第11話

おぼろホール方面に配備された猟師達は、猟友会のベテランや精鋭を集めた、いわばエリート部隊だ。

当然だ。

ここがあけぼの市に一番近い、いわば急所だから。


おぼろホールのある森を抜ける前に、大多数のオークは倒された。

が、それでも抜けてくる者はいる。



「くそっ!三匹逃がした!」



そうした個体の多くが長年生きた、オークの中でも「強者」と呼べる個体。

その身体には、歴戦を物語る傷跡が多く見られる。

そうした個体は「オークロード」と呼ばれ、通常個体と区別され、また警戒される。


どういう訳か、このおぼろホール方面はオークロードが多く、ベテラン猟師達の包囲網を何体かが突破してきていた。



「包囲網を脱けたオークが来る………!」



覚悟はしていたが、実際起きるとやはり怖い。

索敵用に飛ばしたドローンからの情報で、ジローは震え上がった。


けれども、自分もまたあけぼの市を守る防衛部隊の一人。

そしてここは、市街地に繋がる山道、つまりは最終防衛ライン。


怯えるだけは、許されない。



「ニクスバーン、出撃!」

「了解!出撃!」



ジローの指示により、運搬トレーラーの荷台が立ち上がる。

「了解」は失礼だと、マナー講師失礼クリエーターが飛んできそうだが、今はどうでもいい。

そんな事を言っている場合ではない。


そも、この光景を見たらマナー講師も黙るだろう。

トレーラーがカタパルトのように立ち上げるその姿は、まさにこの世界線では生まれる事ができなかった「ロボットアニメ」の、そのままの光景なのだから。



『ぶっつけ本番ですまない、無理はしないでくださいね』

「………善処します、ジローさん」



そのコックピットに座るアズマは、ジローの気遣いであるが状況的に難しい事を聞き入れつつ、サイコ・コントローラーのヘッドギアを頭に被る。

赤外線が網膜を読み取り、ヘッドギアを通じて脳に信号を送る。


少し、気分が高揚する。

脳波を読み取った影響による物だ。

中毒性や危険性こそ無いに等しいが、電子ドラッグはこんな感じかな?と、アズマはなんとなく感じた。


やがて同調が完了し、ニクスバーンの視界がアズマの視界に投影される。



「ロック解除!」

「了解、ロック解除!」



荷台のロックが解除され、ニクスバーンが地面に降り立った。



「………秋山東アキヤマ・アズマ、ニクスバーン行きます!!」



キンノスケから「こう言うように」と言われた台詞と共に、機械と生体パーツで構成された足で地面を踏みしめ、生まれ変わったニクスバーンが出撃する。

その様は、まさしくありし日のロボットアニメそのものであったという。






………………






ベテラン猟師達による包囲網を脱げたオークロードは、何の因果か最初にあけぼの市を襲ったオーク達と同じく、三体。

僅かに残った同族のにおいを頼りに、山道を駆け抜ける。


次のカーブを曲がれば、後はあけぼの市まで一直線。

三体のオークロードが迫った、次の瞬間。



ブゴォ?!



先頭を走っていたオークロードが、「なんだありゃ?!」と言うかのように吠えた。

当然だ、直立歩行で歩く、自分達と同じ背丈の………巨大なヒトガタが突然現れたからだ。


改修点は多い。


胸周りの装甲は、ウエダがかき集めてくれた物資より頑丈かつスマートなデザインに。


四肢を構成するオークの腕骨格は、同じようなデザインラインの装甲に包まれている。


頭部装甲も、ヒロイックなデザインの物に変更されている。


改修前を、遊園地か何かのエレメカと仮定するなら、これは本物のアニメのロボット。

もし、1999年のアンゴルモア・ショックが無ければ生まれてきたであろう、2000年代の「リアルロボットアニメ」に出てくるような、そんな姿をしている。



「ニクスバーン………V2参上!」



サイコ・コントローラーによって少々ハイになったアズマが、格好をつけて名乗る。

名を「ニクスバーンV2」。

VはバージョンのV。

敗北を経て、新たにパワーアップしたニクスバーンの姿。


………といっても、多少強度が増しただけで、基本的な性能は以前の姿と大差ないのだが。



「いっけええ!!」



ぶおんっ、と、ニクスバーンはその巨大な得物を振りかざす。



ブギィイ!?



