第54話 合流
大介と美鈴が合流地点であるF36の仮拠点に到着すると、すでに一成と結花は戻ってきていて、今もまさにラジオから流れ続けている忍による携帯電話が使用できるスポットの情報を地図に書き込んでいるところだった。
大介と美鈴の姿に気づいた一成が片手を挙げる。
「おう隊長。忍者からの情報はだいたい記録したぜ」
「さすがだな参謀。やっぱりFM放送はこういう時に情報共有がしやすいから便利だな。軍曹たちはまだ来ていないな?」
「おう。まだもうちっと掛かるだろう」
「よし。じゃあネコちゃんと結花ちゃんはちょっと座って休憩してくれ。簡単なストレッチをして、水分補給。それと携行食料を少し腹に入れておくんだ」
「ふわーい。さすがに疲れたですぅ」
「……なかなかのハードモードじゃんねぇ」
美鈴と結花が待ってましたとばかりに個人装備を降ろしてへたりこむ。
「二人とも本当によく頑張ったな。だがすまんがもう少し頑張ってもらわないといけないから今のうちに体力回復に努めてくれ」
「はぁい」「……今度、絶対に葵ちゃんに奢らせてやるじゃんね」
美鈴は座ったまま足を伸ばして前屈を始め、結花はぶつぶつ言いつつも高カロリー携行食料をかじり始める。大介も取り出した携行食料をかじりつつ、一成の広げている地図に捜索の終わった範囲の情報を書き加えていく。そして気付く。ちょうど今、自分たちのいるF36のすぐ近くに携帯電話が使用できるスポットであることに。
「このF37付近はケータイが使えるみたいだな」
「ん、おー、そうだな。忍者との連絡も取りやすくなるし、仮拠点をそっちに移すか?」
「ああ。だが、今はまだ休憩を始めたばかりだから軍曹たちと合流してからそっちに移動しよう」
「了解」
ほどなくして、【軍曹】哲平と【博士】清作の二人が到着する。大きなリュックと明らかに
「お待たせしましたであります。軍曹と博士の2名。現刻をもちまして隊長たちに合流であります」
「やあ。ずいぶんと大変なことになっちゃってるみたいだね。微力ながら手伝いに来たよ」
ビシッと敬礼する哲平といつも通りの
「待っていたぞ。よく来てくれたな」
「想定してたよりもずいぶん早かったじゃねぇか。どういう手を使ったんだ?」
「はっ。自分たちの事情を知った本日の野良鶏退治の依頼人であった太田氏がご厚意で自家用車で自分たちをまず学校まで送って下さり、その後、山の麓の登山口まで送ってくれたであります」
「忍者から連絡が来た時、ボクは畑の世話をしにちょうど学校にいたからね。頼まれた装備の準備をして、太田さんに拾ってもらってロスタイム無しで来れたんだ」
「そうか。それならまた太田さんには改めてお礼を言わないとな。だが本当に早く来てくれて助かった。早速情報の共有をしよう」
大介が地面に広げた地図を6人で囲んで座る。
「この地図には高低差による地形上の難所、現時点での捜索済みの範囲、それと今、忍者が放送してくれているケータイが使えるスポットの情報がすでに記入済みだ。現在地はここF36だが、隣接地のF37はケータイが使えるスポットだからそちらに仮拠点を移そうと参謀と話し合っていたところだ」
「賛成であります。ケータイが使えるなら忍者とのやり取りもスムーズにできるでありますな」
「あとは、これまでに設置してきたFM中継機の場所を書き込んでもらっていいか?」
「了解であります。……日向山の山頂に一つ。……大日山の尾根道に一つ。……それと登山口から登る最初の坂の上のこの場所。合計3ヶ所であります」
「なるほどな。となるとそれぞれのカバー範囲がこれぐらいで……」
と哲平が地図に記した位置情報を元に、大介はそれぞれの中継機の放送エリアを書き込んでいき、それぞれのエリアで使える周波数の情報も分かりやすく記しておく。
美鈴が見る限り、【忍者】忍が大日山の麓から77.5MHzで発信した内容を最初の中継機が受け取って77.7MHzで再発信し、次の中継機がそれを受け取って77.5MHzで再発信し、次の中継機がまた77.7MHzで再発信するというリレーが繰り返されているようだ。
「つかぬことをお聞きしますが、どうしてこんな回りくどいことをするんです? 一つの周波数でのリレーは出来ないんですか?」
「ああ。同じ周波数だとお互いに干渉し合って混線してしまうからな。こんな風に2つの周波数で交互にリレーすれば同じ周波数同士の距離が干渉しないぐらい離れるから混線せずに音が拾えるが、干渉状態だとノイズがひどくてとてもじゃないが聞き取れるもんじゃないぞ」
「そうなんですね。余計なことを言ってすいません」
「いいさ。疑問に思ったらその度に訊いてくれれば教えられるからな」
大介は気分を害した風もなく気安く応じる。そして、地図を丸めて立ち上がった。
「さて、休憩は終わりだ。このまま全員でF37に移動してそこに仮拠点を設置するぞ」
そのまま全員でF37に移動し、FM中継機の設置を終え、忍に電話で仮拠点の場所を移動したことを伝え、現在こちらに向かっているはずの【射手】ジンバと【狩人】遼への情報伝達を依頼し、葵の捜索を再開しようとしたところで、何気なく地図を見ていた美鈴がふと気付く。
「この地図、ケータイが使える場所と使えない場所が書かれてますよね」
「ああ。そうだな」
「じゃあ、葵先輩のケータイに電話かけてみれば、電話が繋がるか、圏外かで場所の絞りこみが出来ますよね?」
美鈴の言葉に全員がはっとなる。
「……!! それだっ!!」
葵が行方不明になってから、すでに何度もケータイで連絡を取ることは試していたが、常にこちらかあちらかが圏外で繋がらなかったのでいつしかケータイで連絡を取ることそのものが意識の外に追いやられていた。しかし今は状況が変わっている。自分たちはケータイが使えるスポットにおり、地図にはケータイが使えるスポットの情報が記されている。美鈴の言う通り、ケータイが繋がるかどうかだけで葵のいる場所を絞りこめる。
大介はポケットから自分のスマホを取り出した。
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