第11話 クラン
そんな感じで殆ど毎日、森へ行っては魔物を仕留めて帰ってくるを繰り返しました。
それが仕事なのだから、当たり前だと思っていました。
そんなある日。
「おい、お前ら、ちょっと待てよ 」
森から出る前に進路を塞ぐ冒険者たちがいました。
ハンと母親が身を固くする。
相手は男が5人。
「いい気になって人の狩り場を荒らしてるよそ者ってのはお前らか? 」
完全に妬み嫉みの言い掛かり。
獲物を寄越せとか言いだすに違いない。
「誰の狩り場だったんだろうか? 」
カウスはとぼけた事を言い出す。
「ばーか、俺のだよ、誰でも知ってんぞ 」
「じゃ、なんで魔物が放し飼いみたくウヨウヨしてるんだい? 間引くのも出来ないのか? 」
「あ? 何言ってやがる、 お前らが後から来て勝手に持って行っちまう泥棒野郎に違わねぇだろうが? 」
「泥棒ならギルドか街の騎士団に告発するべきだと、思うけどな 」
「なに、俺は心が広いんでな、示談にしてやろうって言ってんだよ 」
"親方に感謝しろよ!" と、勢いづいているのはいつぞやの3人組。親方に泣きついたのか。3人とも鬱憤を晴らすような清清しい笑顔をしている。まるで人生最良の日を迎えたかのよう。
「きゃっ! 」
急に後ろから誰かに抱きつかれました。
むっとする汗の臭いと、くっさい息が顔にかかります。
「大人しくしろよ、可愛いお顔がズタズタになっちまうぜ、 えへへへ…… 」
男は私の目の前で短剣をヒラヒラさせました。
身を固くする私の体を空いた方の手でまさぐってきます。
ーーー!
私は身がすくんでしまう。
咄嗟に体は動かない。
悲しいかな戦闘民族でもないただの一般人はこの程度です。
剥き身の刃を目の前には突きつけられ、とたんに反撃できるような訓練など、受けたこともなければ、したこともありません。
ムニュリと胸を触ってきた。
「荷物とその女を置いてけ、 下手な真似すりゃ、女が可哀想な目にあうだけだぜ、 うへへへ……」
「くっ…… 」
カウスも手出し出来ずに悔しそうな顔をして、私の方を見てきます。
調子に乗った男が、襟元から手を差し入れてきた。
「イヤーーー! 」
ーーーズボッ!!
「 !!! 」
私は、悲鳴をあげた。
咄嗟に心に強い殺意が湧く。
私を手慰みに触ってきた男は、地面から生えた木の幹ほどの太さの氷の槍に貫かれ地から足が浮いていた。
股下から入った氷の槍は、首の後ろから背中側に抜けています。
ボタボタと、血が土に滴り落ちる。
何かを訴えるように開いた口からも血が垂れている。目は大きく見開かれているが、見る見る間に生気が失くなっていきました。
地から足が離れたときから呼吸などしていませんでした。
「ふざけたことしてくる男は全員、こうなるから! 」
私は怒りに任せて声を上げる。
"親方" と呼ばれた男を睨みつけます。
「メレメ、全員はまずい 」
「うるさい、 アタシを怒らした奴が悪い! 次はお前? 」
「ひっ! 」
私が、一歩踏み出すと、親方が一歩退いた。
「死にたいヤツだけ、ここに残れ! 」
「やべーぞ、コイツ! 」
「逃げろ! 」
「お、お助けー! 」
男達は一斉に逃げ出した。
私達4人と、死体が一つ残った。
「凄いよ、良くやったね 」
沈黙のなか、はじめにハンの母親が口を開いた。
世間話でもするかのような口ぶりで言います。
"さっさと、埋めちまえばいいのさ" とハンに穴を掘るよう指示する。
"それが、一番かもね" とカウスも手伝って、死んだ男を穴に埋めはじめました。
「ごめん、やりすぎた…… 」
カウスに謝りの言葉を告げると、"大丈夫だよ" と言ってくれた。
あのまま言いなりになっていたら、私が被害者になっていたでしょう。
全員はやり過ぎだが、一人ぐらいは見せしめにするのは、仕方ないと言って慰めてくれました。
死んだ男の身につけていた防具や剣はハンの母親が処分するそう。
怪しまれずに金に変えられるルートでも知っているのでしょう。
その日はそのまま、魔物の素材を換金して、宿に戻りました。
次の日は休みになった。
カウスがそうした方がいいと言うから。
休みの日は部屋に閉じ籠っていようと思ったら、カウスに外に連れ出されてしまう。
「前にアチューラとか言う女の人が言ってたよね、女だけの同盟(クラン)があるって 」
「あー、いたかも…… 」
「メレメだけでもクランに籍を置いたらどうかと思うんだけどさ、見に行かないか? 」
「クラン? 」
「そう、たぶん、男は入れてくれないとは思うけど…… 」
本当に女だけならカウスは敷地にも入れて貰えないだろう。
場所は調べたのか、知っているそう。
見るだけならと、私も反対しなかった。
別にクランに入らなくても自分の身は自分で守れる。そう言うと、ハンやハンの母親にも迷惑かける事になるとカウスは言います。
クランに所属していれば、そんな事をしてくる者自体が減るはずだと言われたら、反論出来ないじゃない。
「この建物っぽいね…… 」
大きな屋敷ばかりが建つエリアにそれはありました。
正面に回り込むと、立ち話をしてる2人の女性が入口のところにいます。
「あの…、前にアチューラさんに声を掛けられたことがあって…… 」
「ん、そうなの? ここがクラン、ローズガーデンよ 男は入れないから彼氏はここで待ってる? 」
カウスは彼氏でも何でもない。
いちいち本人のまえで否定するのも大人げないからしないが、本人は分かっているはず。
カウスは帰り道が心配だから待つそうです。
私としては子供扱いされるのは心外なのだけど。
門番だった人は一人は入口に残り、一人は私を建物へと案内してくれます。
「ケイト! 加入希望者1名よ 」
まるでバイトの面接のようなのりで、私はケイトと呼ばれる女性のいる部屋に通されました。
建物入って大きなロビーに、ついたてで囲まれた部屋とも呼べないスペースに彼女はいました。
机にかじりつき、書き物に夢中のよう。
「え〜と、ちょっと待ってね…… もうちょっとだからね…… 」
カリカリと羽根ペンの音が続きます。
「ふう……、今月もギリギリ黒字死守できたわ…… 」
ひょっとして彼女が書き込んでいたのは帳簿らしいです。
机の上にある呼び鈴をチリンと鳴らすと、メイド服を着た女性が現れました。
「これ、インクが乾いたら棚に戻して貰えるかしら? 」
「はい、確かに 」
ケイトさんは、私に向き直った。
「お名前は? 」
私は幼稚園児かな。
「メレメです 」
「メレメちゃんね、冒険者じゃないと、クランは、入れないのよ、身分証はあるかしら? 」
だから、私は幼稚園児ではないというのに。
仕方なく襟元から身分証のついた首輪を出して見せました。
"誰かの紹介かしら?" と聞くのでアチューラさんに声を掛けられたのだと説明しました。
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