第6話
『待てぃっ!!!悪のモンスターめ!!!』
白昼の争乱に、スピーカー越しに響き渡った男の声。
それは、その場にいた全員の関心を引いた。
スカーレットも、アズマも、論破男も、野次馬も、そしてオーク達も。
皆の視線が集中する先にあったのは、いつの間に来たのか一台のトレーラー。
道路の幅には収まってはいるものの、車としてはかなり大きい方であり、荷台に何かを乗せている。
そしてトレーラーには………つい先程イフリートの修理を頼んだ、ゴールド重工のマーク。
そういえば停めてあった車の中にあったような、と、スカーレットは思い出した。
『知らざぁ言って聞かせやしょう!我こそは、悪のモンスターから世界を守るスーパーヒーロー!我等が地球の守り神!』
そんなスカーレット達の眼前で、グオゴゴゴとトレーラーの荷台が立ち上がる。
車を乗せるそれと違うのは、荷台がロケットの発射台のように垂直に立ち上がっている事。
そして………荷台に乗っているのが、車やバイクのような「常識の範囲内で浮かぶ乗り物」ではないという事。
『時代を越えて甦る、天下無敵のスーパーロボットぉ!!』
ガシャン、と、その「乗り物」は二本の足で地面に降り立った。
名乗りに反しその外観は、古びた鉄板と装飾で覆われた安っぽい外見である。
しかし、二本の足で地面に立ち、二本の腕を構える5mの姿は、まさしくアニメに登場するような「ロボット」である。
そんな虚構のハズの存在が現実に現れ、唖然とする人々。
しかし、スカーレットとアズマだけは、他と比べて少しだけ冷静でいられた。
何故かって?
その存在を予め知っていたからだ。
『鋼鉄超人ニクスバーン!ここに参………うわああ?!』
名乗りの最中、二体のオークがそのロボット………ニクスバーンに襲いかかる。
オークが、すぐさまニクスバーンを敵と認識した事と、
現実がアニメのように悪役が待ってくれないという、二つの悲劇から起きた事件である。
『こなくそっ!名乗りの最中に攻撃すんじゃねーよ!ルール違反だろこらぁ!!』
しかしニクスバーンもやられてばかりではない。
そのクレーンを取り付けたような腕で、オークの一体にパンチを繰り出し、背面に回ったオークには回り蹴りをお見舞いする。
ブリキの玩具のような外見からは想像できない大立回りは、かつて政府関係者に紹介した時と同じ、軽やかな動きだ。
「………えい」
ブギギィ!?
そんな状況を前に、呆然として取り残されたオーク。
そこに、頭上に降り立ったスカーレットから脳天に一撃。
ソードLで脳を破壊されたオークが倒れ、オークを片付けたスカーレットがアズマに駆け寄る。
「アズマくん、あれ………」
「はい………ゴールド重工にいたやつですね」
テイカーから見ても非現実的な、ロボット対モンスターという絵面を前に、アズマもスカーレットも目で見た状況を確認するしか出来ない。
「で、あの声………」
「………はい、キンノスケさんですね」
そして、外部スピーカーをONにした状態のニクスバーンから聞こえてくるのは、聞き覚えのある年老いた男の声。
そう、
キンノスケが、ニクスバーンのコックピットに座って操縦しているのだ。
人体の全盛期など、とっくに過ぎ去ったおじいちゃんが。
『このっ!スーパーロボットを
確かに、キンノスケはデモンストレーションのみにしても、ニクスバーンの搭乗・運転経験が最もある人間だ。
だとしても、遍歴を越えた人間がここまで上手く立ち回れるのは何故なのか。
答えは、現時点ではニクスバーンにのみ搭載された操縦システムにある。
ニクスバーンのコックピットは、所謂よくあるロボットアニメのような複数のペダルと操縦桿、スイッチのある椅子のタイプ。
無論、これだけではかつてやったような、体操選手のようなしなやかな動きは出来ない。
それを解決するのが、外部目視の為のモニター付きゴーグルと一体化した、ヘッドギアによる物だ。
このヘッドギアには「サイコ・コントローラー」という名前がつけられたシステムが搭載されている。
パイロットの脳波を読み取り、それを操縦に反映させる事で、スイッチや操縦桿の数が最低限でも自由で柔軟な動きを可能としている。
分かりやすく言えば、某機動戦士に出てくる、
だがこちらは、そんなエスパーの気がなくとも、ある程度訓練すれば誰でも使える。
………もっとも、これもニクスバーンに積んでいたばっかりに「生命への冒涜だ」と、雑な批判をされて開発を打ち切られたのだが。
とはいえ、このシステムのお陰で、キンノスケでもオークを相手にここまで立ち回れる。
立ち回れていた。
の、だが。
『正義の拳を受けてみよぉ!』
ばこんっ!と、ニクスバーンの拳がオークの頭をぶん殴る。
その直後、もう一体のオークがニクスバーンに飛びかかり、腕を締め上げる。
『うわあ?!この、やめんか!』
………たしかに、ニクスバーンは今の基準で見ても素晴らしいロボットだ。
虚構の存在でしかないハズの「アニメのロボット」を、約30年も前の現実の世界で作ってみせたのだ。
しかし、それに使われていたパーツも、性能を出す為に高級品を使っており、それは中枢になる程顕著だ。
現代の部品で代用可能な物はあるが、その多くは変えは効かない。
そこに10年単位の時間が過ぎた事による、経年劣化が加われば………。
『ちょいやめっ………ほわあああ?!』
ばきゃあっ!!
