第19話 活動報告
清作が結花の手当てを終えるのとほぼタイミングを同じくして、スモーカーの当番だった【軍曹】哲平と【狩人】遼が手に手に大きなダンボール箱を抱えて部室に入ってきて、部室内に煙の匂いが充満する。
「戻りました。本日の燻蒸も無事終了であります! ちょっと失礼」
哲平がダンボール箱に入れてあった、まだ生っぽい大きな肉の塊をいくつか冷蔵庫にしまっていく。
「隊長殿、ジャーキーはもうよいぞ。ベーコンはあと三日ってとこじゃな」
長机の上に置いたダンボール箱から遼が出来上がったばかりのポークジャーキーを一枚取り出して大介に渡し、受け取った大介はそれを表裏に返しながら出来映えを吟味する。
「ふむ。今回も良い出来だな。ならジャーキーだけ明日にでも購買に卸すか。生徒会には俺の方から話を通しておこう。……なんだ、美鈴ちゃんはそんなにこれが気になるか?」
指摘されるまでジャーキーを凝視している自分に気づかずに慌てて取り繕おうとした美鈴のお腹がキュ~と返事をする。
「――――!!」
恥ずかしさのあまり真っ赤になった美鈴に大介は少し笑って、大きなジャーキーを二つに千切って美鈴と結花に差し出してきた。
「味見してみるといい。購買で売ると即完売になるサバ研名物のポークジャーキーだ」
「わあ、いただきます!」
「うは。やったじゃん、ネコ!」
美鈴はもう我慢できずに、さっそくジャーキーにかぶりついて歯でバリッと噛み千切った。そのワイルドな食べっぷりに周りからおおっと感嘆の声が上がるが、美鈴はもうそれどころじゃない。
口の中に一気に広がる、痺れるようなスモーキーフレーバー。噛み締めるごとに染み出してくる適度な塩味と粗挽き胡椒やガーリックのスパイシーな香りと肉自体の旨味。飲みこむのが惜しく感じられるほどに凝縮された美味しさに思わず頬が緩む。
しっかり噛んで思う存分に味を堪能してからやっと飲み込む。
「おいしぃ~! これ本当に美味しいです。こんなに美味しいジャーキー食べたの初めてです」
「そうか。気に入ってもらえて何よりだ」
「うちも一応レストランの娘として料理人を目指してる身としては、参考までに作り方を聞いておきたいなー? などと」
上目遣いで訊く結花に実にあっさりと大介が了承する。
「いいぞ。ま、正式に入部したらいずれ当番で作ることになるが、別に秘密ってほどのこともないからな。参謀、説明してやってくれ」
結局おれに説明のお鉢が回ってくるのな、などとぼやきながらも別に気を悪くした様子もなく一成が作り方を説明する。
「使うのは豚のしょうが焼き用のスライス肉だ。部位としては肩ロースが理想的だな。そいつにマジックソルトで味をつけてから網に並べて一日天日干しにして、ある程度乾いたら桜の煙で半日ぐらい燻して出来上がりだ」
「え、それだけなん?」
「おーよ。天日干しにすると肉のたんぱく質が旨味成分のアミノ酸に分解されるからぐっと旨くなるってわけだ。だから味の素なんか使ってねぇのにこれだけ旨いんだ」
「へぇ~なるほど」
一成がジャーキーの作り方を説明している間に大介は一番窓に近い自分の席についていた。
「……さて、じゃあ全員揃ったから今日もそれぞれの活動報告を始めるとするか」
『うーす』
部員たちが各々自分の席についていく。
「君たちはとりあえずこれに座ってもらえるかな?」
清作が壁に立てかけてあった、普段使っていないパイプ椅子を二脚広げ、美鈴と結花はそれに腰を下ろした。
【隊長】大介を一番奥にして、長机の右側に【参謀】一成、【軍曹】哲平、【狩人】遼の順で並び、左側に【忍者】忍、【射手】ジンバ、【博士】清作。
机のこちら側に美鈴と結花が並んで座る。
副部長の一成が記録係を務めているらしい。
一成が日報と書かれたノートを広げるのを待ってから、司会役の大介がおもむろに口を開く。
「今日は、軍曹から時計回りだ。美鈴ちゃんと結花ちゃんは聞いててくれればいい。じゃあ、始めてくれ」
「了解であります。まず……」
哲平が立ち上がり、サバ研の一日の活動を締めくくる活動報告が始まった。
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