-29- 「道案内」

「あの、この辺にコンビニはありませんか」


 田中君と一緒に下校する途中、変な女の人に声を掛けられた。


「ありますよ」


 そう答えて、僕は100メートル程先にあるコンビニを指差した。


 こんな近くにあるコンビニに気付いてなかったのか、女の人はそちらを見て一瞬黙り込んだけど、


「別のコンビニが良いんです。案内してください」


と言い出した。


 怪しい。


「御免なさい、嫌です」


 丁重に断った。


 女の人が残念そうに去って行くのを確認すると、僕と田中君は再び歩き出した。


 田中君とお喋りしながら暫く歩いた後、話題が途切れた時に、田中君が、気まずそうに言った。


「なあ。さっきコンビニを指差しながら、何をぶつぶつと独りで喋ってたんだ」


 え、と僕は驚いた。


 さっきの女の人は、僕には普通の人間に見えたけど、田中君には見えていなかったらしい。


 もし道案内を断らなかったら、どうなっていたんだろうか。

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