第16話

再び対峙する、ニクスバーンとロックキング。

冷え固まった溶岩と燃えた木の広がる広野が、二体のバトルフィールドだ。


最初は一方的にいたぶられたが、今度は違う。

姿も、性能も、大きさも、その全てが劇的に変化した今のニクスバーンなら、ロックキングと十分に渡り合える。



………ギシャアアアッッ!!



先に動いたのはロックキング。

岩山のような体表と、大木のような筋肉で作られた腕をブンブンと回し、ニクスバーンに向けて突撃する。


「こけおどしめ!」とでも言うように、咆哮をあげながら。



「来たッ………!」



その時、アズマの脳裏に瞬時に思考が走る。

このニクスバーンに搭載された武器と、その使い方を、レクチャーするように。



「………これだ!フェザーミサイルッ!!」



脳裏に走った情報に従い、丸い操縦桿を握り、思考を走らせるアズマ。

やり方は、魔法を使う時と同じだ。

したい事、やりたい事をイメージし、ニクスバーンに流し込む。


すると、ニクスバーンの両肩が展開。

そこにから、鳥類の羽を模したような形状のミサイルが次々と射出される。

それは眼前のロックキングに向けて、猛スピードで飛来する。


ずどおおっ!!


放たれた、合計30発の誘導ミサイル「フェザーミサイル」が、ロックキングに全て着弾した。



ギシャアアア!!



爆発の中で、痛みに悶えるロックキング。

ロックキングからして予想外の武器を前に、せの進行が止まった。



「そこぉっ!!」



ロックキングが止まった。

そして、そのチャンスを逃がすアズマではない。

再び、操縦桿にイメージを流し込む。


ズシン、ズシン、ズシン!


大地を震わせ、次のターンに出たのはニクスバーン。

アズマのイメージに従い、50mの巨体で大地を踏みしめながら、ロックキングに向かい駆けてゆく。



「食らえ!」



その勢いで、ニクスバーンは己の拳でロックキングを殴り付けた。

ガキンッ!という音を立てて、ロックキングの体表に火花が散る。


石のような体表を持つロックキングだが、その性質も鉱物に近いらしい。

対するニクスバーンの装甲は金属質であり、火打ち石のように火花が散るのだ。



ギシャアア!!



いきなり殴られたロックキングだが、やられるばかりではない。

「やりやがったな!」と言うように、怒りの籠った咆哮と共に、その拳をニクスバーンに叩きつける。


バキンッ!という音と共に、ニクスバーンの装甲からも火花が散る。



「このっ!」



再び飛ぶ、鉄の拳。



ギシャアア!!



またもや飛ぶ、岩の爪。


ニクスバーンとロックキングの格闘技の応酬が、燃えた荒野を舞台に繰り広げられる。



「すげぇ………」

「昔、テレビで見たやつまんまだ!」

「いいぞやっちまえー!ニクスバーン!!」



巨大な二体の激突は、猟師達が幼少の頃楽しんだ、怪獣と戦う光の巨人を初めとする、今では見なくなった巨大ヒーローのそれを彷彿とさせる。

ニクスバーンのヒロイックな外見も相まって、猟師達は童心に帰った気分で、ニクスバーンを応援している。



「すごいパワーね………ドラゴンと互角なんて………!」



対するスカーレットもまた、テイカーとしての視点から、ニクスバーンの善戦ぶりを感心していた。


ロックキングは、ただでさえ強いモンスターであるドラゴンの中でも、指折りのパワーを持つ事で知られている。

それまで揃ったデータから計算すると、日本一大きい山である富士山と同等の質量を動かせる程。


そんなロックキングを相手に、ロックキングが得意とする近接戦闘を、ここまでこなす。

動かしているアズマの腕もそうだが、今のニクスバーンが凄まじいロボットである事は、スカーレットにも解った。



「だりゃああ!!」



ズゴンッ!!

僅かな隙をつき、ニクスバーンのアッパーが炸裂する。



ギシャ………ッ!!



短く唸り、吹っ飛ばされたロックキングが倒れる。

地震のような揺れが起き、土煙が舞った。



「いいぞニクスバーン!!そのまま投げ飛ばせぇぇーー!!」



市役所から、まるでプロレスでも見るかのように声援を飛ばすキンノスケ。


この時通信は繋がっておらず、その声援はアズマには聞こえない。

だが、キンノスケの思いが通じたのか、ニクスバーンは倒れたロックキングの尻尾を掴む。



「はあああ………ッ!」



そして、ハンマー投げのようにロックキングをぶんぶんと振り回す。

50mの大質量のロックキングを振り回すニクスバーン。

その持てるパワーも、凄まじい。



「どりゃあ!!」



ぶおんっ!とニクスバーンが、あけぼの市とは逆方向の方角へ向けて、ロックキングを空中に投げ飛ばした。

ジャイアントスイングの成功だ。



ギシャアア!?