金属のひしゃげる音と共に、オークに組み付かれていたニクスバーンの右腕が引き抜かれる。
オイルと部品が飛び散る。
まるでスプラッター映画だ。
ブギギィ!!
『ほげええ?!』
殴られた方のオークが、同じように左足に組み付き、締め上げる。
そして、メキャアという金属のひしゃげる音と共に、今度は左足が付け根からネジ切れた。
たしかに、ニクスバーンの強度は戦車並だ。
けれども、間接や四肢の付け根といった可動部分は、流石にカバーし切れない。
人造のヒトガタに最初は驚いたオーク達だったが、そこはモンスター。
戦い方を学ぶのは早い。
これも、他の生物のように「間接が弱い」と、すぐ解ったようだ。
ブギギギッ!
ブゴッ!ブゴッ!ブゴッ!
ガシガシと、奪った腕と脚をこん棒のように振るい、二体のオークはニクスバーンを叩く。
流石のニクスバーンも、自分の身体を武器にされたのでは太刀打ちできず、装甲はひしゃげ、内部フレームも悲鳴を挙げる。
ブギギギッ!ブギギギッ!
ブゴッ!ブゴッ!ブゴッ!
よくもやってくれたな、ざまあみろ。
と、考えるだけの知能がオークにあるかどうかは解らないが、二体のオークは嘲笑うように鳴きながら、ニクスバーンを破壊する。
………オーク達はニクスバーンへのリンチに夢中になりすぎていた。
故に、背後から近づいてくる二人に気づかなかった。
「ふんっ!」
ブゴッ!?
まずはスカーレット。
さっきもやったように、慣れた手つきでオークの脳天にソードLを突き刺す。
オークはぐらりとふらつくと、地面にその巨体を倒した。
ブギィ!?
まずい!と、ようやく自分達が追い詰められていた事に気付いた最後のオーク。
だったが、もう遅かった。
「スタン!」
ブゴッ!?
アズマがシルフィードを構え、スタンを発動させる。
すると、オークの足元に出現した黄色い魔方陣から、電流のような魔力エネルギーが走る。
これが、モンスターの神経に作用し、麻痺のような状態にするのだ。
流石に完全に動けなくなる訳ではないが、少し遅くするだけで十分だ。
「はあっ!!」
スカーレットが飛び上がり、ソードLの一撃でオークの首を切り落とした。
ぼとり、と本体を離れたオークの頭が地面に落ち、その生命活動を終わらせる。
戦闘終了。
町を襲った三体のオークの驚異は、二人のテイカーと一体のロボットの活躍により、打ち払われた………の、だが。
「めでたしめでたし………って訳じゃなさそうね」
称賛所か、畏怖と侮蔑の感情を向けてこちらを見つめる市民達。
そして、いつのまに来たのかスカーレット達を取り囲む警察官達を見て、スカーレットはため息をつく。
どう見ても、モンスターから町を救ってくれてありがとうと言ってくれるような雰囲気ではない。
じゃあ何が言いたいのか?
それは、警察官がこちらに突きつけた魔力式拳銃が、全てを物語る。
「モンスターを倒して町を救った人達に対する態度が、これなのかしら?」
侮蔑し返すように、スカーレットは皮肉を込めて、警察官に言い返す。
それに対して、偶然スカーレットの目の前にいた警察官は、申し訳なさそうに答えた。
「………俺もそう思う」
仕事だから、仕方がないんだ。
警察官は、瞳でそう語っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます