第5話

ゴールド重工のお昼休み。

いつもはどんな時でもお客様はウェルカム(滅多に来ない)だけれども、お昼休みは「準備中」の立て札を立てて一休み。


社員一同、一番近い(それでも車で一時間)中華料理店で頼んだ出前を食べて、滅多にない午後の仕事に備えてスタミナをつけるのだ。


ちなみに今日はチャーハン。

いつものごとく、テレビをつけてのんびり過ごす………ハズだった、のだが。



『キャーッ!モンスター!怪物が!キャーッ!』



あけぼの市内を散策して、町の魅力を再発見する、ローカル番組1コーナー。

もうすぐ公開となるアニメ映画にて、主役の吹き替えを担当するアイドルが司会と言うので、見てやる事にした。


けれども、好きなアニメ映画に素人同然のアイドルがねじ込まれて内心穏やかでないジローですら、

そのアイドルが思ったよりいい声である事や、意外と胸が大きい事以上に、感心を引く物が画面に映っていた。



お昼時の、あけぼの市中央広場。

活気溢れる白昼の町に、現れたのは三体のモンスター・オーク。


件の映画の宣伝か?と思ったが、町の人々の慌てようや、実際に壊れるあれやこれやを見ていると、それが嘘とは思えない。

第一、少なくとも今見ているテレビの放送局には、そんな大規模な宣伝をする程の、度胸も予算もない。



『あっ!人!向かって行ってる!だめ!危ない!キャーッ!』



自分達の見知った町が破壊の危機に晒される中、カメラが捉えたのは、オークの前に飛び出してゆく二人の人影。


頭おかしいんじゃないか?と思った。

だが、カメラマンが必死にオークを撮影しようとしたお陰で、その二人をしっかりと捉える事ができた。



「あっ!昼間来た人達!」



ジローの言う通り、オークの前に立ちふさがったのは、昼間に炎剣イフリートの修理に訪れた、日本では珍しい二人組のテイカー。

スカーレットと、アズマである。


彼等がテイカーである事を考えると、何をしようとしているかは検討がつく。



『ブギギィ!!』



なんだテメェ!と言うかのように、オークが二人に襲いかかろうとする。

だが。



『TAKE UP!』

『TAKE UP!』



ボンッ!と爆風が広がり、オークを吹っ飛ばした。

閃光と衝撃の向こうから現れたのは、ボンテージのような姿になったスカーレットと、白いシスター服のような格好のアズマ。

あれが、彼等のテイカーとしての姿………装備を展開した姿なのだ。



『あーっ!戦ってます!戦ってます!』



そして、オーク三体に臆する事なく、各々の武器を手に立ち向かう。

今の日本の例に漏れず、テイカーに対していい感情を持ってなかった社員達であるが、

オークに立ち向かうスカーレット達は、まるで日曜朝にやっている特撮ヒーローのようで、中々に格好がいい。



「いいぞいいぞ!」

「行け!やっつけろっ!」



社員達も、まるでスポーツ観戦のようにスカーレット達を応援していた。

ジローもまた、周りに釣られて「いいぞ!そこだ!」と声援を飛ばす。

そこに。



「ジロー!出動だっ!!」



外でタバコを吸っていたハズのキンノスケが、瞳をキラキラさせて現れた。


応援が煩い!とか、テイカー応援するな!と怒りに来た様子は無いようだ。

が、それまでこのゴールド重工であった色々な事や、自分を名指しで呼んだ事等から、ジローは色々察した。



「出動………?!」

「おうよ!運用トレーラーの免許持ってるのお前だけだからな!」

「いや何処に!?」

「テレビ見てたなら解るだろ!あんな若いモンが身体張ってるのに、俺が何もしないワケにゃいかねーだろ!」

「やっぱりー!?」



キンノスケに引きずられてゆくジローを見て、残された社員達はジローを哀れみつつ、この後来るであろう町や警察からの追及を予感するのであった………。






………………






「だりゃああっ!!」



ソードLを手に、オークに斬りかかるスカーレット。

ヒットはするものの、オークの厚い皮膚を貫くまでは至らない。



ブギギィ!!

