第6話
年老いた門番から近くの宿を訊ね、村に一軒しかない宿へと案内される。
もちろんタダではなく、先程狩った魔獣の魔石や牙などを渡したためだろう。
「ヒーグさん、またサボり?」
案内された宿は一階が飲み屋を兼任しているらしく、店内は広々とし、長机が四つほどあった。
この村の規模を考えれば、この程度で十分なのだろう。
繁盛しているのか、店内の喧騒がピタリと入ってきた者たちを見て小さな囁き声へと変わる。
「そうイジメんでくれ」
「あれ、そちらは……お客様?」
「四人です。宿泊は可能でしょうか?」
サラと赤毛の小さな娘が話をするなか、空いている席に座り待つ。
フェリーナとラグナも対面に座り、物珍しいのかキョロキョロとラグナは落ち着きなく周囲を見ていた。
ただの木造建築の宿が珍しいのか、とやはり何らかの厄介ごとを持っている連中なのは明白だった。
「それで、お前たちは魔王について知りたいと?」
「ああ。詳しく聴かせて欲しい。我々の知っている話では魔王とは個人を指している」
「そうだ。諸悪の根源……魔王、アンラ」
格好良さ全開のキメ台詞ように言い放ったラグナの言葉に、店内からは囁く声すら消え去った。
店内にいた村の者たちの冷ややかな視線がこちらに集まっている。
ラグナは気付いていないが、フェリーナはすぐに察し咳払いをひとつ吐く。
「今回の話は彼女についてではなく、現在の魔王の話だ」
「……そうだな。今は魔王というのは力を持つ者。という意味合いで使われている」
例えば典型的なもので腕力。
他の者とは比類なしの剛腕を持つ者で、力でねじ伏せ服従させる者。
支配者として確かな資格アリと誇示する者が今の世の中には非常に多いらしい。
「他にも知力に長けたものや財力、魅力。もちろん魔力に長けた者たちが有名らしいな」
「……魔力。つまり、貴方のような?」
「俺か? 俺は見ての通りの杖持ちだぞ? 大した力じゃないさ。他の奴より器用だがな?」
微少な魔力なら誰もが持っているが、それを戦闘に活かすなら杖や書物などの威力を増幅させる物が必要だ。
「魔力を操れるといっても個人の技量によって段違いだ。段階分けされる位にはな」
魔力を操り魔術を実戦で使える者、魔術使いを下位として、そこから魔術を教える者、魔術師。
魔術を極め、魔術師を教え導く者、魔導士と繋がっていく。
「魔導士なんて世の中に片手で数えられる程度だ。俺は違う。俺は……師匠から譲り受けたこの杖と技で世界を見るために旅をしているはぐれ者さ」
「ゼロ……」
「御冗談を。ゼロ様」
部屋が取れたのか、戻ってきたサラが冷ややかに言い放つ。
「その杖は幼少の頃にゼロ様自身が制作されたものではないですか」
「おい。ゼロ」
「ちっ。バラされちゃあしょうがない。さっきの師匠がうんぬんってのは嘘だ。冗談だよ。それじゃあ俺は先に休む」
サラが迎えにきたということは部屋が取れたのだろう。
話も一段落したところで席をたつ。
いい加減、外套を脱いでゆっくりしたいと思っていたところだった。
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【サラ】
「すみません。ゼロ様のご冗談に付き合わせてしまいましたね」
「いや。キミが謝ることはでは……」
「彼ってば、いつもああなの?」
「ええ、そうですね」
ラグナ様が二階にあがるゼロ様を睨みながら、不満をこぼす。
頬杖をついて話しかける彼からしてみれば、ゼロ様の行動は奇異に見えるのだろう。
けれど、互いに腹の探り合いをしながらの会話に信用を築けるとはそもそも思えない。
「それより、ラグナ様たちはこれからどうされますか?」
「これから?」
「ええ。私が考えるに、お二方の目的は魔王なのでしょう? 我々の目的とは少々変わってしまいますが、各地を巡るのは同じなのです」
「つまり、ともに旅をしようってこと?」
「ええ。そのように考えて頂いて構いません」
フェリーナ様とラグナ様は互いに顔を見合わせ、腕を組み考えてしまう。
悪い話ではない以上、即決するものと思っていたが彼らにとって知らない者と旅をすることはそれだけで懸念材料なのかもしれない。
「それでは、私も休ませて頂きます。ご返答は後ほど聞かせてください。部屋はとってありますので、もし良ければお二方も休まれては?」
「あ、ああ。助かる」
「ありがとサラさん!」
二人には時間が必要と判断して退席する。
彼らにとっての目的が何であれ、まずは仲を持ち、そして相手の口が滑るのを待ってもいい。
「(なにより、今は優先すべきことがありますからね)」
とった部屋は二つ。
一部屋は彼らに。もう一つは私たちの部屋。
であれば、必然的に行われる行為というものもある…
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