第11話

 次々に襲いかかってくる敵を倒して進む。

 逐次投入など進む方向をわざわざ教えに来ているようなものだが、奴らからすればこれは防波堤のようなもの。

 波が弱まるのを待っているのだ。

 敵の本隊。またはこの盗賊団の頭に辿り着いたときに簡単に仕留められるように。


「そう上手くいくもんかねぇ」

「順調な時ほど危険なのは確かだろう。だが、そうは言っても!」


 フェリーナが敵を倒しながら答え、周囲を警戒する。

 周囲に敵は見えず、それでも警戒をすぐに解かないのは少しは成長しているのか。

 水球を生み出して弓使いたちを仕留めていく。

 木の背後から打ち出す瞬間だけ姿を見せる者、枝の上に乗って狙っている者を打ち抜き、木の洞に隠れる者には水を流し込んでやる。

 火球のほうが慣れているが、森の中で使うには不向きなので仕方がない。


「いい加減にして欲しいもんだ―――「死ねぇええ!」―――そう思わないか、雑兵?」

「ぐ、はっ」


 背後から忍び寄ってきた敵の首を掴んで締め上げる。

 肉体強化の魔術を使えば大して鍛えていない小柄な男の身体など片手で持ち上げられる。


「お前の身体を火で炙り、絶命するまで苦悶に歪む表情を愉しんでもいいんだが。俺たちの目的は拷問じゃない」

「きさ、まらぁ」

「俺たちの目的はお前らの壊滅、解散。多少なら逃がしてやってもいい。お前はどうだ? 生きたいなら武器を捨てろ。そして吐け。お前たちのアジトを」

「し、ね……」

「ふん」


 首をへし折り、息の根を止める。

 そのまま手を離せば重い荷物を落としたかのような音をたてて、男の身体はもう動くことはない。


「粗方片付いたか。お前の動きも大分良くなってきているんじゃないのか、フェリーナ?」

「……目は慣れてきたが、それでも十全とは言い難いな」

「フェリ! こっちも片付いたよ」

「ゼロ様。敵影確認できません。周囲に気配もありません」


 離れて戦っていたラグナとサラが近寄り、全員が集合する。

 どうやら全員問題なく怪我もない。

 疲労の色も見て取れないことを考えれば、ラグナとフェリーナの体力はそこそこあるらしい。


「敵の姿がなくなったってことは」

「奴らの本拠地が近い。そういうことだな?」

「まあ、そうだろうな。奴らが逃げ出していなければ」

「あれだけ倒されながらも彼らは戦闘を選んだ。ということは勝算があるということでしょう」

「つまり、油断できない相手っていうことだね」


 サラの苦言にラグナとフェリーナは身も心もを引き締め直す。

 どれほどの相手を想像しているのかは分からないが、それでも強敵が待ち受けていると考えているのだろう。


 しかし、だ。


 敵の本拠地に向かっている以上、敵の人数が増えていくのは当たり前。

 だが、罠も少なく最低限という程度しか見受けられないのはどういうことだろうか。

 罠など要らないという自信家か。はたまた何も考えていない阿呆か。


「……まぁ、どうでもいい。それより準備はいいか? なら行くぞ」


 杖を奴らが来た方向へとさす。

 敵の本拠地はもう、目の前にある。












 ―――――――――――――――――――――――

【???】


 最初は何でもなかった。

 みんなと同じだった。

 手も足も、身体のどこを見てもみんなと同じ。

 そう、髪の色だって。

 変わったのはあの日から。

 仲の良かった友達が遠ざかり、恐がり、石を投げられた。

 両親は当然のように崩壊した。

 もう、私たちの世界は壊れたんだ……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る