第10話

二度の日の出と、二度の日没が過ぎた。

そして、三度目となる日の出が、あけぼの市を照らし始める。


避難の進んだ町はしんと静まり帰り、普段は見ないような数のカラスが、電柱のケーブルに留まっている。



………ついに、この日が来た。

オーク襲撃から三日、運命の日が。



「市長、避難を」



市役所の市長室にて、上田ウエダはただ静かに、市長の椅子に座っている。

避難していないのは彼と、眼前の役員を含む避難中の職員のみ。



「私はここに残る、君達だけで逃げなさい」



以前のウエダなら、すぐ逃げ出していただろう。

だが、この三日。

オークとの戦争に備えた三日が、自身を見つめ直す時間となり、彼を変えた。



「これは、私なりのケジメなのだ」

「ケジメ………ですか」

「ああ………私が政治の為に切り捨ててきた市民や、関わる必要のないハズの二人組が、あけぼの市を守る為に戦っている」



そして思い知った。

自らがやってきた事の愚かさを。


変なロボットニクスバーンを持つ変わり者の集まりとして警戒していたゴールド重工と、外部団体に折れて一時は銃を取り上げられた猟友会が、

今やあけぼの市を真守為の最後の希望になった。


それは、その象徴だろう。



「それなのに私がおめおめと逃げるのは、筋が通らないだろう」



だから、ウエダはここに残る道を選んだ。

それが、彼なりの責任の取り方であり、上に立つ者としての矜持というものだ。



「………ご無事で」

「ありがとう」



そう言い残し、職員は市長室から出ていった。

一人残されたウエダは、ただ静かに、戦いの始まりを待っていた。






………………






あけぼの市には、三つのダンジョンがある。


鉱山跡が変化した「泰山鉱道たいざんこうどう」。

使用されていないトンネルに横穴として現れた「猫山ねこやまトンネル」。

市街地に近い森に現れた、普段は立ち入り禁止の「おぼろホール」。


この三つの内どれかからオークが現れたと推測される。

そして、これから地上に出てくるものも。


三つは離れた場所にあり、あけぼの市防衛部隊は三つに別れてそれを迎え撃つ事となった。


泰山鉱道にはアキラが。

猫山トンネルにはスカーレットが。

そして、町に一番近いおぼろホールには、アズマと改修を終えたニクスバーンが、それぞれ猟師達と共に待ち構えている。


嵐の前の静けさ。

そんな言葉が似合うほど、今のあけぼの市は不気味な程に静かだ。


緊張感が汗となって、一人の猟師の頬からこぼれ落ちた。

そして。



「………全てのダンジョンに反応アリ!オークです!!」



ドローンを介して、作戦市令室となったあけぼの市市役所に情報が走った。

三つのダンジョン、その全てから、オークが姿を現したのだ。



「来やがったな!作戦開始だァァ!!」



テンションを昂らせ、キンノスケが叫ぶ。

「戦争」が、始まった。






………………





ここで、ダンジョンの発生について少し話をしよう。

多くの場合、ダンジョンは異世界から魔力やモンスターと一緒にやってきた存在であり、元々無かった場所に突然現れる。


だがそれとは別に、元々あった場所や空間が、魔力の蓄積によってダンジョン化する事がある。


そのメカニズムについてはまだ不明点が多いが、人間の出入りが少なく、魔力の溜まりやすい閉所がなりやすいという法則性はある。

広めの下水道や、人里離れた場所にある廃ビル等。


そしてここ。

閉鎖した鉱山の跡である泰山鉱道も、そうした新規発生ダンジョンの一つだ。



ブゴオオ!

ブギィイイ!



泰山鉱道の入り口から、オークの群れが現れる。

5mあるオークだが、鉱道の入り口をギリギリ通る事が出来た。


仲間のにおいを追い、あけぼの市に向かうオーク達。

巨大な影が迫ってくる形になったが、鉱道の周りの森に潜んだ猟師達は、冷静だった。



「群れている分、狙い易い………!」



アキラは、渡されたライフル型のマジックガンに、弾丸型のメモリを装填する。

ここに、撃ち出される魔法がプログラムされている。

後は、内部に充電された魔力が無くなるまで撃つだけだ。



「食らえデカブツ!」



マジックガンを構え、アキラ達猟師は引き金を引く。

普通の拳銃のように、バァン!という銃声と共に、魔力の弾丸が撃ち出された。



ブギィイイ!?

