第3話見惚れる笑顔

「──すかっ?──ぶですか、大丈夫ですか?きょう、やくんっ」

 必死に容態を確認しながら呼び掛ける声が次第にはっきり聞き取れたと同時に意識を取り戻した俺。

 瞼を上げると視界には横から見覚えのある可愛い顔が覗いていた。セミロングの艶々した黒髪が垂れ下がり、毛先が顔に当たりそうだった。


「えぇっと、此処は......」

「保健室です。いきなり倒れたと運んできた男子が言ってました。......珍しいですね、きょうやくんが運ばれてくるだなんて......驚きました、私」

 女子生徒は返答し、二度も俺を苗字ではなく名前で呼んでくれた。

「そうですか......教えてくれてありがとう、ございます。珍しいってほどでも......安住さんに憶えてもらっていただなんて、嬉しいです。それに......名前で呼んでもらえてる」

「......はぅっ!ごごっめんなさいっ!私なんかが名前で呼んでしまって、本当にごめんなさいっ!」

 ものすごい勢いでぶんぶん身体を縦に振って謝る彼女。

「あははっ、ごっごめんなさいっ!名前呼びに気付いたときの声が可愛いなって思って......私なんか、じゃなくて......安住さんに呼んでもらえたことがうれしいんだよ。ありがとう、心配までしてくれて」

 可愛い声をあげた彼女に思わず笑い声が吹き出した俺に、彼女は不安が込み上げ泣き出しそうな顔になり震えだした。

 俺は彼女の様子に気付き、誤解させまいと謝り感謝を告げた。


「......ありが、とうござっ......いますっ。きょ、那珂瀬くんにそう言ってもら......えて、嬉しいです......」

 身体の震えがおさまり、照れながら小声で返答した彼女。


 入学以降の今日まで拝められなかった彼女──の笑顔は、どの女性の笑顔よりも眩しく輝き、魅力的でますます見惚れてしまうほど惹き付けられ、可愛かった。





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