第13話

泰山鉱道………と言うよりは、その「本体」である元鉱山。

あけぼの市を見下ろす巨大な泰山たいやまの山肌が、爆発するように弾け飛んだ。


その様は、比較的遠いおぼろホール方面の部隊………アズマ達の目からも、よく見えた。



「何だ?!」



オークの死体を回収していた一同が、爆発と揺れに気付き、泰山の方へと目をやる。

そこには、まるでダイナマイトで爆破されたかのように吹き飛ぶ泰山の一面。

そして。



ギシャアアアアアッ!!



大気を震わせて咆哮する、巨大な「いきもの」がいた。

岩石が動いているかのように見えたが、それには腕があり、足があり、尻尾があり、

それが脊椎動物である事を物語る縦開きの口と一対の目があった。


体高、おおよそ50m。

地球の生態系を基準に考えると、あり得ない存在である。


………地球の生態系「のみ」を基準にすると。



「あれは………ドラゴンじゃないの?!」



猫山トンネルでもその姿は見えており、スカーレットは驚愕した。

あれは、情報が確かなら日本には生息していない事になっているからだ。


そう、あれはオークのように、地球の生態系の外から来た異世界存在………モンスターなのだ。



あの巨大な岩の塊のようなモンスター。

「ロックドラゴン」の通名で呼ばれるこのモンスターは「ドラゴン」と呼ばれるカテゴリーに分類されている。


ドラゴン。

学名、ドラコーサウルス。


地球の生物に似通った特徴を持つモンスター達であるが、このドラコーサウルス科は、なんと恐竜から進化したと考えられている。


ファンタジーや神話で語られるドラゴンが強大な力を持っているように、モンスターとしてのドラゴンも凄まじい生命力とパワーを持っている。


戦艦の主砲でも傷つかぬ強靭な鱗と、鉄骨をもへし折る筋力。

口からは鉄塔をも飴細工のように溶かしてしまう、高温の火炎放射ブレスを吐き出す。


1999年アンゴルモア・ショックにおいて、様々な街が地上に現れたモンスターの被害に逢ったが、その大半はドラゴンによる破壊である。


なお、日本においてはドラゴンはこれまで確認されていなかった為か、和名は無い。



「おい!ありゃロックキングじゃねえか?!」

「本当だ、ガキの頃図鑑で見たのと同じだ………!」



………が、上記の通りの「怪獣」としか表現できないような特徴からか、

1999年以降の風評によって衰退するまで様々な「怪獣もの」を創造してきた日本では、怪獣を連想させる独自の通名が勝手につけられていたりする。


このモンスター、ロックドラゴンにおいては「ロックキング」。

なるほど、まさに怪力自慢な見た目は、ロックキングの名に相応しい。


以降、ロックドラゴンはロックキングと呼称する事にしよう。



「………なるほど、あいつがな」



これを見て、アキラはジローの仮説が正しかった事を確信した。


オーク達は、あのロックキングから逃げて地上に這い出てきたのだ。

なるほど、あのロックキングが向かってくるのであれば、オークと言えども逃げるしかない。



「………行ってくる!」

「あ、アキラさん?!」

「皆の避難は任せる!」



ロックキングの進行方向を見た途端、アキラは駆け出していた。



ロックキングを初めとしたドラゴンは、アンゴルモア・ショックが落ち着くと同時に、その殆どが深海や地中深くへと姿を消し、眠りについた。


資源採掘による事故で叩き起こされる等で目を覚ます事はあるが、自分の意思で地上に現れる事はない。


それが、何故地上に現れたのか。

謎は尽きないが、今はそんな事を考えている暇はない。



ロックキングの進行方向には町が………あけぼの市がある。

50mの、まさに怪獣であるロックキングがあけぼの市に入れば、どうなるか。


幼少の頃、怪獣の出てくる番組や映画を見ていたアキラには大体の予想はついたし、怪獣を退治してくれる光の巨人も現実にはいない事も知っていた。


だから、自分がやるしないのだ。

アキラは、ここまで来る「足」として使った、自家用車の屋根無しジープに飛び乗る。



「自動運転システム起動、ルート選択、以下はAIに任せる!」



有事の際………狩りの最中で両手を負傷した際に備えて入れておいた、自動運転システムを起動。

おおまかなルートを、タッチスクリーンを兼ねたカーナビの画面で入力。

入力された情報に従い、ジープが走り去る。



「あ、アキラさーん?!」

「他の連中に伝えろ!誰も追ってくるな!!」



自らを呼ぶ若い猟師に、叫んでそう伝えるアキラ。

ジープは猛スピードで離れてゆき、見えなくなった。



「大変だ………!」



