第12話 魔道士
クラン、ローズガーデンは大きかったです。
私が魔道士だと言うとケイトさんは営業スマイルを顔に纏う。
各施設を周って説明してくれました。
申し分のない環境ではあると思います。
断る理由を考えるのが難しいほど。
けれど、今はカウスと組んでいます。
そのことを話すと、意外やそんな娘も少なくないそう。
宿屋代わりにここを利用することも出来る。
現にそうしている娘も多いらしいです。
それではクランに所属する意味はなんだろう。
それについて、ケイトさんはこう説明しました。
"クランに所属する以上、クランの意向には従って貰います。探し物や、素材集めなど、クラン内での助け合いに協力が求められる。クラン内で発生する仕事も斡旋できる。これは強制ではないが、指名して仕事を割り振ることもある。嫌なら拒否しても構わない。クランの仕事専門に請け負う者もいるそうだ。そして、クランに籍を置くと一定の費用を払う義務を負う。逆に何らかの形で資金的な援助を受ける事も可能となる。"
魅力的な組織に見えます。
勧誘する際にメリットを並べたてるのは常套手段です。
「メレメちゃんは魔道士なのよね、なら魔道士のお友達も出来ていいんじゃないかしら? 」
魔道士のお友達! それは期待してませんでした。
魔法談義に華を咲かせるなんて、素敵過ぎます。
私はその言葉に心を鷲掴みにされてしまいました。
クランの活動費として、毎月定額を支払うか毎日の収入の一定の割合を払うか選択出来るそうだが、勧められるまま、収入の一定の割合を払うようにしました。
部屋も空きがあるからと、早速案内されました。
宿屋の部屋を引き払ってお引越しですね。
敷地の外で待たしていたカウスのことなどすっかり忘れていました。
「もう帰って来ないかと思ったよ…… 」
カウスにそう言われてしまった。
謝ったら許してくれました。
宿屋に帰る道すがら、クランに籍を置く事にしたと報告しました。
部屋も用意してくれると言うので、宿屋の部屋は引き払う事にしたとも。
カウスは意外そうな顔をしたが、文句を言うでもなく、了承してくれました。
朝はクランまで迎えに来てくれるそう。
午後、荷物を持って再びクランを訪れました。
ケイトさんは朝と同じところにいました。
部屋もあさに案内されたところでした。
今度は部屋の鍵を渡される。
平日の午後、部屋にいる冒険者は多くはないでしょう。
普通なら仕事をしている時間ですし。
昨日、あんな事がなければ、私も仕事に行っていたでしょうから。
女をいたぶる馬鹿が一人減っただけの話。
なんの問題もないでしょう。
そんなことより、ここはきっと元は貴族とか身分の高い人の屋敷だったに違いありません。窓にはガラスが嵌めてある。
照明は、ロウソクみたい。
持って来た魔道具に替えてもいいかもしれませんね。
部屋にはベッドに机に椅子、壁には棚と洋服や防具をしまうクローゼットのような空間もあります。
宿屋の部屋より使い勝手は良さそう。
ーーーガラッ!
勢い良く扉が空いきます。
「ねっ、あなた、魔道士なの? 」
見ると、私のような地味な服を着た女性。
年は20代前半に見えます。
「え、 あ、 そうです…… 」
「良かった! 私、アネルダよ、よろしくね!」
手を差し出してきたので、その手を握りました。
嬉しそうな顔でその手をブンブンと上下に揺らしてくる。
「メレメです…… 」
そのあと、年や属性や出身など矢継ぎ早に質問される。男の人と徒党(パーティ)を組んでいると話すと、残念そうな顔をしました。
ラギャルドの街から来たというと、大賢者マテリエーヌの話になりました。言われるとは思ったが、やはりです。
直接見たことも無いからと、通りいっぺんの評判をなぞったことしか言いませんでした。
彼女はここに来て1年も、経ってないと言います。
クランマスターのジュリアンカのことを話してくれました。
初めて聞いた名前。
ジュリアンカはどこぞの貴族の娘らしいです。
アチューラや他の数人の冒険者と共にこのクランを設立したそう。
十数年前のことというから、比較的新しいクランのようですね。
他の魔道士の話になると、このクランには100名近い女性冒険者が登録しているうち、魔道士は20名ほどしかいないそう。
思ったよりは多かった、そんな印象でした。
ただ、そのうち数名は魔法の研究に没頭しており、魔導ギルドでも名の通った人物だそう。
「魔導ギルド? 」
「知らない? 」
私は頷くしかありません。
魔導ギルドは冒険者ギルドや他のギルドほど支所も多くないそう。そもそも魔法を使える者が多くないのだから、仕方が無いですね。
一口に魔法と言っても攻撃魔法ばかりではなく。土地を墾したり穴を掘ったり溝を掘る土魔法の研究は農業や騎士団においても評価されています。錬金ギルドや薬師とも提携しており、入っておけば良い事ばかりだと勧められました。
「魔道書が割り引き価格で買えるから、それだけでも元は取れると思うわ 」
ここで、"考えとく" と、適当な返事をしてもまたすぐ勧められそうだったので、今度連れてって貰う事にしました。
アネルダはもう自分が、世話役だと言わんばかりに私の世話を焼きたがりました。
嫌われるよりはいいが、気に入られるのも良し悪しな気がしますが。
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