なんだありゃ?!と、再び驚くオーク。

その知能が、ニクスバーンを自分達のようなモンスターとして認識していたが為に、相手が道具を使った事に驚いたというのもある。


が、一番の要因は、その大きさだろう。

ニクスバーンの大きさは5mだが、その1.5培はある大きな大きな………


………剣だ。


ロボットの持つ剣としても大きく、ぶっちゃけ鉄塊だとか言われるレベルだ。

が、わざわざキンノスケが施した塗装。

持ち手を金に、刃の部分を銀に塗った事により、見た目だけは剣と認識できる。


名付けて「エクスカリバー」。

アーサー王の持つ伝説の剣の名前がつけられたそれは、「リーチの長い武器で殴れば優位に立てる」「一撃でオークを倒せる質量のある武器がいる」という観点から作られた、明らかに名前負けしている蛮族的な武装。


して、その威力は。



「でえいっ!!」



唖然としているオークの隙をつき、全力で振り下ろされる鉄塊の刃。

避ける間もなく、それはオークの脳天に直撃する。



どぐちゃあっ!!



オークの強靭な頭蓋も、重力に従って振り下ろされる、3トンもある鉄塊には耐えらない。

骨は砕け、脳は弾け、頭部は潰れたトマトのように飛び散る。


常人なら、目を背けたくなるような凄惨な光景だが、アズマは顔色一つ変えない。


一々気にしている場合ではない事、そもテイカーとしてこういう事には慣れている事。

何より………サイコ・コントローラーの影響により、ほんの少しの興奮状態にあった事が、その理由だ。



「次!」



地面に突き刺さったエクスカリバーを支柱に、ニクスバーンはすぐ隣にいたオークに回し蹴りを炸裂させた。



ばきゃあっ!

ブゴォ?!

ブギィ?!



吹き飛ばされたオークは、もう一体のオークに激突。

二体まとめて、横にあった木々に叩きつけられ、バキャバキャと木が折れる。


そこにすかさず、エクスカリバーを引き抜くニクスバーン。

そして今度は、二体まとめて。



どぐちゃあっ!!!!



重さ3トンの鉄の塊は、二体のオークを容赦なく叩き潰す。

二体の頭が重なっていた事もあり、一撃必殺の一撃は二体をまとめて葬った。



「………へへっ、どうさ」



三体のオークを惨たらしいやり方で瞬殺し、額に汗を垂らしつつ笑うアズマの姿は、知らない人が見ればサイコパスである。


だが、まだアズマは正気だ。

よくあるロボット物の法則のように、システムに飲まれている訳ではないし、そもサイコ・コントローラーにそこまでの力はない。


だから、客観的に自分を見て、色々な考えが浮かんだ。


このサイコ・コントローラーも、本体ニクスバーン諸共「危険だ!」と言われて闇に葬られた技術だが、こんな風になるなら危険視もされるな、だとか。


きっと、テイカーを白眼視したり忌み嫌う人達には、自分達がこんな風に見えているのだろな、とか。


無論、この感情に飲まれないように、気を付けようという事も。



『また抜けてきた!今度は二体!』

「すぐ片付けます!」



しかし今は、町を守るためにやらなければならない。

それが客観的に見て、どれだけグロテスクな絵面だったとしても。


町を守るためのオークとの戦い。

そしてアズマの、自分の中に目覚めた危険な獣性との戦いは、まだ始まったばかりなのだ。

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