天高く飛んでゆくロックキング。

見た目から解るように、ロックキングは空を飛べないので、もうなす術がない。



「次ので………トドメ!」



自由落下するロックキングへ向けて、今度はニクスバーンが飛び立つ。

やるべき事は、アズマと繋がったサイコ・コントローラーが教えてくれた。



「お、おい!アレを見ろ!」



戦いを見守っていた猟師の一人が、空中に飛び上がったニクスバーンを指差す。

彼等の眼前では、驚くべき事が起きていた。


まず、ニクスバーンの腰が180度回転する。

脚部が体育座りのように折り畳まれた。


次に、背中の折り畳まれた翼が開く。

翼はそのものがバーニアになっているらしく、翼の隙間からジェットが噴射される。


腕が前に折り畳まれ、最後に背中の鳥の頭のようなパーツが起き上がり、頭に被さる。

頭部を軸に回転し、鳥の頭が前を向き、変形が完了した。



「チェンジ………フェニックスモード!!」



なんと、人型ロボットであったニクスバーンは、鳥を思わせる飛行形態に変形した。

その名も「フェニックスモード」。



「あいつ、変形まで出来るのか?!」



まさしく、古きよき昭和のロボットアニメのような光景に、息を飲む猟師達。

その眼前で、変形したニクスバーンは、自由落下するロックキングへ向けて、一直線に飛んでゆく。


大気を切り裂き、空を舞うニクスバーンの機体は、まるで大気圏突入により熱を帯び燃える流星がごとく、炎のようなオーラに包まれる。


見上げるスカーレットには、一目で解る。

あれは、火属性の魔力だ。

しかも、自分ですら扱えないような、尋常じゃないパワーの。



「ニクスバーンが………燃えている………」



その様。

ニクスバーンが燃える炎のオーラに包まれたその姿は、まさしく数多くの物語において語られる不滅の象徴。

モンスターの跋扈する現代においてもなお、人々の空想の世界にのみ存在し、伝説の存在として君臨する火の鳥・フェニックスそのものであった。



「フェニックス………ストライクッッッ!!!」



ず、ば、あ、っ!!!!



燃える炎の矢となったニクスバーンは、そのままロックキングを貫いた………否、「焼き切った」。

「フェニックスストライク」。まさに鳳凰の一撃だ。



………ずどぉおおおん!!



と、轟音を立てて、真っ二つになったロックキングが空中で爆発する。

フェニックスストライクの持つ効果の一つであり、ボディに纏った炎の魔力を、そのまま爆発魔法に変換。

威力を高めているのだ。



すうう、と、ニクスバーンのボディを覆う魔力が散る。

ニクスバーンは空中で変形。人型のロボットモードに戻ると、ゆっくりと地面に降り立った。



「………勝った、のか?」



大地に立つニクスバーンの姿は、猟師達が幼き頃に見た正義のヒーロー。

スーパーロボット、そのものの姿である。


あの日憧れたテレビの中のヒーローが、今度は自分達の町を………あけぼの市を救ってくれた。



「………やったああああ!!」

「勝った!!勝ったぞおおおおお!!」

「あけぼの市は救われたんだああああ!!」



歓喜の声が、地を満たす。

アズマはコックピットで、オープン回線になったDフォンの通信越しに、それを聞いた。



「………ふう」



オークの襲来と、その原因であるロックキングを、やっと倒した。

貯めた息を吐き、今までの疲れを感じ、脱力するアズマ。


ようやく、戦いは終わった。

そんな空気が流れた、その時。



『このバカ弟子ぃッッッッ!!!!!!』

「はひぃっっっっ?!?!?!?!」



聞き覚えのある、それでも聞くのは初めての怒号が、脱力したアズマを叩き起こした。


おそるおそる、アズマはニクスバーンのモニター越しに、足元を見る。

そこには、明らかな怒りを込めて………そして、目に大粒の涙を浮かべてこちらを見つめる、スカーレットの姿。



『ぐすっ………おりでぎなざい………ッ』

「………はい」



まあ、自分のやった事は理解しているので、これから何をされるは、アズマにもよく解った。





「おーっ、やっとるやっとる、王道だ!」

「王道、ですか?」

「うむ!増長して無茶をした主人公が、修正される!まさしくロボットアニメの王道パターンよ!」

「はぁ………」



以上は、望遠鏡越しにニクスバーンを見ていたキンノスケとジローのやり取りである。

曰く、聞こえないはずの「パシィン!!」という渇いた音が聞こえてきたという。

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