううん、その逆。ローラのことを愛してるから。だから、ローラに人殺しなんて、させたくないんだ」


 サラは私の手をとって、そう言う。

 そして、昨日魔女から聞いたという話を、順に聞かせてくれた。


 私の魂は、もう海神さまのところにあるらしい。

 それは、私がサラを愛してしまったからで。

 だから私は、このままだと、泡になってしまうのだ、と。


「昨日、わたしも魔女と契約したんだ。ローラの魂を、返してもらえるように。わたしの身体と引き換えに」

「身体と引き換え……って、どういうことなの?」

「わたしは、これから海神さまのところに行く。そこで死ぬまで仕えるんだ。わたしには魂がなくて、差し出せるものが他にないから」

「サラ……そんなのって……」

「だから、ローラは王子様を殺さなくても、もう泡にならなくて済むんだよ。……王子様、優しそうな人じゃない。しあわせになってよ……お願いだから。わたしは、ぜんぜん、平気だからさ」


 そう言うサラの表情は、ちっとも平気そうじゃなくて。

 ほんとうに、嘘つき、だった。


 だから私は、決めたんだ。

 ううん、どうするべきかなんて、とっくに決まっていた。





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