ブゴゴゴッ!!



メモリに記録されているのは、貫通力の高い「ライトニングランス」。

雷属性の攻撃魔法であり、オークの厚い体表もなんのその。


足を狙われた為に、オーク達はバランスを崩して転倒。

進撃は失敗に終わった。



「なるほど、いい銃だ………!」



アキラは、実際にマジックガンを使ってみて、その良さに感動していた。

火薬銃に比べて反動も軽く、実弾でない為にゴミも出ない。

重さは多少気になったが、技術を考えると、これより軽いタイプも存在すると予想される。


この戦いが終わって、猟師業再開となったら、マジックガンを使っていこうか。

そんな考えが、アキラの脳裏に巡った。



ブギィイイ!!



転倒したオークを乗り越えて、他のオークが這い上がってくる。

転倒したオークもまた、その太い腕で前に進もうとしている。



「………まずは勝たなきゃな!」



望む未来を掴む事。

その為にも、まずはこの戦いを乗りきらなければならない。


幸いライトニングランスが、オークの表皮を貫通できる事は解った。

なら、あとはいつものようにやればいい。


アキラは再び、他の猟師達と共にマジックガンを構えた。

掴む明日は、この戦いの先にある、と。






………………






猫山トンネルでもまた、オーク達とあけぼの市防衛部隊との死闘が展開している。

が、こちらは泰山鉱道の方とは、様子が違う。



「ヴァイパーダンス!!」

ブギィイイ!



ジャララ、と、蛇腹剣状態になったイフリートが舞い、次々とオーク達を切り刻んでゆく。

自分の周りに刃を舞わせ、周囲の敵を切り裂く「ヴァイパーダンス」だ。


なるほど、確かに刃は踊っているようだし、その中心で刃を操るスカーレットは、まるでストリップショーのように扇情的だ。

名は体を表すとは、この事だろう。



「………なあ」

「ん?何よ」



しかし、問題が生じた。

それは、トンネルを両方から挟むように配置され、スカーレットが撃ち漏らしたオークを射撃する猟師達。



「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな?」



若い猟師が発した、その一言。

彼等は、そんなコラ画像のような台詞が出るぐらい、仕事がないのだ。


撃ち漏らすといっても、五分に一頭来るか来ないかの比率。

それも、スカーレットの攻撃によってズタボロ状態の、狙いやすいようなターゲット。



「だからって離れる訳にもいかんだろ!」

「そうだけどさぁ………」



とはいえ、それは無責任な発言であり、若い猟師はベテランの猟師に叱責されてしまう。



「それに………見ろよ、あれ」

「あれ?」



と、思ったら、ベテランの猟師がトンネルの中を指差した。

何だと思い、若い猟師が目をやると………。



「どんどん来なさい!」



炎剣・イフリートを振るい、オークを切り伏せてゆくスカーレット。


彼女が剣を振るう度、そのエナメルで大事な所だけ隠したバスト95cmの巨乳が、どたぷんっ!と揺れる。

彼女が飛び上がる度、パンツ部分で強調された尻肉が、どぶるんっ!と揺れる。


何より、いつもの戦い方………投稿動画でやるような戦闘スタイルで戦っているが故に、その様はポールダンスかストリップショーのように、エロチック。



「………目に焼き付けよう、この光景を」

「自分、録画いいですか」

「許可する!」



若い猟師は、ようやく彼女の班に志願者が多かった理由を理解した。

あの極上の女体を見られるのだ、男なら誰でも望む。



「まだまだ!さぁ、燃やすわよ!!」



それを知ってか知らずか、スカーレットはオーク達の返り血の舞う中、その淫靡な剣舞ダンスを続けるのであった。

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