若い猟師は、全てを察した。

アキラは、たった一人でロックキングと戦うつもりだと。






………………






泰山を離れ、あけぼの市に向かうロックキング。

オーク相手には善戦できていた猟師達ではあるが、50mの巨大怪獣そのものであるロックキングの前では、マジックガンなど豆鉄砲同然である。



「す、スカーレットさん!どうにかならないんですか?!」



大の男が若い娘にすがるというのは情けない話であるが、彼等にはもうスカーレットぐらいしか頼る相手はいない。

だが。



「………ちょっと、難しいですね」



オブラートには包んではいたが、スカーレットから帰ってきた答えは「無理」の一言だ。


ドラゴンのようなモンスターの討伐記録は、分かる限りでは1999年前後の混乱期ぐらいしかない。

それも山を爆破して生き埋めにしただの、核を撃ち込んだだのという例ばかりで、そうでなくとも明らかに虚偽の報告みたいな物が殆どだ。


対策が無い事もないが、それでも砲台なり戦闘ヘリなりを引っ張り出してくる必要があり、とても今すぐどうこうは出来ない。



「そんな………」



絶望に暮れる猟師。

スカーレットも、流石に50mもあるロックキングに一人では挑めない。


皆が諦めていた、その時。



………ギシャアッ?!



突如、ロックキングの顔に向けて光弾が飛び、爆破が起きた。

鬱陶しがるような仕草を見せるロックキングに、次の光弾が飛び、また爆破する。



「今のは?!」

「マジックガンの弾丸!それも、魔力パワーを最大にまで上げた………!」



明らかに勝ち目のない戦い。

けれども、戦っている奴がいる。

瑛進輝エイシン・アキラが、たった一人で。






………………






ジープに記録したのは、市街地から離れる為のルート。

運転はジープに搭載されたAIに任せ、自分はマジックガンでロックキングを攻撃。

ロックキングの注意をこちらに反らし、できる限りあけぼの市から遠ざける。


これが、アキラの作戦である。

ただ難点を挙げるとすれば自分が生きて帰れない事であるが、アキラからすればそんな事はどうでもいい。



「この………岩石ザウルスが………ッ!」



50mのロックキングの体表をマジックガンで撃ち抜けないのは、アキラも見れば解る。

だから、マジックガンの出力を最大にして、一番皮膚の守りが薄いであろう頭部を狙って撃っているのだ。


とはいえ、これはオークレベルのモンスターと戦う為に用意されたマジックガン。

今やっているように、ロックキングレベルのモンスターに向けて何発も撃つ事は想定されていない。


ので。



「限界か………ちいっ!」



すぐに、マジックガンは限界を迎えた。

エネルギーが切れただけでなく、高圧縮した魔力を連続して打ち出したが故に、銃身が溶けて曲がってしまったのだ。


それでも、ロックキングの注意はこちらに向いていない。



「だったら………!」



だが、手が尽きた訳ではない。

まだ「奥の手」がある。


アキラは、ジープの荷台を覆っていた防水シートを外す。

そこから現れたのは、ジープの荷台に取り付けられた捕鯨砲。

銛を火薬によって射出し目標に突き刺す、ホエーリングハープーンとも呼ばれる武器だ。


当初、オークを相手にすると聞いた時に、もしもに備えた「切り札」として持ってきた武器だ。

結果オーク以上の、本来の相手であるクジラよりも巨大な相手に放つ事になった訳だが、それでも切り札である事には代わりない。



照準を頼りに、確実にダメージが与えられる目標………つまり「目」に狙いを定める。

相手の動き、着弾までのズレを、これまで培った経験と知識を総動員して計算する。



「………そこだ!」



引き金を引く。

ドシュウッと、捕鯨砲より射出される、太く長い鉄の銛。

それはアキラが割り出した計算通りに、ロックキングの眼球めがけて真っ直ぐ飛ぶ。

そして。



………どぐちゅあっ


ギシャアアアアアッ!?



着弾。

ロックキングの右目を潰した。

痛みに苦しみ、悶えるロックキング。



「はははっ!目薬は効くだろ!怪獣ヤロー!」



自身を鼓舞する為に、オラついた口調で叫んでみせるアキラ。

だが、次の瞬間ロックキングは、捕鯨砲と銛を繋いでいたロープを掴み、振り回した。



「うおっ?!」



アキラを乗せたジープは勢い良く宙を舞い、30mもの高度から地面へと叩きつけられる。


どごぉっ!!と、ジープが爆破を起こした。

そして、アキラは………。

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