第2話

ザザーン、ザザーン。

ブロロロ。

海沿いの道をゆくスカーレット達の耳には、バルチャー号の走行音と、波の音が響いていた。


本来なら、海の景色を楽しむべきなのだろうが、アズマはどうも海の景色に集中できなかった。


理由は一つ、スカーレットに密着しっかり捕まっているからである。



アズマは、13歳の思春期真っ只中。

それが、胸も尻も飛び出た大人のお姉さんであるスカーレットと身体を密着させて、平気でいられる訳がない。


ましてや、「そのおっぱいでテイカーは無理でしょ」とヤジられるスカーレットなら、尚更だ。


かくれんぼスニーキングゲームのミームを借りるとすれば「性欲をもて余す」である。



「………どうかした?」

「な、なんでも無いです………っ!」

「ふふっ、そう………」



そんなアズマの状態を知ってか知らずか、からかうように笑うスカーレット。


いや君、アズマとの関係一夜のあやまちがバレたら社会的に殺されるって事忘れてない?

何童貞をからかうセクシーお姉さんぶってんの?


そんな突っ込みを入れたくなる状況がしばらく続いた後、スカーレット達の最初の目的地が見えてきた。



海と山に挟まれた、華やかな地方都市・あけぼの市。


………に続くルート上に、ぽつんと見える、小さな町工場。

看板にでかでかと書いてある、名を「ゴールド重工」。


家電から車、お手元のスマホからテイカー装備の修理・修繕・整備まで。

メカの事ならなんでもおまかせ、頼れるあなたの修理屋さん。


と、公式サイトには書いてある。

だが、外から見た感じでは、小規模の零細企業と言った感じ。


本当にここで修理できるのか?と疑いつつ、スカーレットは社屋の前にバルチャー号を停めた。

見た所、外には誰もおらず、閉じた門にもインターホンが見当たらない。

いや、ついていた跡らしき物はあるのだが、取り外されている。



「………すいませーん!テイカー装備の修理してくれるって聞いて来たのですがー!」



仕方なく、スカーレットは大声で呼んでみる事にした。

アズマを筆頭に学生は夏休みだが、世間は平日。

公式サイトを見る限りでは、今日は営業日のハズである。


しばしの、沈黙。

もしかして知らない間に潰れたのでは?と、スカーレットの脳裏に嫌な予感が過った、その時。



「はぁ~い」



社屋の扉が開き、一人の若い男が走ってきた。

よかった、営業してたと胸を撫で下ろすスカーレットの前で、男は門を閉じていた扉を開く。



「すいませんね、インターホンが壊れてて………」

「いえいえ、おかまいなく………」



出てきたのは、ボサボサの頭にメガネ、太っちょ体型という、二昔前ぐらいの「オタクギーグ」の典型的イメージを形にしたような男性。

作業用のツナギに身を包んでおり、首から名札のように下げた社員証には「幕井目次郎マクイメ・ジロー」という名前が記されている。



「テイカー装備の修理ですね、ではこちらに………」

「はい、どうも………」



ジローに誘われ、スカーレット達はバルチャー号から降りて、車体を手で押しながらゴールド重工の門をくぐる。


入ってみて解ったが、いたる所に車やパソコン等のスクラップ部品があり、あらゆるメカの修理・修繕・整備をやっているというのは、あながち嘘でもなさそうだ。



「では、担当の者を呼びますので、しばらくお待ちください」

「ええ、どうも………」



社屋………ガレージのシャッター内のような場所=整備ドックにスカーレット達を待たせ、ジローは事務所の奥へと消えてゆく。

こんな場所に待たせるのはどうなんだ?と今にもマナー講師が飛んできそうだが、

外が夏の炎天下である事や、事務所の入り口がドック内にある事から、こうしてもらう他無いのだ。


さて、しばし待てとの事だが、ここで待たされているスカーレットもアズマも、どうしても周囲のあれやこれやに目が行ってしまう。


様々な機材に、有象無象のパーツ群。

修理中らしく、ボンネットの開いた車が見える。


他人の職場にこういった目線を向けるのは失礼とも言われるが、この手のメカ・ドックは遊園地のように雑多で、見ていて飽きない。



「………んっ?」



そんな最中、機材やパーツの山の中に、アズマがある物を見つけた。

