第2話初めての感覚

「那珂瀬っ!ちょっと──」

 友人の一人である谷雲に背後から呼び止められ、足を止めた俺。

「どうしたの?」

「どうしたって......さっきの悲鳴が聞こえなかったのか?悩みがあるのかもしれないけど、那珂瀬に頼みたいんだけど......良いか?」

 彼の強張る表情がフッと呆れた表情にかわり、ため息を吐いたかと思えば強張る表情に戻り、念を押すように訊いてきた。

「良いけど......」

「なら──」

 彼が緊迫感を含ませた声音で続けた言葉に絶句し、その場に立ち尽くした俺だった。


 誰かの叫び声が遠くから聞こえている。耳もとで叫んでいるようにも感じる。視界がぐわんぐわん揺れ、周囲の物音や生物が発する声が異空間での雑音かの如く感じた。


「──ぶかっ──っ!──じょ──せっ!──っ!」


 断片的に聞こえる声は、聞き馴染みのある声──


 ──誰だっただろう......えぇっと、ああぁ......暖かいなぁ。


 ──この感覚......は何だろう?


 周囲が真っ白な空間に一人、海で溺れているかのように水中に沈んで呼吸が出来ない感覚の俺──がいた。

 懸命に腕を伸ばし、水面に顔を出すように足掻いてもがくが──現実に引き寄せられず、真っ白な空間に漂い続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る