第16話 スリングショット

「手に右利き左利きがあるように目にも右利き左利きがあるんでやす。……そうでやすね、とりあえず親指と人差し指でわっかを作ってその中にレーンの向こうの砂山が見えるようにしてもらえますかい?」

 

美鈴は指でOKサインを作って、その輪を通してレーンの向こうの砂山を覗いた。


「これでいいんです?」


「じゃあ、そのまんま右目と左目を交互につぶってみて下せぇ。両目で見てるのと同じように見えるのが利き目なんでやすよ」

 

言われるままにまず右目だけで見る。指のわっかの中には砂山が納まっている。今度は左目だけで見る。と、砂山はわっかの外に出てしまっていた。


「……ミネコは右目が利き目みたい」


「うちも」


「照準をつける時、利き目で狙えば正確な狙いがつけられるんでやすが、そうじゃない方の目で狙うとぜんぜん違う方に飛んで行っちまうんでやすよ。よし、それじゃそろそろ兄ぃさんたちも準備が出来たみたいでやすんで実際に撃ってみることにしやしょう」

 

気付かなかったが、ジンバの説明を聞いている間に、大介と一成は的の設置を終えていた。


射撃位置から5㍍ほどの距離にターゲットマークの描かれた段ボール箱が置かれ、その後ろには流れ弾を回収するための布製のスクリーンが張られている。


「スリングショットの弾は200㍍以上飛びやすが、獲物を殺傷するのに十分な威力があるのはせいぜい15㍍ぐらいでやす。ただ、まずは狙ったところに当てれるようにならねえと意味がねえでやすから、とりあえず、最初の目標はそこのダンボール箱に弾を命中させることから始めやしょう」

 

そう言いながらジンバが9.5㍉スチール弾の入った容器から弾を一粒取り出してそれを自分のスリングショットにセットし、スリングショットを持った左手を的に向けてまっすぐに伸ばし、ゴムをぐいっと大きく引き絞った状態で静止する。


「スリングショットにゃあ照準器がねえんで、慣れねえと狙ったところに飛びやせん。で、狙い方のコツでやすが、あっしが今してるようにスリングショットを的に向けてまっすぐに構えて、ゴムを引っ張ってる右手を自分のあごか頬にくっつけやす。こうすれば狙いが安定するんでやすよ。……じゃあ、見ててくだせえ」

 

美鈴と結花が見守る中、ジンバのスリングショットがスチール弾を撃ち出し、5㍍先に設置されているダンボールに描かれたターゲットマークのど真ん中にビシッと小気味良い音と共に弾痕を穿った。


「すごい! ど真ん中です!」


「さすがじゃんね!」


「あの通り、ダンボールぐらい軽く貫通するんで、どこに当たったか分かりやすいでやしょう? あの的のターゲットマークは真ん中の円から5㌢、10㌢、15㌢、20㌢になってやす。5㍍の距離から5㌢以内に当てれるようになったら鶏を仕留めるのも出来るはずでやすよ。さあ、習うより慣れでやす。どんどん撃ってくだせえ」


「よーし!」

 

妙に気合の入った結花が早速スリングショットにスチール弾をセットして的に向けて構え、ゴムを引き絞る。


「うっ、思ってたよりゴムが強い……」


顔をしかめながらも何とか自分のあごまで引き絞ったゴムを離す。


――ばふっ

 

弾はダンボールの的にはかすりもせず、その後ろのスクリーンに止められて地面に転がる。


「……てへ。なんか思ってたより難しいかも」


「よし、じゃあミネコも」

 

丁寧に狙いを定めてゴムを放す。


――ぺこっ

 

弾をなんとかダンボールには命中させたものの、ゴムを引く力が弱すぎてダンボールの表面を凹ませただけだった。


「……えーと、ちょっと弱いです?」


「……まあ、最初はこんなもんでござんすよ。やってるうちに狙いも集まってきやすし、自然に必要な筋肉もついてきて威力も上がりやすからね。とりあえずここにある弾は全部撃ち切っていいでやすから」


「よーし、頑張ろ! 賞金のために」


「ミネコも頑張ります! 肉のために」

 

不純な動機を前面に押し出してスリングショットの練習を始める美鈴たちに、ジンバがにこにこ笑いながらうなずく。


「よござんす。目標があった方が上達も早いでやすから。どうぞ精進しておくんなせえ」





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