小さなショベルカーか何かが集まっているのか?とも思ったが、目を凝らして見てみると、そこにあるメカの正体が解った。



「す、スカーレットさん!」

「ん?どったの?」

「あれ見てください!あれ!」



アズマが指差す先。

それを見て、脳が理解すると同時に、スカーレットも目を見開いた。



「う、嘘でしょ………!?」



それは、巨大な人型であった。

ドック内に収まるように寝かせられていたが、その大きさは5m程はある。


武者の兜のように伸びた、二本の角。

人間のそれと同じ、二つの目のような機関が見える頭部。

赤を基調としたヒロイックなカラーリングなど、要素要素を見れば「正義のヒーローの操る無敵のスーパーロボット」のように見える。


いや、見えるのではない。

パッと見の印象ではあるものの、これは。



「ロボット………よね?これ………」



昔のアニメで見るような、人が乗るタイプのそれだ。

と、スカーレットは思った。


1999年アンゴルモア・ショック以降、モンスター被害を思い出させて不謹慎だという理由で廃れつつあるが、ジャパニメーション特有の「ロボットアニメ」のイメージと、何処か被って見える。


………が、完全に昔のアニメやゲームに出てきた「スーパーロボット」そのまんまであるかと言うと、そうでもない。


その装甲の各部には打ち付けられたリベットが見え、装甲の質感もどこか安っぽい。


両腕も五本の指こそあれど、上三本下二本で挟み込むような形状であり、

何処かの作業用の重機のアーム部を転用したのは見るに明らかだ。


一瞬ヒロイックに見えた頭部も、なんとなく遊園地のエレメカを思わせる、パチもん臭い安い造りだ。



デザインだけを見ると、スーパーロボット………と言うよりは、対人戦闘を前提に作られた、専門用語で言う所の「リアルロボット」に分類されるだろう。


そこに、前述のヒロイックなカラーリングが、どこかアンバランスさというか、一種の不気味さを感じさせる。


これにロボットアニメらしいストーリーを与えるとしたら、

「調子に乗った脚本家か原作者が、自分の思い描く「残酷な世界」の演出の為に、ヒーローを夢見る若者の機体として出し、無慈悲な戦場にて無惨に破壊される為の機体」とか、そんな感じだろう。


という、アズマの陰キャ特有の感想を感じさる。

そんなロボットだ。



「おお!ニクスバーンに目をつけるとは!いやはやお目の高いお客さんだ!」



その「ニクスバーン」と呼ばれるロボットに見とれていたスカーレット達の背後から、ジローとは別の男性の声が聞こえてきた。



「だが残念な事に、こいつぁ非売品なんだよ、まあ国家予算並の代金を払ってくれるんなら、もう一機作ってやらん事もないが………?」



ジローと同じデザインのツナギに身を包んではいるが、こちらは痩せ型の体型。

生え際の後進した、ロマンスグレーの頭皮。

深く刻まれたシワや、口許を覆う白髭。

一目で解る、老人だ。


だが口調からは活気を感じ取れ、

左目を顕微機能のある眼帯型のモノクルで覆っている事から、技術者としてはまだまだ現役である事を感じさせる。


昔の漫画や映画に出てくる「自称発明家の、町の偏屈な老科学者」がいるが、丁度そんな感じの人物だ。

詳しい人には、某タイムマシンの映画の科学者ドクを想像して貰ったらいいだろうか。



「あっ、いたいた!社長ー!」



すると、事務所の方からジローの声が。

どうやら社長を探していたらしく、こちらに向かって走ってくる。



「ジロー!俺の事は「ボス」って言えつっただろ!」

「す、すいません、社ちょ………ボス」

「まったくも~!」



そんな、漫才のようなやり取りを繰り広げる、ジローと老科学者。

だが、スカーレット達には、他に注目するべき事がある。


一連のジローと彼のやり取りを見るに、このゴールド重工のヘッドである代表取締役社長は………。



「もしかして………あなた社長さん?!」

「ん?おお!」



老科学者………もとい社長が、まるで歌舞伎役者か何かのように見栄を切る。



「知らざぁ言って聞かせやしょう!ゴールド重工の頭!船根金之助フネ・キンノスケたぁ、俺のことよっ!!」

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