第27話 プラン

部活が終わってから、週末の野良鶏退治のプランを報告にきた大介をソファに座らせ、葵は大介が提出した計画書に目を通していた。

 

読みやすい一成の字とイラスト付きの計画書は簡潔明瞭で分かりやすく、幼馴染の相変わらずの器用さに感心する。


何気に有能でなんでもそつなくこなし、それでもあくまで大介の陰からのサポートに徹する一成に、やはり【参謀】という二つ名はふさわしい。


「撒き餌で侵入経路を絞って農作物の被害が出ない場所に誘い込んで狙撃。逃げ出した鶏を陽動班が仕掛けてあるトラップに追い込むって作戦ね。いいと思うわ」


「まあ、コハルさんとこの畑は何度か行っているから勝手が分かっているからな」


「コハルおばあちゃんが夏に向けて植えたトウモロコシの苗にかなり被害が出ているらしいわ。しっかりおばあちゃんの畑を守ってあげて」


「おう。まかせろ」

 

どんと胸を叩いて爽やかに笑ってみせる大介につい見蕩れそうになる自分を意識してしまって慌てて計画書に目を落とす。


「……と、ところで、この狙撃班に結花と美鈴ちゃんの名前もあるみたいだけど、あの二人、どうなの?」


「どうとは?」


「二人は、サバ研で続けていけそう?」


「……どうかな。今回の野良鶏退治がターニングポイントになるだろうな」

 

大介の答えに納得する。


「そっか。去年もこれでほとんど辞めていったものね」

 

サバ研が勧誘にあまり力を入れていない理由はここにある。実際、去年だけで二十人以上がサバ研に入部し、耐えられずに辞めていった。


そのほとんどは野良鶏退治が直接の原因だった。それほど、この野良鶏退治はきつい活動なのだ。


あれほどのやる気を見せている美鈴と結花でさえ、残れると大介が断言できないほどに。

 

この野良鶏退治というふるいに掛けられてなお残れて初めてサバ研のメンバーとして認められるといっても過言ではなく、ある意味これがサバ研の入部試験なのだ。


「俺としては、あの二人に残ってほしいと思ってるが、こればかりは本人が決めることだからな」


「大丈夫よ。あの二人はきっと大丈夫」


「ずいぶんと自信があるんだな」

 

意外そうな大介。


葵だって確たる根拠があって言っているわけではないが、なんとなく確信はあった。


「これでも人を見る目はあるつもりだから」

 

すまして答えてから、生徒会室の電話でコハル婆に電話を掛けて、サバ研の計画書を見ながら土曜日の野良鶏退治の予定を伝える。


いくつかの確認事項を打ち合わせてから電話を切り、計画書を大介に返す。


「おばあちゃん、楽しみに待ってるって。孫もいないから大介たちが来てくれるのが本当に嬉しいみたい」


「そうか。じゃあ今回もしっかりばあちゃん孝行するとするか」


「そうね。さ、これで今日の用事は終わり。帰りましょ」


「遅くまで残らせて悪かったな」


「いいわよ。一応、あたしがサバ研の顧問代理ってことになってるし。……あ、そうだ。帰りにちょっと寄りたいところがあるんだけど付き合ってくれる?」

 

さりげなさを装って帰り道デートに誘う。ドキドキしながら大介の反応を窺うと、大介は拍子抜けするほどあっさり了承した。


「いいぞ。俺もちょっと寄りたいところがあったからな」


「え、どこに?」


「百均。ネコちゃんたちにベルトに装着できる弾丸入れを作ってやろうと思ってな。その材料を買いに」


「…………」


せっかくの二人きりの時間だというのに、なんでここで恋敵の名前を出すんだろう。


悪気がないのは分かってる。だけど、ちょっといい雰囲気になりそうになるといつもKYな発言で雰囲気をぶち壊すフラグブレイカーには正直苛立ちを禁じえない。

 

こいつ、わざとやっているのかしらとたまに思う。


「で、葵はどこに寄りたいんだ?」

 

大介は例によって、まったく葵の内心の苛立ちに気付いている素振りはない。葵はあきらめにも似た思いで内心ため息をついた。


大介がKYなのも鈍いのも、今更分かりきってること。いちいち腹を立てていてもしょうがない。


それより、今は二人きりでいられるこの時間を楽しまなきゃ。


「雑貨屋さん。百円ショップと同じショッピングモール内だからいいでしょ? ケータイのストラップを買い替えたいの。その後、駅前のミニストでソフトクリーム。もちろん大介の奢りで」


「……ん。まあいつも迷惑かけてるから、それぐらいならいいぞ。じゃあそろそろ行くか。早く行かないと日が暮れるしな」

 

そう言いながらソファから立ち上がった大介はさりげなく葵の鞄を取って自分のと合わせて肩に担ぎ、ドアに向かって歩き始める。

 

大介の一挙一動にいちいち怒ったり舞い上がったりと我ながら忙しいことだと思う。それでも葵は口元がにやけそうになるのを止めることができなかった。


「待ってよ、大介」


葵は小走りに大介に追いついてその隣に並んだ。






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