第44話 GW活動計画
それからしばらくして、恒例の活動報告のためにそれぞれの活動場所からメンバーが部室に集合した。ただ、今日は活動報告の前にまず懸案事項であるゴールデンウィーク中の活動計画を練っており、葵も同席している。
「……まあそんなわけで、生徒会経由で山岳部のハイキングツアーと太田さんから野良鶏退治の依頼が入っているわけだが、なにか他の予定が入っているメンバーはいるか?」
「あ、あの隊長」
「どうぞ、博士」
「この前、ボクが通報したハカマオニゲシの駆除がGWにあるそうで、駐在さんから手伝ってほしいって言われてるんだ」
「そうか。じゃあ博士はそっちに行ってくれ。他は? …………特になさそうだな。じゃあ、今回は残りの八人を四人ずつ二手に分けてハイキングツアーと野良鶏退治に行くということで異論はないか?」
全員がうなずく。
「ならそのメンバーだが、狩人は当然野良鶏退治だな。射手も野良鶏退治でいいか?」
「うむ。了解じゃ」
「まあ妥当でやんすな」
「軍曹と忍者はどうする?」
「自分はどっちでも。隊長の言われる方でいいであります」
「我は、山より野良鶏退治のサポートの方が役に立てると思うぞ」
「分かった。なら、今回は軍曹が野良鶏退治を仕切ってくれ。俺と参謀と鈴花コンビは選択の余地なくハイキングツアーになるがいいか?」
「おれはかまわねえぜ」
「うちも」
「ミネコも、山岳部の新入部員と友だちなのでハイキングツアーの方がいいです」
美鈴がそう言うと、結花が「嘘つけっ」と言いたげな呆れたジト目で見てきて、美鈴もさすがに今のは苦しかったかなーと思った。正直、美鈴は高見沢のことはどうでもいい。ただ、大介がいる方に行きたいだけで。何も言わなかったが、表情を見る限り、葵にも美鈴の本音はすっかりお見通しなようだった。もちろん、大介がそんなことに気付いている様子はない。
「そうか。今の時期はちょうど新緑の頃だから山登りにいい季節だ。二人にとってもいい経験になるはずだ。……ちなみに二人のハイキングの経験は?」
「ないです」
「そういや、うちも未体験ゾーンじゃんね」
「そうか。じゃあ明日は、俺と一成と鈴花コンビの四人で登山の際の装備や心得をディベートするための時間を取ろう。基礎トレーニングが終わったら部室に集合すること」
「了解です」
「あいさ」
「ちなみにこれが山岳部の活動に同行する際にサバ研メンバーが持っていく個人装備リュックだ」
壁際の棚に並んでいるリュックを大介が机に置くとズシッと重そうな音がする。
「……なんか、重そうですね」
「だいたい10㎏ぐらいだな。山は当然ながら危険な場所だし、人里から離れているから何かあってもすぐには助けは来ない。詳しくは明日説明するが、この個人装備リュックがあれば少なくとも二人で三日間は山の中で普通に活動出来る。食糧と水さえ確保できれば一週間でも二週間でもいけるだろう」
「おぉ! これが例の災害仕様の持ち出しリュックなのですか」
「そうだ。可能な限り軽量にまとめてはいるがそれでもそこそこの重さはある。だが命の重さと思えば軽いもんだ。当日はこれを一人一つずつ背負って山を登ることになる。だからこの重さに慣れるために明日から俺と参謀と鈴花コンビはこいつを背負って学校の階段を上り下りするメニューを基礎トレーニングに組み込むぞ」
「了解なのです」
「うわー。でもしゃーないかー。了解じゃんね」
「よし、野良鶏退治の方は軍曹が中心になって計画と準備を頼む」
「了解であります!」
「という結果になった。葵からは何かあるか?」
大介が今まで黙って推移を見守っていた葵に話を振ると、葵は美鈴の方をチラッと見て言った。
「今回のハイキングツアーだけど、山岳部顧問は参加しないそうだからハイキングツアーと野良鶏退治それぞれに生徒会か新撰組から一人ずつ目付け役がつくことになるわ。あたしとしては、ハードなハイキングツアーよりも慣れた野良鶏退治の方がいいんだけど、サバ研の目付け役に慣れてない子をいきなりハイキングツアーの付き添いに任命するのはさすがにアレだし。本当は気が進まないけど、仕方ないから今回はあたしがハイキングツアーに付き添うことにするわ」
つまり「美鈴に抜け駆けはさせない。自分も大介が行く方に参加する」という意味だと美鈴は葵のツンデレ語を意訳理解する。
こんなに必死に理屈をこねくり回さなくても、生徒会長という実質的な校内最高権力者なんだから「自分はハイキングツアーに付き添うから野良鶏退治には別の人間を目付け役として送る」と言うだけで別に問題ないだろうに。
ツンデレというのは難儀な性格だ、というのが美鈴の素直な感想だった。
何はともあれ、こうしてサバ研のGWの活動予定が決まったのだった。
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