第10話 森の魔物


「可愛いけど、カウスって子供好きだったの?」


 次の朝、カウスが連れて来た運び屋は子供でした。

 見た目は10歳ぐらいの男の子。

 

「いや、みんな断られちゃってさ……」 


 彼が言うには2人だけの徒党(パーティ)についてくる運び屋は子供位しか居なかったそう。

 他は4〜5人で森に入るのだから、敬遠するのも分からないではないですが。

 古びた馬車にくたびれたロバ、それをひく男の子。料金は幾らか安いが、明らかにハズレと言わざるを得ませんね。

 

「大丈夫さ、こう見えても仕事はきっちりやる主義だぜ、早い、安い、上手いが俺のモットーでさぁ…… 」


 どこかで聞いたようなフレーズを言う男の子。

 名前を "ハン" と言いました。

 口だけは一人前な運び屋を連れて森に入る。

 カウスが昨日聞いてきた話しによると、ファイヤーフォックスが、目撃されたそう。

 毛皮がとても高価で有名らしく、故に取り尽くされたと思われていたらしいです。


「ファイヤーフォックス…… 」


 〈魔眼〉で森の中を探す。

 他の魔物もいるが、高価かどうかは分からない。ファイヤーフォックスが遠くに見えたのは、昼近くになってからでした。

 カウスにはファイヤーフォックス狙いと言ってあるが、後ろをついてくる運び屋さんは、"今日はボウズてすかい?" と、気が気でない様子でした。

 基本料のほか、積荷が増えればその分、追加料金が発生するシステムだと聞いていました。

 慎重に狙いをつける。

 遠過ぎてなかなか上手くいかない。

 一度でも仕損じれば逃げられてしまいそう。


「ごめん、一人だけでちょっと行かせて……」


 カウスが、"あまり遠くには行くな" と声をかけてきます。

 カウスとハンを、残して私は足音をひそめて森の中を歩きました。

 ファイヤーフォックスが耳をこちらに向けて警戒しているのが分かります。

 ここまで近づければ、私の勝ち。

 毛皮が高いと、聞きました。

 ウサギよりは大きいからアイスニードルは3本に増やそう。いや、外した時の為に更に3本用意しておこう。

 合計六本のアイスニードルが空中に出現します。

 と、途端にファイヤーフォックスが逃げ出した。

 なるほど、捕まらないわけですね。

 魔力でも感知するのだろうか。

 慌ててアイスニードルを放つような事はしませんから。

 数メートルだけ移動したファイヤーフォックスはスピードをゆっくりにして歩き出しました。

 一度、霧散させた魔力を再びアイスニードルの形にする。

 今度は感づかれないよう数メートル上空にした。数も増やしたりして。


ーーークイ


 上に向けた指を下に下げます。

 1射目、2本、外しました。

 ファイヤーフォックスの右横と前の地面につきささる。

 見えぬ敵からの攻撃に身構える、ファイヤーフォックス。

 既に2射目を放ってある。

 2本の片方はファイヤーフォックスの左頬をがすり、もう片方は右足を貫きました。

 やった。

 これで素早い動きを封じれる。

 前足を引き摺りながら左後ろに逃げるファイヤーフォックス。

 3射目、3本は頭にめがけて放つ。

 そのうち1本が見事、頭を貫きました。


「やったぁ! 」


 小躍りして独りで喜んだ。

 カウスとハンを呼び寄せ、一緒にファイヤーフォックスのところまで行きます。


「こいつが、ファイヤーフォックス…… 」


「凄え! 姐さん、一生ついていきます! 」


 ハンは何か勘違いしてるのではないだろうか。

 穴を掘って血抜きをして、馬車に乗せ、次を探す。

 結局、その日は、フォレストウルフを2匹、ホーンラビット3匹、ファイヤーフォックス一匹を持って、買い取り窓口へ出しました。

 合わせて金貨4枚の売上となります。

 ハンには銀貨2枚を追加で払いました。

 高いか安いか私には分からない。

 喜んでいたので思ったより良かったらしいですね。

 明日は凄腕解体屋も連れてくると言っていました。

 カウスとは山分けする約束になっています。

 カウスが申し訳なさそうな顔をして金を受け取る。

 お金で揉めるのは嫌いだからと、私は取り分を貰うとさっさと自室に戻りました。

 お金は怖い。

 前世でそれを嫌と言うほど味わいました。

 気に入らない程度の仲違いでは、殺してやるとは普通ならないが、お金が絡むと途端に物騒な話になるものです。

 なので、私はお金で揉めると思ったら途端に手を引く。

 カウスにそこまで説明する気もないので、変わった女位に思っているかもしれない。


 翌朝、ハンが連れて来たのは片目、片腕の母親でした。

 凄腕の解体屋さんとは母親のことだった。

 これで、帰れと言える人がいるでしょうか。

 母親は息子が世話になったと何度も頭を下げる。解体の腕は確かだからお願いしますと、親子して頭を下げてきました。

 カウスも苦笑いするしかない。

 私のことを年端も行かないカウスの妹位に思ったのか、飴ちゃんをくれてよこしてきました。

 関西マダム、ここにもいた。

 飴と言ってもこの世界の飴は甘くもなんともないものです。

 しかし、子供は空腹を紛らわすように大人から貰って舐めているのをよく見かけます。一体何から出来ているのだろう。

 飴はハンにあげました。

 断る訳にも行かず、料金を払って4人で森へ向かう。

 先が思いやられますね。

 気を取り直して、近くにいた手頃なホーンラビットなどを仕留めていく。

 フォレストウルフも2匹で見つけた。昼近くには、少し先にクローベアーがいるのを見つけました。

 あまり魔法ばかりで仕留めるのもどうかと思い、足と腕を片方ずつアイスランスで痛めつけてから、とどめはカウスにお願いしました。

 首元へ電光石火の突きが決まりクローベアーはもんどり打って倒れる。

 カウスも、それなりに強かったらしいです。

 少し見直した。

 少しだけね。

クローベアーの解体はハン親子に任せました。

 二人で協力して大きな巨体を手際よく捌いていく。内臓だけは穴を掘って埋めてもいいそうです。馬車に乗りやすいように手足から毛皮を外して切り落としていました。

 毛皮の価値を損ねないようにして捌くのは簡単に出来ることではない。

 その日は、稼ぎこそ昨日より少なかったが、ファイヤーフォックスが希少価値があったから特別高かっただけでしょう。

 今日辺りが普通なのだと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る