第1話

一夏の冒険の為、街を飛び出したスカーレットとアズマ。

各地のダンジョンを巡り、それを配信する。

ついでに旅費も、ダンジョンで稼ぐ。


さて、人生経験豊富な皆様なら突っ込みたいだろう。

そんな上手くいくわけねぇだろタコスケが、と。


そりゃそうだ。

たかが25年生きた露出狂アバズレと厨房が、どうして旅をしつつ共同生活が送れるものか。

一夏の冒険?ラノベの真似事も大概にしろ、アホが。


人生を甘く見たバカ二人は、その報いといわんばかりに大変な目に逢って………



「っはぁ~!これが日本の拉麺noodle!一度食べてみたかったのよ~!」

「僕も、こういうの好き………かも」



………いるような事は無かった。

少なくとも、旅の途中で訪れたラーメン屋で、チャーシュー麺を食べている位の余裕はあった。



「にしてもびっくりね、もうちょっとお金には苦労すると思ったんだけど、まさかあんなに「仕事」が溢れてたなんてね」



彼女達の収入源は、基本的にダンジョンでモンスターを撃破して得た魔力の換金か、動画広告。

だが、スカーレットの予想していない、もう一つの収入があった。



家畜や畑を襲う、モンスターの駆除・撃退である。



ゴブリンを初めとして、ダンジョン外に住み着き、人に害を与えるモンスターも少なくない。


特に今スカーレット達がいるような、農業や畜産が行われている地域ではモンスター被害に頭を抱える事が多い。

なんせ、猪や野犬以上に狂暴な上に強いのだ。


そんなモンスターを倒してくれるスカーレット達を、現地の人々は称賛し、有り難がった。

今ラーメンを食べているのも、そうした人々がくれた報酬による物だ。


本当にここが日本なのか?と、スカーレットが錯覚している程だ。

これで、当分お金の心配はしなくともいい。


が、スカーレットは疑問に思う事が一つ。



「でも………私達以外にモンスターと戦う人っていないの?その、猟師ハンターとか」



普通はそう思う。


多くの場合、農村部等には作物を害獣等から守る猟師がいるものだ。


スカーレットの知る限りでは、テイカーはダンジョン外に出たモンスターと戦う事もあるが、基本的にはダンジョン外のモンスター退治も猟師の仕事。


皆、主に銃タイプのテイカー用装備を持ち、モンスターと戦う。

中には、テイカー業と猟師を併用している者もいる。



「そういえば………僕達が来るまで、誰もモンスターと戦ってなかったって………」



ところが、スカーレット達が来るまで、そうした農村を守るために猟師が来たような様子が無かった。

実際アズマは「猟師さんはいないの?」と聞いたが、「もう来てくれない」と、悲しげに返されただけだった。


日本がテイカーに対して偏見を持っている事を前提に考えても、これはおかしい。

一体全体どういう事なのか?と、二人が考えていると。



「………お客さん、もしかしてネットとかあまり見ないタイプ?」



沈黙を遮ったのは、カウンターの向こうで仕込みをしていたラーメン屋の店主だった。



「猟友会、手ぶら、でネット検索してみ」

「ああ、はい………あっ!」



手にしていた携帯電話スマートフォンでアズマがネット検索をかけた所、あるニュースサイトがヒットした。

そこには「猟友会「手ぶらで来いってか?」募る県への不満」というタイトルの見出しと共に、住宅街に出没した熊の写真が写っていた。






………………






事の発端は、今から一年ほど前。

この付近にある住宅街に、熊が出没した。

それに対して警察と猟友会が出動し、なんとか駆除に成功した。


………が、これに対して一部の団体が「建物に向けて撃った」「熊を殺すなんてやりすぎだ」として、猟友会を批判した。


普通に考えて、頭がおかしい事をやっているのは誰の目にも見て明らかだ。


だが、事件の知名度が低く、また団体が「泣く子は多く飴がもらえる」ということわざに倣った「抗議」をした事から、

結果として、出動の依頼を出したハズの市が折れた。

熊を撃った数人の猟師に対して銃の所持許可を取り消すという処分が下された。


これに対して猟友会側が納得するワケもなく、市と団体に対して、銃の所持許可取り消しの撤回と、損害賠償を求める裁判を起こした。

そして、今も両者は法廷で争っている。






………………