「よっとぉ!」



オークが長い腕を叩きつけて反撃に出るも、それを飛び上がって回避。

そしてもう一度攻撃を仕掛けるヒット・アンド・アウェイで、オークにダメージを貯めてゆく。



「蛇腹剣モードさえ使えたら一発なのに………!」



本来なら、オーク程度のモンスターならスカーレットの敵ではない。

いつもなら、炎剣イフリートの蛇腹剣モードで、三体まとめて一網打尽に出来るのだ。


だが今握っているソードLは、大きさや形こそイフリートに近いが、ただの剣だ。

そんなギミックは搭載していない。


何より。



「この………逃げなさいよ!あんたら!」



この周りには、まだ避難していない市民がいた。


逃げ遅れたならまだしも、まるで野次馬のようにスカーレット達とオークの戦いを観戦しているのだ。

中には、携帯スマホを取り出して動画を撮影している者もいる。


これでは、仮にイフリートが手元にあったとしても、攻撃範囲の広い蛇腹剣モードや応用技のヴァイパースティングは使えない。

辺りに炎の広がるサラマンダーバイトなど、もっての他だ。


故にスカーレットは、通常攻撃でチマチマとダメージを与えるしかないのだ。

そしてそれは、アズマも。



「ファイ………ダメだっ!」



攻撃魔法・ファイアを放とうとしたアズマだったが、その車線上にこちらを見ている市民が居た事から、魔法を引っ込める。



ブギギィ!!

「シールドっ!」



オークが拳を振るい、アズマを殴り付ける。

咄嗟にシールドを展開し防御するが、小さな身体は大きく後方に吹き飛ばされてしまう。



「く………っ!」



なんとか隙をついて、スタン………相手を痺れさせ動きを鈍らせる特殊魔法、不完全な裁きの牢獄プリズン・オブ・ビシテーションの代用として覚えた、初級魔法………をオークにかけられないかと考えるアズマ。

シルフィードを構え、魔法を発動しようとした、その時。



「ほら、見てくださいよ、町中でこんなバカ騒ぎして何考えてるんでしょうね、テイカーってやつは」

「えっ?!」



自分のすぐ近く。

市民達が集まっている所よりも近い、戦闘の舞台となっている広場の一角から、人の声が聞こえてきた。


誰かいるのか?と、アズマは声の聞こえてきた、植え込みの後ろを覗く。

そこには。



「あ………あなた何やってるんです?!」



植え込みの後ろに隠れて、

アズマ達の戦闘を携帯のカメラで隠し撮りしながら、

なにやら携帯のマイクに向かって長々と喋っている、アゴヒゲの生えた男。


どうやら、以前スカーレットがやっていたように、動画サイトに投稿する為の動画を撮影しているようだ。

が、見たところDフォンはおろか、装備らしき物もなく、スカーレットのようなテイカー活動をしているとは思えない。



「危険ですよ!見えないんですか?!」

「いやそれ、貴方の感想ですよね?」



この男、その道の人達の間ではそれなりに有名な、動画投稿者。

いわゆる「物申す系」や「論破系」として有名であり、何かしらをやらかした著名人や投稿者に対して、動画を通じて説教の真似事をしたりしている。


ようは、安全地帯から他人を攻撃する事で広告収入を得ているのだが、その陰湿さと邪悪さに対しての非難は少ない。


なんせ、大部分の該当者がやっている事は「悪者炎上した人物に対する正義の成敗」と認識されている上に、

その、勝者のアラさがしで庶民の嫉妬心をやわらげ、 敗者の弱点をついて大衆にささやかな優越感を与えるというやり方は、運悪く日本人の快感原則にピッタリはまってしまっている。


その為、リアルでもネットでも彼を咎める者はおらず、故にこんな危険な事をしても誰も止めない。



「なんだろう、自分達のやからしを隠そうとするの、やめて貰っていいですか?」

「あなたは自分の命を捨ててまで他人を攻撃する事をやめてください!!」



だから、いくらアズマが危険だと言っても、彼は聞く耳を持たない。

社会の底辺のテイカーが言う事など、論破の対象でしかないのだ。



ブギギィ!!



そうこうしていると、オークの一体がアズマ達に向けて突撃してくる。

このままではアズマ所か、そこの論破男もまとめてやられてしまうが、論破男は動こうとすらしない。



「まずっ、シールド!」



せめて、彼の受けるダメージを少しでも軽くしなければ。

アズマは咄嗟にシールドを張る。


………それが気休め程度にしかならないのは、アズマが一番知っている。



「アズマくんッッ!!」



スカーレットもアズマの状況に気づいた。

だが、もう遅い。

オークが丸太のような腕を振り上げ、アズマと論破男に、鉄骨すら砕くラリアットを仕掛けようとする。



『待てぃっ!!!悪のモンスターめ!!!』



その時だった。

予想すらしていなかった、「鋼鉄の救世主」が現れたのは。

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