第13話 果てまで
夕食どきになると、食堂で配膳の手伝いをして顔を覚えてもらうのが、新入りの役目らしいです。
そうアネルダさんに言われて、私は重ねて置いてあるトレーの脇に立ち、それを渡す係をやっています。
仕事から帰ってきた人達は、そのままここへ来るらしく、ひっきりなしに人が来ました。
私はトレイを渡します。
するとその度に、名前や歳、職を聞かれます。
頭を撫でられたり、部屋の場所を聞かれたり、休む間もない。
そして、見覚えのある顔が来ました。
「お前、入ったのか? 」
「はい、メレメです、宜しくお願いします」
アチューラさんです。
頭をガシガシと撫でられました。
「そいえば、ガンレス達の斥候がドジ踏んだようで、姿が見えないんだよ、 お前、やったのか? 」
「ええと、 ガンレスって……? 」
「お前のことからかってた3人組の親玉だよ 」
ピンときました。
殺ったのは私。
「ああ、 ……きっと、殺りましたね 」
「本当か? なんだい、見込みあるじゃないか! アハハハ! 」
豪快に笑うアチューラが、私が斥候を殺したと言いふらして回ってしまいました。
結果、殺しも厭わぬ冷酷な魔道士と、私は評判に。
事実だから、別に構わないですけど。
ある程度、人が途切れてきたところで、テーブルに戻って料理をいただきました。
数人の魔道士仲間と共にアネルダさんが、待っていてくれました。
その夜、アネルダさんに連れられて湯浴み場へと向かいました。
大きな広い湯浴み場は、まるで日本の大衆浴場のよう。
残念ながら、浴槽はなかったです。
壁際に半切りの木の樽のが等間隔に並べて置いてあります。
そこから湯を汲み体にかけて流す。
宿屋の湯浴み場もそうでした。
アネルダさんが、髪や背中も洗ってくれました。
私のことを妹か何かと勘違いしているような。
その夜、アネルダさんが、魔道士仲間と共にささやかな歓迎会らしきものを開いてくれました。
大人数の中は慣れないもので、緊張していたらしく、どっと疲れたところでしたのに。
眠くて断りたかったが、仕方なくついて行きました。
知らない人の部屋が会場代わりらしく。
古株のオーラさんの部屋だそうで、応接間が別にある広い間取りになっていました。
急遽用意したからと、言い訳がましい事を口にしていたが、それでも大皿料理が3つ、テーブルに並んでいました。
そして、お酒。
この世界のお酒は葡萄酒に似たものと、ぬるくて不味いピールみたいな黄色の2種あります。
コップに注がれたのは葡萄酒の方でした。
独特の酸味のあるお酒でした。
土魔法のミンミンさん、風魔法のクウシャさん、火魔法のアネルダさん、オーラさんは、闇魔法使いだそうだ。私は水属性だと話しておきました。
和やかな雰囲気の歓迎会でした。
私は眠さに負けて途中でウトウトしてしまい。
ーーー!
変なところから、変な感じがして、目が覚めました。
「あんら、仔猫ちゃん、目が覚めちゃったかしら? 」
「メレメちゃん、可愛いわよぉ……」
状況が、よく飲み込めないです。
私の口はオーラさんによって塞がれてしまいました。
なぜ、2人は裸なのか、どうしてベッドにいるのか、私の服は何処へいってしまったのか、何も分かりません。
ただ、オーラさんのキスはとても上手で、私の下半身に顔を埋めるアネルダさんとの2人がかりで、私は快楽の果てに連れて行かれてしまいました。
こんなの酷い、酷過ぎると、泣くほど私も子供ではありませんが、この2人は危険ですね。
とても太刀打ち出来そうにありません。
誘われたら、またついていってしまいそう。
いやとか、嫌いとかではなく。
気持ちも気分も、良くて仕方がないので。
そう思わせるほどの腕前の持ち主。
それが2人も。
対抗するなど、望むべくもないです。
逃げ出すぐらいしか、手段は残されていないでしょう。
気怠く、心地よい疲労感を纏いながら、髪を梳かしてもらい、部屋へと戻りました。
1日目から朝帰りとは先が思いやられます。
アネルダさんも、変にベタベタしてこない絶妙な距離感を保っています。
カウスが、迎えに来るからと言い訳して、朝食を済ませると早めに建物をあとにしました。
若干、体に違和感があるが、大丈夫でしょう。
原因は分っていますから。
誰にも言えないです。
相談するのも不可。
これは極めてプライベートな案件ですので。
カウスは、既に門番の人と話をしながら待っていました。
やはり、人受けの良さそうな見た目通りの実力を発揮しています。
この女ったらしめ。
羨ましいです。
一度でいいから、こんな見た目に生まれたかった。
そんな美青年のカウスが私を気遣ってくれました。
「疲れてない? 」
なぜ分かるの?
「全然、大丈夫だから…… 」
「そう? ならいいけど…… 」
ハンと母親が待つギルド前へと向かいます。
と、後ろからアチューラさんが、追いかけてきました。
「メレメ! 待ちなよ、クランの登録するぞ! 」
追いついたと思えば頭をガシガシされました。
「よお、美少年! お前ら出来てんのか? 」
「いえ、それは…… 」
私の顔を見るカウス。
なぜ、即答しないの?
「いえ、お仕事だけのお付き合いです 」
「おっ、そーか、 なら美少年、アタシと付き合うか? 」
「はあ!? 」
変な声をあげた私に、アチューメントさんはカウスを抱えて遠ざけます。
「仕事だけの付き合いなんだろ? 」
「………はい 」
渋々了承します。
なぜか、晴れ晴れしない気分。
カウスはアチューラさんに肩を抱かれながら、ギルドまで連れて行かれるように歩いてました。
混み合うギルドでしたが、アチューラさんの前だけは不思議と空く。
何かのスキルかしら。
「クラン、ローズガーデンに登録完了しました 」
預けた身分証が、戻ってきました。
新たにクランについてが刻印されています。
パーティ名のカウスとメレメも刻印されており、身分証は賑やかです。
なぜ、こんな名前にしたのか、カウスに聞こうと思っていたのを、いま、思い出しました。
しかし、今ではないだろうと、飲み込んでしまいました。
「クラン費の支払いはどっちにした? 」
「収入毎にです…… 」
「まあ、その方が気楽でいいかも、な…… 」
アチューラさんは何か含みがあるような言い方が気になります。クラン費の払い方は二通りあって、毎年金貨1枚大銀貨2枚か、収入毎に1割払うかのどちらか。
どちらか得かは分かりません。
勧められるままにそちらを選んだだけです。
用は済んだとアチューラさんは、カウスに愛想を振りまいて去っていきました。
彼の前だけで女の顔を見せるアチューラさん。
本当に彼のことが気に入ったのでしょうか。
露骨に拒否しないカウスもどうかと思う。
「嫌なら嫌って言った方が良くない? 」
「本気じゃないと思うよ? 」
「冗談で胸グリグリ押し付けるかしら? 」
「防具の硬い感触しかなかったよ 」
「………。」
嫉妬していると思われるのも嫌なので、それ以上は何も言いませんでした。
カウスの機嫌が良さそうなのが、何故か妙に気に障ってしようがなかったのは内緒です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。