何故、テイカーである自分達があそこまで感謝されたのか、ようやく解った。

本来守ってくれるハズの猟師達が、銃を取り上げられているのだ。


そしてそんな状況に対して、外国人ぶがいしゃであるスカーレットの感想は。



「よそ様の市町村にこんな事言いたくないけど………市長さんはバカなの??」

「はは………僕もそう思うよ」



同じ日本人のアズマでも、「何をやってるんだ」としか思えなかった。


言ってみれば、周りをモンスターに囲まれた状態で、武器を捨てろと言っているような物だ。

テイカー経験の少ないアズマでも、それがいかに馬鹿げた事かは理解できる。



「そうさ………都会や外国から来て御高説垂れるような奴等はロクなモンじゃねえのさ………あいつらは自然自然っつーけど、綺麗な所しか見てねえんだよ」



諦めるように吐き捨てる、ラーメン屋の店主。

ふとカウンターの奥に、店主と並んで笑う年老いた女性の写真が見えた。

彼女が手に大根を抱えている様から、店主が何を言いたいかは、スカーレット達にもよく解った。






………………






ラーメンを食べ終えた後は、旅の続き。

代金を払い、店の外に出たスカーレットとアズマは、旅の「足」として利用している一台の赤いバイクへと向かう。


と、言っても、オートバイのような格好のいい物ではない。

ピザ屋のデリバリーでよく見かけるような、屋根キャノピーのついた三輪ジャイロバイクだ。

これなら、仮にある程度の雨に見舞われたとしても、走れる限りは走る事が出来る。


おまけに二人乗りタンデム仕様になっており、二人旅には丁度よく、法的にも安心。

エンジンには魔力発電機を使っており、テイカー活動で得た魔力を使う事が出来て、燃費もいい。


実用性と効率を考えた、スカーレットらしいバイク選びである。

後部にはスカーレットのパーソナルマークであるヘビのマークも描かれ、おまけに「バルチャー号」という名前まで貰っている。



「次の町まで後どれぐらい?」

「そうですね………近くに大きな町がありますね、大都市ってレベルじゃありませんけど」



携帯の地図アプリを開き、調べるアズマ。

どうやらこの近くに、そこそこ規模のある地方都市があるらしい。


名を「あけぼの市」と言い、近隣の町にはいくつか機能しているダンジョンがあり、しばらく拠点とするには持ってこいである。


………だが、スカーレットには一つ、テイカー活動をする前にやりたい事がある。

それは。



「その前に………イフリートを修理できる所が見つかればいいんだけどねぇ………」



スカーレットの傷ついた愛剣・炎剣イフリートの修繕だ。


神沢ロックホールでの合体スケルトン戦にて、酸を浴びて僅かに溶けてしまったイフリート。


一応、切れ味が大幅に下がる程ではなかったが、動画映えもあるし、何より長い事一緒に戦ってきた剣なのて、早い所修理してあげたい。



「うーん、この近くにあるかどうか………」



しかしアズマもダメ元で調べているように、テイカーに対して厳しい日本では、テイカーの装備を修理してくれるような所は中々ない。


ましてや、地方だ。

そう簡単に見つかる訳がない………



「………あった?!」

「嘘ぉ!?」



………訳でもなかった。


そんなまさか?!と、スカーレットとアズマは携帯の画面を覗き込む。

そこには、目的地であるあけぼの市に続くルート上にぽつんと立つ、ある町工場が表示されていた。


株式会社「ゴールド重工」。

規模はそんなに大きくないが、行っているサービスの中に「テイカー装備の修理・修繕」とある。


まさか、こんな田舎にあるだなんて。

とはいえ、背に腹は変えられない。



「ほいじゃ、まずはゴールド重工に向かいましょう!」

「はい、スカーレットさん!」



ひとまずの行き先が決まり、二人はバルチャー号に飛び乗った。

そしてアズマがスカーレットにしっかりと捕まると、スカーレットはバルチャー号のエンジンを回し、発進させる。



「行けーっ!ゴーゴーゴー!!」



スカーレットのはしゃぐ声とエンジン音。

そして、ラーメン屋のすぐ前に見える、夏の海の波音が、人気の少ない海沿いの道路に響いていた。

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